ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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仕事の後の一杯は最高だ

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「さてと⋯⋯それじゃあ君達は⋯⋯」
「ちょっと待って下さい!」

 俺は子供達に炊き出しの手伝いを指示しようとするが、リーゼロッテに止められてしまった。

「ユクトはレリシア様と知り合いなのですか!」
「あっ⋯⋯ああ⋯⋯昔から炊き出しを手伝ってたからな」
「羨ましいです⋯⋯私もレリシア様とお近づきになりたいです。ですがお仕事の邪魔はしたくはないですし、そもそも私ごときがレリシア様とお話しをする資格など⋯⋯」

 何やら一人で苦悩しているようだ。どうやらリーゼロッテのレリシア好きは俺の想像を越えているようだ。

「やれやれ。次に会った時に紹介してやろうか?」
「本当ですか! ありがとうございます!」

 リーゼロッテは興奮した様子でこちらに詰め寄り、嬉しそうに俺の両手を握ってきた。
 何だか初めて笑った顔を見た気がする。三日間機嫌が悪かったリーゼロッテを笑顔にするなんて、恐るべしレリシアって感じだな。

「それでは当初の予定通り、炊き出しのお手伝いをしましょう。ザジとラグとドクは整列の手伝いを。ミーアは私と食べ物の配膳をしますよ」

 初めての仕事だからか、それともレリシアと会うことが出来るからか、はたまたその両方なのかわからないが、リーゼロッテは張り切って炊き出しの手伝いに向かうのであった。

 さて、子供達とリーゼロッテがいることで、炊き出しに必要な人数は揃った。
 今日は暖かい陽射しが降り注いでおり、絶好の昼寝日和と言えよう。
 周囲は多少騒がしいが、その程度の雑音で俺の眠気を遮ることなど出来やしない。

 俺は暖かい陽射しを一番受けることが出来る屋根へと上る。
 そして炊き出しをしているリーゼロッテやレリシアを横目に寝っ転がるのであった。

「ユクト⋯⋯ユクト!」

 突然身体が揺すられ、大きな声が聞こえて来た。
 そのため、俺はゆっくりと瞼を開く。すると直ぐ側にリーゼロッテの姿が目に入った。

「大丈夫。寝てないよ。目を閉じていただけだ」
「それって寝ている人が言うセリフですよね」

 リーゼロッテは呆れた声で俺を見下ろす。
 どうやらさっきの笑みはどこかに行ってしまったようだ。

「それよりレリシア様や子供達はどうした?」

 周囲を見渡すと、そろそろ夕陽が辺りを照らす時間になっており、人もほとんどいなくなっていた。

「やっぱり寝ていましたね。子供達はレリシア様と孤児院に行かれました」
「そうなんだ。それじゃあ俺達も帰るとするか」
「人を働かせておいて自分は昼寝ですか。良い身分ですね」
「ギルドマスターは偉いからな」
「た、確かにそのとおりかもしれませんが、ユクトも少しは働いて下さい」
「俺はみんながしっかり働いているか監督する仕事をしていたぞ」
「寝ていただけじゃないですか!」

 怒られてしまった。俺⋯⋯ギルドマスターなのに。

  「もういいです。それより早くギルドに戻りましょう」 
「そうだな。今日は疲れたし、早く帰ろう」
「ユクトは何もしてないでしょ! はあ⋯⋯はあ⋯⋯」

 肩で息をしているよ。

「それにしてもリーゼロッテは中々ツッコミ属性があるじゃないか。真面目な騎士だと思っていたけどその考えは撤回しよう」
「ユクトと話していると疲れます。もう何でもいいから早く帰りましょう」

 二人の意見が一致したので、俺達は帰路に就く。
 そしてギルドに到着すると、なぜか入口の所にルイ姉がいた。

「ただいま戻りました」
「ルイ姉何やってるの?」

 俺とリーゼロッテが声をかけるとルイ姉は困った表情をこちらに向ける。

「ドアが壊れちゃったの。一ヶ月前に修理したばかりなのに」
「そ、そうなんだ」

 俺はルイ姉の言葉に苦笑いを浮かべた。
 。出費がかさむなあ。

「でもお姉ちゃん頑張って治すよ。修理道具を取ってくるね」
「ちょっと待った!」

 ルイ姉は修理道具を取りに向かうためギルドに入ろうとしたが、俺は慌てて止めた。
 修理なんてに出来るわけがない。これ以上ギルドを壊されてたまるか。

「ここは俺がやっておくから、初仕事で頑張ったリーゼロッテに紅茶を入れてあげてほしいな」
「うんわかった。それじゃあユクトちゃんお願いね」

 ルイ姉は俺の願いを聞いてくれて、リーゼロッテと共にギルドの中へと向かう。

 ふう⋯⋯これでこれ以上ドアを壊されずに済む。俺は安堵のため息をつく。
 そして俺もギルドの中へと入り、修理道具を持ってドアの修繕作業を行うのであった。

 ドアを修理した後。俺はエールを持ってテーブルに座る。
 この仕事の後の一杯がたまらないんだよな。
 ドアの修繕という最重要任務を遂行した俺に、酒を飲むなと言う者はいないだろう。
 俺は手に持ったエールのグラスを傾け、一気に口の中に入れる。
 麦やホップの味が舌を刺激し、深いコクが喉越しを駆け抜けて行く。

「くうぅぅぅっ! この一杯のために俺は生きていると断言出来るな」

 喜びを口にすると、リーゼロッテとルイ姉が冷ややかな目でこちらを見ていた。
 だが何も言って来ないため、俺は残りのエールを口に運ぶ。
 すると突然温かい手によって視界が遮られ、何も見えなくなる。

「だ~れだ」

 そして女の子特有の甘い匂いが俺を刺激し、可愛らしい声が背後から聞こえて来るのであった。





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