18 / 18
悪党達を追え
しおりを挟む
「おのれ女神の執行者か何だか知らんが、この私に楯突くとは⋯⋯者共! 出会え!」
ボーゲンが怒りの感情のまま大声で叫ぶ。本人の頭の中では、多くの私兵がこの場に集まると思っていたのだろう。
だがその威勢のいい声に従う者は誰もいなかった。
「早くしろ! 私の命令に背く気か!」
再度恫喝するように喚き散らすが、先ほどと同様にその声に答える者はいなかった。
「な、何故だ⋯⋯何故誰も来ない」
「もしや既に私兵達は奴らの手に⋯⋯」
ボーゲンとワルイは答えを求めるように視線を向けてきたので、俺は真実を教えてやることにする。
「お前の自慢の兵士達は、向こうでお寝んねしているんじゃないか?」
「バカな!騒ぎが起きてからそれほど時間は経ってないはずだぞ!」
「信じたくない気持ちはわかるが、現実問題として誰もこないことが答えだ」
「くっ!」
ボーゲンは顔を歪ませ、殺意を込めた視線を向けてくる。
「ボーゲン様⋯⋯どうしますか」
ワルイは動揺した様子でボーゲンの言葉を待つ。そしてボーゲンが放った言葉は⋯⋯尻尾を巻いて逃げることだった。
「行くぞ!」
「待ってください」
ボーゲンは踵を返し、俺達とは逆の方向へと走り出すと、ワルイもその後をついていく。
まあその判断は正しいな。あのアインスの馬鹿力⋯⋯怪力を見て戦おうと思うなんて、余程のバカか実力者しかいないだろう。
「ふふ⋯⋯逃がしませんよ~」
「悪い子にはお姉ちゃんがお仕置きしちゃうぞ」
ツヴァイは妖艶な笑みを、アインスは少し楽しそうな様子でボーゲンとワルイの後を追う。
この二人に追いかけられるなんて敵ながら少し同情してしまう。だがボーゲンとワルイは天に背き、他人を陥れようと画策していたのだ。到底許せるものではない。その罪は身をもって味わわせてやる。
逃げている相手は運動不足の中年男性だ。あと数秒も追いかければ、捕まえることが出来るだろう。
しかし残念ながら俺の思惑通りには行かず、ボーゲン達は一つの部屋に入っていった。
「余計なことをすると罪が重くなるよ」
ツヴァイは重厚な木造の扉を開けようとドアノブに手を伸ばす。だがガチャガチャと音がなるだけで扉が開く気配はなかった。
どうやら鍵を掛けたようだ。面倒なことを。
「お姉ちゃんに任せて!」
背後にいたアインスの声と同時に、ツヴァイは横にずれる。そしてアインスは扉に向かって拳を放った。
するとけたたましい音がすると共に、重厚な扉が吹き飛び、俺達の進む道を邪魔するものがなくなった。
「ひいっ!」
「と、扉が一撃で破壊された⋯⋯だと⋯⋯」
ワルイとボーゲンが、まるで化け物を見るような目をアインスに向ける。
そして俺の横にいるリーゼロッテも青ざめた顔をしていた。
その気持ちはわかるぞ。もしあの拳が自分に向けられたらと思うと。内臓は破壊され、骨は粉々に砕け散るだろう。そうなれば待っているのは死、あるのみだ。
と、とにかく今は暗い未来より明るい未来を考えよう。これで奴らを部屋に追い詰めた。後は捕らえるだけだ。
しかしここでさらに予想外のことが起きた。ボーゲンが机に手を伸ばすと、突然本棚が倒れ隠し扉が現れたのだ。
「このような化け物を相手にしていられません」
「安心しろ。いくらあの女が化け物のような力を持っていようと、この鉄製の扉は破れまい」
ボーゲンはそう言い残すと鉄製の扉を閉めた。
「か弱い女の子を化け物なんてひど~い」
「そ、そうだな」
アインスは不満を口にするが、ここは否定すると後が怖そうなのでうなずいておくことにしよう。
「あ、あの⋯⋯アインスさんならこの鉄製の扉も⋯⋯」
リーゼロッテが恐る恐るアインスに問いかけ、期待の眼差しを向けていた。
確かにアインスなら、鉄の扉をぶち壊すことが出来る気がするけどどうなんだ?
