ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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アカデミー賞並みの演技?

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 ユクト達がボーゲンの屋敷に侵入した数時間後。
 夜の暗闇は晴れ、朝日がボーゲンの屋敷を照らし始めていた。早朝ということで周囲にはまだ誰もいない。しかしこの静寂した中央区画で、大声で叫ぶ者が現れた。

「アー! モンノトコロニダレカガイルワ!」

 どこか芝居じみた女の子の声が周囲に響き渡る。

「モシカシテアレハボーゲンサマデハナイデスカ!」

 普段この時間には人が通ることはほとんどないが、女性の声があまりにも大きかったため、少しずつ人が集まり始める。

「朝からうるさいな。ボーゲン様が⋯⋯なんだと!」

 周囲の貴族の私兵だろうか、ボーゲンの屋敷の正門を見て驚きの声をあげる。
 なぜならとんでもない光景が目に入ったからだ。
 門の前には、ロープで縛られたボーゲンとワルイの姿があった。しかも驚くべき所はそれだけではなく、二人は服を着ておらず、下着しか着ていなかったのだ。

「は、早くこのロープをほどけ!」
「なるべくこっちを見るなよ」

 ボーゲンとワルイは自分達の存在が認識されると助けを求め始めた。
 しかしそれならなぜもっと早くから助けを呼ばなかったのか。それには二つの理由がある。
 一つは下着姿の自分を見られたくなかったから。そしてもう一つは⋯⋯

「フタリノマエニ、ナニカサッシのヨウナモノガオチテイマス」

 女の子は落ちている物を拾うため手を伸ばす。するとその行動を制止する者がいた。

「やめろ! それに触るな!」
「見るな!絶対に中を見てはダメだ!」

 ボーゲンとワルイは必死の形相で、女の子の行動を止めようとする。だが女の子は構わず手を伸ばし、落ちている冊子を開き、中を見た。

「こ、これは⋯⋯ボーゲン伯爵とワルイさんの脱税と裏金の帳簿じゃないですか! みなさんも見て下さい」

 女の子は周囲に集まった者達にも帳簿を見せ始める。
 するとこの場にいる者達は、最初は下着姿で縛られている二人に同情的だったが、一瞬にしてその感情は怒りへと変わっていった。

「まさかこの二人は私腹を肥やしていたのか!」
「どおりで大きい屋敷が建つわけだ」
「ワルイもかなり羽振りが良いと聞いていたけど、まさか脱税していたとは」

 周囲から非難の声が一斉に上がる。これも全てユクトの狙い通りだった。
 女の子が声を上げ、周囲にボーゲンとワルイの存在を認識させて、裏金と脱税の帳簿を複数人で確認する。
 さすがにこれだけの目撃者と証拠の帳簿があれば、国も本格的な調査に乗り出すだろう。
 例えそれなりの権力を持っていようが、もう言い逃れをすることは出来ないはずだ。

「ともかくこの縄を解け! 早くしろ!」  

 伯爵であるボーゲンが強気に発言したことで、何人かの男達が慌ててローブを解き始めた。
 そして拘束から逃れた二人は勢いよく立ち上がり、お互いの顔を合わせる。

「ワルイよ。すぐに逃げるぞ」
「承知しました」

 このままこの国にいれば捕まるのは明白だと考え、二人はこの場から立ち去ろうとする。だがその行動を止める者がいた。

「どこへ行くつもりですか?」

 ボーゲンとワルイを最初に見つけ、声を上げた女の子が二人の前に立ちふさがる。

「どけ! 女!」

 二人はこの場から逃げるため、邪魔な女の子を突き飛ばそうと体当たりを放った。
 横に体格のいいボーゲンとワルイの突進を食らえば、普通の女の子ではどうすることも出来ないだろう。しかし女の子はただ者ではなかった。
 女の子は迫ってくる二人をヒラリとかわす。そしてかわしながら足をかけ、二人を地面に転がすことに成功した。

「き、貴様! 伯爵であるこの私に何をする!」
「絶対に許さんぞ!」
「許さない? 許さないと言うなら私も犯罪者が逃げるのを許しませんよ」

 威圧感を出しながら倒れた二人を見下ろす女の子。この女の子の正体はリーゼロッテだった。

「何の権限があって我らを許さないというのだ!」
「今はギルドに出向しているとはいえ、私は王国騎士団第二部隊副隊長ですから。脱税と裏金の疑惑がある犯罪者を逃がす訳にはいきません」

 そう。リーゼロッテはボーゲンとワルイの罪を白日の下に晒すためにこの場に残り、わざと大声を上げて人を集めたのだ。 
 ちなみにユクトは眠い、めんどくさい、酒を飲みたいという理由で、既にギルドに帰っている。

「副隊長如きが私を拘束するなどいい度胸だな。後で問題になっても知らんぞ」

 伯爵であるボーゲンは相手が騎士団の副隊長とわかり、強気な発言をし始める。
 ボーゲンは自分のコネクションを使えば、副隊長くらいならどうとでも出来ると判断した。

「私は騎士団長とも知り合いだ。私に無礼を働けばどうなるかわかるな?」

 ボーゲンは暗にこの場を見逃せと言ってきた。
 これまで罪を犯しても、全てをなかったことにした男だ。今回の裏金脱税の件を逃れることはさすがに出来ないと思うが、その場しのぎでもここから逃げることを選択したようだ。
 そして上からの命令に忠実なリーゼロッテは、騎士団長に命令されればボーゲンの言葉に従うかもしれない。
 それが本当に騎士団長であるガルドランドの命令ならば⋯⋯

「あんたに無礼を働くとどうなるか、とても気になりますなあ」
「なっ!」

 突如筋肉質の中年男性が現れ、ボーゲンの言葉に応えた。そしてボーゲンはその筋肉質の男と目が合うと、驚きの声を上げて後退る。

「あんたと知り合いになった覚えはないんだが」

 中年男は威圧感を込めて、ボーゲンとワルイをギロリと睨むのであった。
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