ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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裁きの時間

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「えっ? どういうことでしょうか?」

 リーゼロッテは頭にハテナを浮かべながら、改めてアインスに問いかける。
 なるほど⋯⋯そういうことか。とんでもない方法だけど、アインスなら出来るかもしれない。

「う~んとね。こういうことだよ⋯⋯はい」

 アインスはリーゼロッテの問いに対して、言葉ではなく行動で示した。一歩後ろに下がり、そして石造りの壁に向かって拳を放ったのだ。

「なっ!」

 リーゼロッテは驚きの声を上げる。
 それもそのはず、なんとアインスは一撃で石の壁を破壊したのだ。普通拳で石の壁をぶち壊すことなど出来ないから、リーゼロッテが驚くのも無理はない。
 その常識はずれのパワーに、俺達はただ眺めていることしか出来なかった。

「こうすればこの壊れた壁から奥にいけるよね」

 アインスは壊れた壁から石の破片をどけながら、「ほら? 簡単でしょ?」と言わんばかりに同意を求めてきた。
 いや、無理だから。そんなことが出来るのはアインス⋯⋯いや、アインスさんだけだから。
 石の壁が容易に壊れる様子を思い出して、思わず心の中でさん付けで呼んでしまったぞ。
 隣にいるリーゼロッテも顔が引きつっているため、たぶん俺と似たようなことを考えているのだろう。

「ア、アインスさんの言う通り、これでボーゲン達を追うことが出来ますね」
「うん。お姉ちゃんから行くよ」

 アインスは壊れた壁から鉄扉の向こうへと移動する。
 そして俺もその後に続こうとしたが、リーゼロッテが小声で話しかけてきた。

「あの力は固有スキルですよね?」
「えっ? あれはただの拳による普通の一撃だぞ」
「あんな非常識な力が? 信じられません」

 非常識と言われてるよ。まあその気持ちはわかるけど。
 リーゼロッテは俺の言うことを信じていないようだ。しかし背後から俺の意見を肯定する声が聞こえてきた。

「凄いよね~カッコいいよね~普通のパンチが必殺技だよ。私もやってみたいなあ」

 ツヴァイが壁に向かって拳を当てる真似をしてる。

「やるなよ。一般人がやったらこっちの手が砕けるからな」
「わかってるよ。それより後ろが渋滞しているから早く進んで~」

 俺は破壊された石壁を通り、鉄扉の向こうへと移った。暗くて視界が悪かったが、先に進んだアインスが松明に火を灯してくれたので、鉄扉の向こうの様子を確認することが出来た。目の前には下に向かって伸びる階段が見える。

「地下への道か。もしこの道を進んだ先が地上に繋がっていたら厄介だな」

 悪を裁く執行者として、絶対に逃がす訳にはいかない。もし逃げられでもしたら、警備が厳しくなって、裁くのが難しくなる。

「急ぐぞ」

 俺は三人に声をかけ、地下への階段を降りていく。
 すると階段を降りきったところで、ボーゲン達に追いつくことが出来た。

「くそっ! 何故奴らが扉を通ることが出来たのだ!」
「凄まじい音が聞こえてきたが、まさかあの鉄の扉を破壊したのか!」
「俺達にかかれば、あの程度の扉を突破することは造作もない」

 ボーゲンとワルイは恐怖で顔を引きつらせながら、後ろに後退る。
 本当は鉄の扉を破壊した訳じゃないけど、わざわざ教えてやる義理はない。せいぜい恐怖に震えているがいい。

「さて、お前達は私腹を肥やし、アルト商会を陥れようと画策した。それは許されぬ行為だ。例え世界が許しても、女神の執行者である俺達が許さない」

 俺は剣の切っ先をボーゲンとワルイへと向ける。

「「ひぃぃぃっ!」」

 二人は剣を向けられたことに恐怖したのか尻餅をつき、後退る。
 部下達もいなくなり、二人を助ける者は、もう誰もいない。

「伯爵家の当主たるこの私に手を出せば、どうなるかわかっているのか!」

 つい今しがたまでビビっていたのに強気ではないか。最後に何を語るか興味が出てきたので、話を聞いてやろう。

「さあ? せっかくだからどうなるか教えてくれないか」
「いいだろう。バカなお前達にも教えてやる。私が持つ全ての権力を使えば、お前達の存在などどうとでもなる。この世界から消すことも簡単だということだ」
「悪いことをしたら裁かれる。それは当然のことだと思うが」
「悪いことだと? 我らの罪など簡単に揉み消すことができる。何をしようが無駄だ!」
「理解力がないな。お前のように権力を使って好き放題する奴を裁くために俺達が存在するんだ」

 どうやらまだ分かっていないみたいだな。この場には権力など意味をなさないということを。これ以上の話し合いなど時間の無駄だ。そんな時間があるなら酒でも飲んでいた方が何百倍もましだ。
 俺は二人のもとへとゆっくりと歩みを進める。

「さあ、裁きの時間だ」
「「ひぃっ!」」

 二人は悲鳴を上げるが、俺は構うことをせず剣を振り上げる。そして悪事に対する報いを受けさせるために、剣を振り下ろすのであった。
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