「え~さすがに無理だよ」
「そうですよね。失礼しました」
だよな。いくらアインスでも無理なものは無理だよな。
状況的には鉄の扉を破壊してくれた方が都合がいいけど、どこかでホッとした俺がいる。
しかしこの後、アインスがとんでもないことを口にした。
「でも扉の向こうへ行くことは出来るよ。ここを使えば」
アインスは嬉しそうに笑顔を見せながら、鉄の扉の横にある、石造りの壁を指差すのであった。
ボーゲンが怒りの感情のまま大声で叫ぶ。本人の頭の中では、多くの私兵がこの場に集まると思っていたのだろう。
だがその威勢のいい声に従う者は誰もいなかった。
「早くしろ! 私の命令に背く気か!」
再度恫喝するように喚き散らすが、先ほどと同様にその声に答える者はいなかった。
「な、何故だ⋯⋯何故誰も来ない」
「もしや既に私兵達は奴らの手に⋯⋯」
ボーゲンとワルイは答えを求めるように視線を向けてきたので、俺は真実を教えてやることにする。
「お前の自慢の兵士達は、向こうでお寝んねしているんじゃないか?」
「バカな!騒ぎが起きてからそれほど時間は経ってないはずだぞ!」
「信じたくない気持ちはわかるが、現実問題として誰もこないことが答えだ」
「くっ!」
ボーゲンは顔を歪ませ、殺意を込めた視線を向けてくる。
「ボーゲン様⋯⋯どうしますか」
ワルイは動揺した様子でボーゲンの言葉を待つ。そしてボーゲンが放った言葉は⋯⋯尻尾を巻いて逃げることだった。
「行くぞ!」
「待ってください」
ボーゲンは踵を返し、俺達とは逆の方向へと走り出すと、ワルイもその後をついていく。
まあその判断は正しいな。あのアインスの馬鹿力⋯⋯怪力を見て戦おうと思うなんて、余程のバカか実力者しかいないだろう。
「ふふ⋯⋯逃がしませんよ~」
「悪い子にはお姉ちゃんがお仕置きしちゃうぞ」
ツヴァイは妖艶な笑みを、アインスは少し楽しそうな様子でボーゲンとワルイの後を追う。
この二人に追いかけられるなんて敵ながら少し同情してしまう。だがボーゲンとワルイは天に背き、他人を陥れようと画策していたのだ。到底許せるものではない。その罪は身をもって味わわせてやる。
逃げている相手は運動不足の中年男性だ。あと数秒も追いかければ、捕まえることが出来るだろう。
しかし残念ながら俺の思惑通りには行かず、ボーゲン達は一つの部屋に入っていった。
「余計なことをすると罪が重くなるよ」
ツヴァイは重厚な木造の扉を開けようとドアノブに手を伸ばす。だがガチャガチャと音がなるだけで扉が開く気配はなかった。
どうやら鍵を掛けたようだ。面倒なことを。
「お姉ちゃんに任せて!」
背後にいたアインスの声と同時に、ツヴァイは横にずれる。そしてアインスは扉に向かって拳を放った。
するとけたたましい音がすると共に、重厚な扉が吹き飛び、俺達の進む道を邪魔するものがなくなった。
「ひいっ!」
「と、扉が一撃で破壊された⋯⋯だと⋯⋯」
ワルイとボーゲンが、まるで化け物を見るような目をアインスに向ける。
そして俺の横にいるリーゼロッテも青ざめた顔をしていた。
その気持ちはわかるぞ。もしあの拳が自分に向けられたらと思うと。内臓は破壊され、骨は粉々に砕け散るだろう。そうなれば待っているのは死、あるのみだ。
と、とにかく今は暗い未来より明るい未来を考えよう。これで奴らを部屋に追い詰めた。後は捕らえるだけだ。
しかしここでさらに予想外のことが起きた。ボーゲンが机に手を伸ばすと、突然本棚が倒れ隠し扉が現れたのだ。
「このような化け物を相手にしていられません」
「安心しろ。いくらあの女が化け物のような力を持っていようと、この鉄製の扉は破れまい」
ボーゲンはそう言い残すと鉄製の扉を閉めた。
「か弱い女の子を化け物なんてひど~い」
「そ、そうだな」
アインスは不満を口にするが、ここは否定すると後が怖そうなのでうなずいておくことにしよう。
「あ、あの⋯⋯アインスさんならこの鉄製の扉も⋯⋯」
リーゼロッテが恐る恐るアインスに問いかけ、期待の眼差しを向けていた。
確かにアインスなら、鉄の扉をぶち壊すことが出来る気がするけどどうなんだ?
「え~さすがに無理だよ」
「そうですよね。失礼しました」
だよな。いくらアインスでも無理なものは無理だよな。
状況的には鉄の扉を破壊してくれた方が都合がいいけど、どこかでホッとした俺がいる。
しかしこの後、アインスがとんでもないことを口にした。
「でも扉の向こうへ行くことは出来るよ。ここを使えば」
アインスは嬉しそうに笑顔を見せながら、鉄の扉の横にある、石造りの壁を指差すのであった。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる