ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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憧れの聖女様

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 顔をフードで隠し、白いローブを身に纏っている少女がこの場に現れる。
 すると周囲の者達が一段と騒ぎ始めた。

「レリシア様だ! レリシア様が来て下さったぞ!」
「レリシアさまぁぁ!」
「まさか聖女であるレリシア様が来て下さるなんて」

 すごい熱狂ぶりだな。自分の推しのアイドルに会ったかのようだ。
 しかしどれだけ歓声を送っても彼女の行く手を阻む者はなく、人波が割れて彼女が通る先には誰もいない。  

 彼女はレリシア・ウィル・テスラ・ルミナス。教会に属している聖女である。
 なぜ彼女が聖女と呼ばれているのか⋯⋯それは名前からもわかるように彼女は貴族であり、これまで彼女の家は貧しい者達に対して多大な寄付を行っていたからだ。そして本人もこうして炊き出しを手伝いに現れるため、いつしか彼女は聖女と呼ばれるようになったのだ。しかし彼女が聖女と呼ばれる理由はそれだけではない。
 彼女は光、闇、火、水、土、風の六つの精霊魔法のうち、光魔法、特に回復魔法が得意で、これまで数多くの者を癒してきた実績がある。
 特に火事が起きた教会で、彼女が自分の身を顧みず、火の中に飛び込んで子供を救い、やけどを負った子供を癒した話は有名だ。
 そのため彼女はこの王都で絶大な人気を誇る。

「レリシア様⋯⋯彼女の行いは常に正しく、規律を重んじる姿は私の憧れです」

 リーゼロッテはうっとりした表情でレリシアを見つめている。どうやら彼女はレリシアのファンのようだ。

「まあでも、常に正しく生きるのは疲れそうだけどな」
「私達は知性がある人間です。獣とは違うのですから規律を守るのは当たり前では?」
「そうかもしれないけど、あれこれ考える人間だからこそ、息抜きも必要なんじゃないか?」
「息抜きばかりしている人もいますけどね」

 リーゼロッテから冷ややかな視線を感じる。
 まさか俺のことを言ってるわけじゃないよな? たぶん偶然こっちを見ているだけだと思いたい。

「と、とにかくレリシアも色々大変なんだ。その理想を押し付けるようなことはするなよ」
「えっ? 何故あなたがそのようなことを言うのですか? それにレリシア様を呼び捨てにするなんて無礼ですよ」

 思わずいつもと同じように呼んでしまった。
 そのせいでリーゼロッテから鋭い視線が向けられてしまったぞ。

「いいですか。ユクトも少しはレリシア様を見習って――」

 やれやれ。リーゼロッテの説教が始まってしまったぞ。正直こんな所でやめてほしいんだが。まあこんな所じゃなくてもやめてほしいが。
 だが俺の願いが叶ったのか、予想外の⋯⋯いや、予想通りの人物がリーゼロッテの説教を止めてくれた。

「昼から酒を飲むのではなく、民のために役に立つ仕事を⋯⋯あわわっ!」

 突然リーゼロッテの言葉が止まり、狼狽え始めた。

「ユ、ユクト⋯⋯リーゼロッテ様が私のことを見たぞ」

 レリシアはここにいる人達全員に向かって目線を向けている。だけど今だけは確かにレリシアの視線はこちらに向いていた。
 そして何を考えているのか、レリシアは近づいて話しかけてきた。

「ユクト様⋯⋯いつも炊き出しのお手伝いして頂き、ありがとうございます」
「レリシア⋯⋯あ~⋯⋯レリシア様もお忙しい中、貧しい者達のためにありがとうございます」
「いえ、わたくしは好きでしていることですから。皆様が少しでも幸せに暮らしていくことが出来るのであれば、私は何でも致します」

 さすがは聖女様だ。模範的な解答だな。
 今の言葉によってますますファンが増えそうだ。
 隣にいる騎士団員のように。 
 リーゼロッテはレリシアを崇敬の目差しで見ている。
 そういえばレリシアに頼みたいことがあったからちょうど良かった。
 俺はザジの肩に手を置き口を開いた。

「レリシア様、ここにいる者達は親がなく、子供達だけで暮らしています。どうか孤児院で暮らせるように手配して頂けないでしょうか」
「承知しました。この子供達が今日から孤児院に行けるように手配致します」

 レリシアが護衛達に視線を送る。すると護衛の一人がこの場から離れ、どこかに行ってしまった。
 おそらく受け入れ先の孤児院へと向かったのだろう。
 さすが聖女様だな。対応が早い。

「大変でしたね。ですがこれからは安心して暮らせますから」

 レリシアは膝をつき、目線を子供達へと合わせる。

「迷える子羊達に女神の加護があらんことを」

 そして祈りの言葉を発しながら、子供達を一人一人抱きしめた。

「わ、私達⋯⋯ちゃんとした家に住めるの?」
「はい」
「飯の心配もしなくていいのか?」
「これから毎日御飯が食べられるようになりますよ」
「やったあ!」

 子供達は家や御飯が用意されることがわかりはしゃぐ。
 盗みをしなくては生きていけなかったんだ。その喜びはひとしおだろう。
 俺は目的の一つを終わらせることが出来て安堵する。

「聖女様、そろそろお時間です」
「承知しました。ではユクト様、また後ほど」

 レリシアは護衛の言葉を聞いて、こちらに頭を下げる。そして炊き出しをするテントへと向かうのであった。
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