9 / 18
仕事の後の一杯は最高だ
しおりを挟む
「さてと⋯⋯それじゃあ君達は⋯⋯」
「ちょっと待って下さい!」
俺は子供達に炊き出しの手伝いを指示しようとするが、リーゼロッテに止められてしまった。
「ユクトはレリシア様と知り合いなのですか!」
「あっ⋯⋯ああ⋯⋯昔から炊き出しを手伝ってたからな」
「羨ましいです⋯⋯私もレリシア様とお近づきになりたいです。ですがお仕事の邪魔はしたくはないですし、そもそも私ごときがレリシア様とお話しをする資格など⋯⋯」
何やら一人で苦悩しているようだ。どうやらリーゼロッテのレリシア好きは俺の想像を越えているようだ。
「やれやれ。次に会った時に紹介してやろうか?」
「本当ですか! ありがとうございます!」
リーゼロッテは興奮した様子でこちらに詰め寄り、嬉しそうに俺の両手を握ってきた。
何だか初めて笑った顔を見た気がする。三日間機嫌が悪かったリーゼロッテを笑顔にするなんて、恐るべしレリシアって感じだな。
「それでは当初の予定通り、炊き出しのお手伝いをしましょう。ザジとラグとドクは整列の手伝いを。ミーアは私と食べ物の配膳をしますよ」
初めての仕事だからか、それともレリシアと会うことが出来るからか、はたまたその両方なのかわからないが、リーゼロッテは張り切って炊き出しの手伝いに向かうのであった。
さて、子供達とリーゼロッテがいることで、炊き出しに必要な人数は揃った。
今日は暖かい陽射しが降り注いでおり、絶好の昼寝日和と言えよう。
周囲は多少騒がしいが、その程度の雑音で俺の眠気を遮ることなど出来やしない。
俺は暖かい陽射しを一番受けることが出来る屋根へと上る。
そして炊き出しをしているリーゼロッテやレリシアを横目に寝っ転がるのであった。
「ユクト⋯⋯ユクト!」
突然身体が揺すられ、大きな声が聞こえて来た。
そのため、俺はゆっくりと瞼を開く。すると直ぐ側にリーゼロッテの姿が目に入った。
「大丈夫。寝てないよ。目を閉じていただけだ」
「それって寝ている人が言うセリフですよね」
リーゼロッテは呆れた声で俺を見下ろす。
どうやらさっきの笑みはどこかに行ってしまったようだ。
「それよりレリシア様や子供達はどうした?」
周囲を見渡すと、そろそろ夕陽が辺りを照らす時間になっており、人もほとんどいなくなっていた。
「やっぱり寝ていましたね。子供達はレリシア様と孤児院に行かれました」
「そうなんだ。それじゃあ俺達も帰るとするか」
「人を働かせておいて自分は昼寝ですか。良い身分ですね」
「ギルドマスターは偉いからな」
「た、確かにそのとおりかもしれませんが、ユクトも少しは働いて下さい」
「俺はみんながしっかり働いているか監督する仕事をしていたぞ」
「寝ていただけじゃないですか!」
怒られてしまった。俺⋯⋯ギルドマスターなのに。
「もういいです。それより早くギルドに戻りましょう」
「そうだな。今日は疲れたし、早く帰ろう」
「ユクトは何もしてないでしょ! はあ⋯⋯はあ⋯⋯」
肩で息をしているよ。
「それにしてもリーゼロッテは中々ツッコミ属性があるじゃないか。真面目な騎士だと思っていたけどその考えは撤回しよう」
「ユクトと話していると疲れます。もう何でもいいから早く帰りましょう」
二人の意見が一致したので、俺達は帰路に就く。
そしてギルドに到着すると、なぜか入口の所にルイ姉がいた。
「ただいま戻りました」
「ルイ姉何やってるの?」
俺とリーゼロッテが声をかけるとルイ姉は困った表情をこちらに向ける。
「ドアが壊れちゃったの。一ヶ月前に修理したばかりなのに」
「そ、そうなんだ」
俺はルイ姉の言葉に苦笑いを浮かべた。
また壊れたのか。出費がかさむなあ。
「でもお姉ちゃん頑張って治すよ。修理道具を取ってくるね」
「ちょっと待った!」
ルイ姉は修理道具を取りに向かうためギルドに入ろうとしたが、俺は慌てて止めた。
修理なんてルイ姉に出来るわけがない。これ以上ギルドを壊されてたまるか。
「ここは俺がやっておくから、初仕事で頑張ったリーゼロッテに紅茶を入れてあげてほしいな」
「うんわかった。それじゃあユクトちゃんお願いね」
ルイ姉は俺の願いを聞いてくれて、リーゼロッテと共にギルドの中へと向かう。
ふう⋯⋯これでこれ以上ドアを壊されずに済む。俺は安堵のため息をつく。
そして俺もギルドの中へと入り、修理道具を持ってドアの修繕作業を行うのであった。
ドアを修理した後。俺はエールを持ってテーブルに座る。
この仕事の後の一杯がたまらないんだよな。
ドアの修繕という最重要任務を遂行した俺に、酒を飲むなと言う者はいないだろう。
俺は手に持ったエールのグラスを傾け、一気に口の中に入れる。
麦やホップの味が舌を刺激し、深いコクが喉越しを駆け抜けて行く。
「くうぅぅぅっ! この一杯のために俺は生きていると断言出来るな」
喜びを口にすると、リーゼロッテとルイ姉が冷ややかな目でこちらを見ていた。
だが何も言って来ないため、俺は残りのエールを口に運ぶ。
すると突然温かい手によって視界が遮られ、何も見えなくなる。
「だ~れだ」
そして女の子特有の甘い匂いが俺を刺激し、可愛らしい声が背後から聞こえて来るのであった。
「ちょっと待って下さい!」
