ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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二人目の犠牲者

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「シ、シア!」

 そう⋯⋯こちらを見ていたのはシアだ。
 俺はシアがすぐ後ろに来るまで気配を感じなかったことに恐怖し、思わず声が震えてしまった。

「んっ? シアだよ。ユクト様は何をしているのかな? かな?」

 表情は笑顔だが目が笑っていない。シアから殺気のようような物を感じるんだが気のせいだろうか。

「べ、別に何もしてないぞ」
「へえ⋯⋯本当に? 本当は如何わしいことをしようとしてたんじゃないのぉ」
「俺が? ルイ姉に? いやいや、何を言ってるんだ」
「何を? ふう⋯⋯作戦成功だな。寝てしまえばこっちのものだって言ってたよね?」
「ご、誤解だ! あれはそういう意味で言ったんじゃない」

 最悪のタイミングを見られたな。こういう切り取りで冤罪を被せるのはマジでやめてほしい。

「ふ~ん⋯⋯」

 シアの表情が終始笑顔なのも怖いぞ。心の中で何を考えているのか全く読めない。普段の緩い雰囲気はどこへ行ったんだ。
 そして笑顔のシアの視線が俺から外れ、カウンターへと注がれる。
 そこにはルイ姉のために作ったカルーアミルクのグラスがあった。

「これでルイさんを酔わせたの?」

 シアはグラスに視線を向け、手を伸ばす。そしてルイ姉と同じように一気にグラスの中を飲み干した。

「甘くて美味しい♪」

 カルーアミルクがシアの怒りを和らげたのか、圧がなくなった。しかしそれは一瞬のことだった。

「美味しいけど⋯⋯アルコールがけっこう入ってるよね? 甘さで誤魔化してわからないようにするなんて⋯⋯悪いことを考えてるね」
「これはこういう酒なの!」
「でもルイさんが、あん⋯⋯ユクトちゃんそんな所触らないで⋯⋯って言ってたから」
「そ、それは⋯⋯」
「百人いたら百人とも黒だって言うと思うよ」

 本当嫌な所を聞いてるなあ。客観的に状況証拠だけ見ると俺がルイ姉を酔わせて、如何わしいことをしようとしていると思われても仕方ないかもしれないが、ここは敢えて言おう。

「それでも俺はやってない!」
「でも⋯⋯」
「俺がそんなことすると思うか?」
「⋯⋯」

 えっ? 無言? 俺って信用ないの?
 ちょっとショックだぞ。

「ユクト様は信じてますけど、女の子が絡むと信用出来ないかな」

 女性にだらしないと言いたいのだろうか。仮にもルイ姉は美少女と言っても過言ではない。そんなルイ姉が酔って寝ているのに、如何わしいことをしなかった俺はこの上なく紳士と言えるだろう。どこが信用できないというのか。

「と、とにかくルイ姉をこのままにしておく訳には行かない。ベッドに運んで来る」
「それなら私がやるね⋯⋯羽よ」

 シアが魔法の言葉を口にするといくつもの羽が顕現する。
 俺は羽の上にルイ姉を横たわらせると、羽に乗ったルイ姉はプカプカと浮き始めた。

「ベッドで横になったルイさんを見たら、ユクト様もイケナイことを考える可能性があるから」
「後でルイ姉にぶん殴られたくないからそんなことしないぞ」

 ルイ姉に本気で殴られたら、確実に死が見えるのは間違いないからな。俺はまだ死にたくない。

「はあ⋯⋯わかってない。もういいです。行ってきます」

 シアはため息をついてルイ姉と共に二階へ行ってしまった。
 何だか今日のシアは機嫌が悪かったな。ルイ姉を酔わせたのがよくなかったのか?
 俺にはシアの不機嫌な理由がわからない。
 俺はカウンターの中に視線を向ける。

「とりあえずカルーアミルクの材料が後数杯分あるから作るか。俺も飲みたいしな」

 できたカルーアミルクのグラスをカウンターに置く。そして椅子に座り、グラスに手を伸ばそうとしたその時。

「ただいま戻りました」

 ギルドの扉の方から、リーゼロッテの声が聞こえてきた。どうやらミーア達と遊びは終わって、ギルドに帰ってきたみたいだ。

「おかえり」
「子供達は本当に元気ですね。体力には自信があるつもりでしたが疲れました」

 疲れたと口にしたリーゼロッテの額には、大粒の汗が見えた。
 今日は気温も高いし、子供達と遊ぶのは大変だっただろう。
 確かカシスオレンジが美味しいって言ってたな。
 俺はカクテルを作るためにオレンジに手を伸ばす。
 しかしリーゼロッテは俺がカシスオレンジを作る前に、カウンターに置いてあるカルーアミルクに気がつく。

「これはコーヒーミルクですか?」
「いや、これはコーヒーミルク味の酒だ」
「お酒? 美味しそうですね」
「飲んでもいいぞ」
「本当ですか? ありがとうございます」

 リーゼロッテはグラスに軽く口をつける。

「これは⋯⋯」

 一言言葉を漏らすと、今度は勢いよくグラスの中身を飲み干した。

「美味しいですね。もう一杯頂けますか」
「あいよ」 

 俺はリーゼロッテの要望に従って新たなカルーアミルクを作製し、カウンターの上に置く。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 リーゼロッテはグラスを手に取ると、さっきと同じように一気にカルーアミルクを飲み干してしまう。

「美味しい⋯⋯もう一杯お願いします」
「わかった。でも一気に飲んで大丈夫か?」
「大丈夫です。このお酒⋯⋯凄く飲みやすいですね」

 本人が大丈夫だと言うので、俺は再びカルーアミルクを作る。
 そしてこの後リーゼロッテは、さらに四杯のカルーアミルクを飲み干した。
 おいおい少し飲み過ぎじゃないか? リーゼロッテはそんなにお酒は強くないように見えたけど⋯⋯

「もう一杯おにぇがいしましゅ~」

 ん? 何か言葉がおかしくないか? 
 目もトロンとして来て、カウンターに寄りかかっている。
 やっぱり飲み過ぎ何じゃ⋯⋯
 これ以上は身体によくないと判断し、止めようと声をかける。

「呂律が回ってないぞ。もう飲まない方が⋯⋯」
「わらしだって⋯⋯にょみたいときがあるんでしゅ⋯⋯変な男にきゅうこ⋯⋯」

 リーゼロッテは何か言いかけてカウンターに突っ伏し、動かなくなってしまった。

「やれやれ。だから言ったのに」

 飲み過ぎはよくないぞ。しかも若い女の子が酔いつぶれると如何わしいことをされかねないから、気をつけてほしいものだ。
 ん? 何だかさっきみた光景と同じだな。
 確かさっきはこの後⋯⋯

「ひぃっ!」

 俺は気配を感じて後ろを振り向く。するとそこには、またしても笑顔だけど目が笑ってないシアの姿があった。

「これはどういうことかな、かな」
「いや、これは⋯⋯」
「また女の子を酔い潰して、何をするつもりなの?」
「え~と⋯⋯」

 シアの視線は、俺の全てを見通しているかのように感じたため、真実のみを話す。
 しかし酔い潰したのが二人目だということもあり、シアは中々俺の言うことを信じてくれず、誤解が解けるまでに多大な労力を有したことは言うまでもなかった。

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