ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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悪党達を追え

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「おのれ女神の執行者か何だか知らんが、この私に楯突くとは⋯⋯者共! 出会え!」

 ボーゲンが怒りの感情のまま大声で叫ぶ。本人の頭の中では、多くの私兵がこの場に集まると思っていたのだろう。
 だがその威勢のいい声に従う者は誰もいなかった。

「早くしろ! 私の命令に背く気か!」

 再度恫喝するように喚き散らすが、先ほどと同様にその声に答える者はいなかった。

「な、何故だ⋯⋯何故誰も来ない」
「もしや既に私兵達は奴らの手に⋯⋯」

 ボーゲンとワルイは答えを求めるように視線を向けてきたので、俺は真実を教えてやることにする。

「お前の自慢の兵士達は、向こうでお寝んねしているんじゃないか?」
「バカな!騒ぎが起きてからそれほど時間は経ってないはずだぞ!」
「信じたくない気持ちはわかるが、現実問題として誰もこないことが答えだ」
「くっ!」

 ボーゲンは顔を歪ませ、殺意を込めた視線を向けてくる。

「ボーゲン様⋯⋯どうしますか」

 ワルイは動揺した様子でボーゲンの言葉を待つ。そしてボーゲンが放った言葉は⋯⋯尻尾を巻いて逃げることだった。

「行くぞ!」
「待ってください」

 ボーゲンは踵を返し、俺達とは逆の方向へと走り出すと、ワルイもその後をついていく。
 まあその判断は正しいな。あのアインスの馬鹿力⋯⋯怪力を見て戦おうと思うなんて、余程のバカか実力者しかいないだろう。

「ふふ⋯⋯逃がしませんよ~」
「悪い子にはお姉ちゃんがお仕置きしちゃうぞ」

 ツヴァイは妖艶な笑みを、アインスは少し楽しそうな様子でボーゲンとワルイの後を追う。
 この二人に追いかけられるなんて敵ながら少し同情してしまう。だがボーゲンとワルイは天に背き、他人を陥れようと画策していたのだ。到底許せるものではない。その罪は身をもって味わわせてやる。
 逃げている相手は運動不足の中年男性だ。あと数秒も追いかければ、捕まえることが出来るだろう。
 しかし残念ながら俺の思惑通りには行かず、ボーゲン達は一つの部屋に入っていった。

「余計なことをすると罪が重くなるよ」

 ツヴァイは重厚な木造の扉を開けようとドアノブに手を伸ばす。だがガチャガチャと音がなるだけで扉が開く気配はなかった。
 どうやら鍵を掛けたようだ。面倒なことを。

「お姉ちゃんに任せて!」

 背後にいたアインスの声と同時に、ツヴァイは横にずれる。そしてアインスは扉に向かって拳を放った。
 するとけたたましい音がすると共に、重厚な扉が吹き飛び、俺達の進む道を邪魔するものがなくなった。

「ひいっ!」
「と、扉が一撃で破壊された⋯⋯だと⋯⋯」

 ワルイとボーゲンが、まるで化け物を見るような目をアインスに向ける。
 そして俺の横にいるリーゼロッテも青ざめた顔をしていた。
 その気持ちはわかるぞ。もしあの拳が自分に向けられたらと思うと。内臓は破壊され、骨は粉々に砕け散るだろう。そうなれば待っているのは死、あるのみだ。
 と、とにかく今は暗い未来より明るい未来を考えよう。これで奴らを部屋に追い詰めた。後は捕らえるだけだ。
 しかしここでさらに予想外のことが起きた。ボーゲンが机に手を伸ばすと、突然本棚が倒れ隠し扉が現れたのだ。

「このような化け物を相手にしていられません」
「安心しろ。いくらあの女が化け物のような力を持っていようと、この鉄製の扉は破れまい」

 ボーゲンはそう言い残すと鉄製の扉を閉めた。

「か弱い女の子を化け物なんてひど~い」
「そ、そうだな」

 アインスは不満を口にするが、ここは否定すると後が怖そうなのでうなずいておくことにしよう。

「あ、あの⋯⋯アインスさんならこの鉄製の扉も⋯⋯」

 リーゼロッテが恐る恐るアインスに問いかけ、期待の眼差しを向けていた。
 確かにアインスなら、鉄の扉をぶち壊すことが出来る気がするけどどうなんだ?

「え~さすがに無理だよ」
「そうですよね。失礼しました」

 だよな。いくらアインスでも無理なものは無理だよな。
 状況的には鉄の扉を破壊してくれた方が都合がいいけど、どこかでホッとした俺がいる。
 しかしこの後、アインスがとんでもないことを口にした。

「でも扉の向こうへ行くことは出来るよ。ここを使えば」

 アインスは嬉しそうに笑顔を見せながら、鉄の扉の横にある、石造りの壁を指差すのであった。
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