俺は子供達に炊き出しの手伝いを指示しようとするが、リーゼロッテに止められてしまった。
「ユクトはレリシア様と知り合いなのですか!」
「あっ⋯⋯ああ⋯⋯昔から炊き出しを手伝ってたからな」
「羨ましいです⋯⋯私もレリシア様とお近づきになりたいです。ですがお仕事の邪魔はしたくはないですし、そもそも私ごときがレリシア様とお話しをする資格など⋯⋯」
何やら一人で苦悩しているようだ。どうやらリーゼロッテのレリシア好きは俺の想像を越えているようだ。
「やれやれ。次に会った時に紹介してやろうか?」
「本当ですか! ありがとうございます!」
リーゼロッテは興奮した様子でこちらに詰め寄り、嬉しそうに俺の両手を握ってきた。
何だか初めて笑った顔を見た気がする。三日間機嫌が悪かったリーゼロッテを笑顔にするなんて、恐るべしレリシアって感じだな。
「それでは当初の予定通り、炊き出しのお手伝いをしましょう。ザジとラグとドクは整列の手伝いを。ミーアは私と食べ物の配膳をしますよ」
初めての仕事だからか、それともレリシアと会うことが出来るからか、はたまたその両方なのかわからないが、リーゼロッテは張り切って炊き出しの手伝いに向かうのであった。
さて、子供達とリーゼロッテがいることで、炊き出しに必要な人数は揃った。
今日は暖かい陽射しが降り注いでおり、絶好の昼寝日和と言えよう。
周囲は多少騒がしいが、その程度の雑音で俺の眠気を遮ることなど出来やしない。
俺は暖かい陽射しを一番受けることが出来る屋根へと上る。
そして炊き出しをしているリーゼロッテやレリシアを横目に寝っ転がるのであった。
「ユクト⋯⋯ユクト!」
突然身体が揺すられ、大きな声が聞こえて来た。
そのため、俺はゆっくりと瞼を開く。すると直ぐ側にリーゼロッテの姿が目に入った。
「大丈夫。寝てないよ。目を閉じていただけだ」
「それって寝ている人が言うセリフですよね」
リーゼロッテは呆れた声で俺を見下ろす。
どうやらさっきの笑みはどこかに行ってしまったようだ。
「それよりレリシア様や子供達はどうした?」
周囲を見渡すと、そろそろ夕陽が辺りを照らす時間になっており、人もほとんどいなくなっていた。
「やっぱり寝ていましたね。子供達はレリシア様と孤児院に行かれました」
「そうなんだ。それじゃあ俺達も帰るとするか」
「人を働かせておいて自分は昼寝ですか。良い身分ですね」
「ギルドマスターは偉いからな」
「た、確かにそのとおりかもしれませんが、ユクトも少しは働いて下さい」
「俺はみんながしっかり働いているか監督する仕事をしていたぞ」
「寝ていただけじゃないですか!」
怒られてしまった。俺⋯⋯ギルドマスターなのに。
「もういいです。それより早くギルドに戻りましょう」
「そうだな。今日は疲れたし、早く帰ろう」
「ユクトは何もしてないでしょ! はあ⋯⋯はあ⋯⋯」
肩で息をしているよ。
「それにしてもリーゼロッテは中々ツッコミ属性があるじゃないか。真面目な騎士だと思っていたけどその考えは撤回しよう」
「ユクトと話していると疲れます。もう何でもいいから早く帰りましょう」
二人の意見が一致したので、俺達は帰路に就く。
そしてギルドに到着すると、なぜか入口の所にルイ姉がいた。
「ただいま戻りました」
「ルイ姉何やってるの?」
俺とリーゼロッテが声をかけるとルイ姉は困った表情をこちらに向ける。
「ドアが壊れちゃったの。一ヶ月前に修理したばかりなのに」
「そ、そうなんだ」
俺はルイ姉の言葉に苦笑いを浮かべた。
また壊れたのか。出費がかさむなあ。
「でもお姉ちゃん頑張って治すよ。修理道具を取ってくるね」
「ちょっと待った!」
ルイ姉は修理道具を取りに向かうためギルドに入ろうとしたが、俺は慌てて止めた。
修理なんてルイ姉に出来るわけがない。これ以上ギルドを壊されてたまるか。
「ここは俺がやっておくから、初仕事で頑張ったリーゼロッテに紅茶を入れてあげてほしいな」
「うんわかった。それじゃあユクトちゃんお願いね」
ルイ姉は俺の願いを聞いてくれて、リーゼロッテと共にギルドの中へと向かう。
ふう⋯⋯これでこれ以上ドアを壊されずに済む。俺は安堵のため息をつく。
そして俺もギルドの中へと入り、修理道具を持ってドアの修繕作業を行うのであった。
ドアを修理した後。俺はエールを持ってテーブルに座る。
この仕事の後の一杯がたまらないんだよな。
ドアの修繕という最重要任務を遂行した俺に、酒を飲むなと言う者はいないだろう。
俺は手に持ったエールのグラスを傾け、一気に口の中に入れる。
麦やホップの味が舌を刺激し、深いコクが喉越しを駆け抜けて行く。
「くうぅぅぅっ! この一杯のために俺は生きていると断言出来るな」
喜びを口にすると、リーゼロッテとルイ姉が冷ややかな目でこちらを見ていた。
だが何も言って来ないため、俺は残りのエールを口に運ぶ。
すると突然温かい手によって視界が遮られ、何も見えなくなる。
「だ~れだ」
そして女の子特有の甘い匂いが俺を刺激し、可愛らしい声が背後から聞こえて来るのであった。
20
あなたにおすすめの小説
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる