ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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聖女様の護衛

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 リーゼロッテが騎士団から出向してきて一ヶ月の時が経った。

「ユクト、今日は何か依頼がないのですか?」

 今は朝食を食べ終えたばかりの午前中のギルド。俺の前で背筋を伸ばしたリーゼロッテが問いかけてきた。

「ないよ。ボランティアもない」
「そうですか⋯⋯」

 俺の返答を聞いて、リーゼロッテの表情が暗くなる。
 リーゼロッテは真面目だな。この一ヶ月間、毎日依頼がないか聞いてきていた。何か依頼があればいいけど、残念ながら何もない。

「このギルドの運営は大丈夫ですか? まともに依頼をこなしている姿を見ていないのですが」
「大丈夫だ。夜にはシアが踊ったり歌ったりしているから、それなりに金は入っている。それに俺の酒だって人気があるんだぞ」
「それは⋯⋯見ていればわかります。ですがここは酒場ではなくギルドです。本来の意味は忘れていませんか? ユクトはギルドマスターですよね?」
「依頼がないからどうしょもない」
「そもそもユクトはギルドマスターとして何かしているように見えません。この間の夜も活躍したのはシアさんとルイさんでしたし」

 リーゼロッテがこの間と言っているのは、ボーゲン達のことだろう。確かにあの日はシアが相手を眠らせたり、ルイ姉が壁をぶち壊したりと大活躍だったな。

「リーゼロッテちゃん、それは違うよ」

 俺とリーゼロッテの会話に、自信満々な表情のルイ姉が入ってきた。

「ユクトちゃんはあの時⋯⋯」

 ルイ姉はについて口にしようとしたが思い留まり、口をつぐむ。

「あの時とはどういうことですか?」
「ううん⋯⋯何でもない。でもユクトちゃんは活躍しているよ。だって私の功績はユクトちゃんの功績。ユクトちゃんの功績はユクトちゃんの功績だから。知らなかった?」

 おいおい。リーゼロッテが信じたらどうするんだ。俺が仲間の手柄を奪う嫌な奴みたいじゃないか。

「な、何ですかその俺様主義的な考えは⋯⋯はっ! まさか! リーゼロッテさんだけではなく、シアさんの手柄もユクトの物に!」

 ルイ姉のせいでおもいっきり勘違いしているよ。
 ナチュラルに俺を陥れるのやめてくれない?

「そうだよ。おはようからおやすみまで、ユクトちゃんに尽くすのが私の生き甲斐だから」

 あ、姉の愛が重すぎる。
 しかも本当の姉じゃないから質が悪い。

「つ、尽くすって⋯⋯まさか如何わしいことも!」
「いいい、如何わしいこと!? それってももも、もしかしてあんなことやこんなこと!? ユ、ユクトちゃんが望むなら考えなくないけど⋯⋯」

 姉が暴走している。
 このままだとリーゼロッテの俺に対する好感度がゼロどころかマイナスになり兼ねないな。
 ここは話題を変えるのが得策だろう。

「そういえばテオから聞いたけど、最近子供の失踪が増えているらしいな」
「「子供?」」

 二人共子供好き(リーゼロッテはおそらくだが)だからか、俺の話に耳を傾ける。ちなみにテオとはこのギルドのメンバーでドライのことだ。主に諜報活動をメインにしているため、ギルドにいることはほとんどない。

「その話、騎士団からも聞いています。ですが子供達は何処にも見当たらないと騎士団長が仰ってました。それと⋯⋯最近王都にガラの悪い人達が増えてきたとも報告を受けています」
「何だか嫌な予感がするな」

 何かフラグが立たないといいけど。どこにもいないというのも気になるな。そうなると既に死亡しているかもしくは⋯⋯
 これは積極的に調べた方がいいかもしれないな。
 俺は一抹の不安を覚えつつ、グラスに入った酒を飲むのであった。

 そしてその日の午後。俺はレリシアと共に孤児院へと向かっていた。
 隣を見るとローブを纏った聖女モードのレリシアが、まるでスキップをしそうなくらい機嫌が良さそうだった。気になったので話しかけてみる。

「レリシアの護衛をしたがるやつなんていっぱいいるだろ。なんでわざわざギルドに護衛の依頼を出したんだ?」
「そんなの決まっているじゃないですか。ユクト様との時間を確保するためですよ。それにギルドにも報酬が入ってwin-winですよね」

 周りに人がいないからか、レリシアはシアモードで話しかけてきた。
 確かにけして安くはない報酬が振り込まれている。金にはそんなに困っていないとはいえ、あるにこしたことはない。
 正直面倒くさいが、そんなに笑顔を見せられるとこれ以上文句を言えないな。
 それにしてもあんなに無感情だったレリシアがな。俺は唐突にレリシアと初めて会った時のことを思い出した。

「ふふ⋯⋯今ユクト様が何を考えているか当ててみせますね。私と初めて会った時のことを思い出していたでしょ」
「こわっ⋯⋯なんでわかるんだ。まさかストーカー?」
「あっ⋯⋯そんな酷いことを言うんだ。私、泣いちゃうよ?」

 聖女に涙の後があれば、護衛として一緒にいた俺が追求されるのは間違いない。
 あのシアがずる賢い子に育ったものだ。

「わかったわかった。俺が悪かった」
「ふふ⋯⋯許してあげます」

 シアはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

「それで? なんでわかったんだ」
「愛です⋯⋯キリッ!」
「はいはい、そうですね」

 シアがどや顔でしょうもないことを口にしたので、手を振って適当にあしらう。

「冗談じゃないのに⋯⋯」
「はは⋯⋯」

 とりあえず笑って誤魔化す。
 シアは容姿もスタイルもよく、男にモテる要素が満載だが、聖女という肩書きがネックだ。
 もし聖女であるシアと結婚したら、聖女の夫という称号を手に入れてしまい、ダラダラ過ごすことが出来なくなる。
 そんな人生はごめんだ。

「いいですよ。そのうち私の魅力で落として見せますから」

 突然シアが耳元で囁いて来たので驚いてしまう。だがここで取り乱してはシアの思う壺なので、平静を装う。

「そ、そういえば初めて会った時の話だっけ」 
「逃げましたね」
「逃げてない」
「もういいです。え~と初めて会ったのは火事からユート様が私を救ってくれて」
「私と

 そう俺はあの時、シアと一人の子供を火事から助けた。
 その出来事は今でも昨日のことのように思い出せる。



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