ある時は狙って追放された元皇族、ある時はFランクのギルドマスター、そしてある時は王都の闇から弱き者を護る異世界転生者

マーラッシュ

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別の自分

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 確かあれは四年程前だったな。
 発端は礼拝のために、教会を訪れた皇族を狙った襲撃だった。そして教会が燃え上がり、辺りが騒然としていた。
 そのような中で、まだ十二歳の少女であるシアが、子供の泣き声を聞いて火に包まれた教会に飛び込んだのだ。
 ハッキリ言って子供が炎の中に飛び込むなんて、正気とは思えない行動だった。
 たまたまその光景を見ていた俺は、人がいない教会の裏手からシアの後を追いかけた。
 燃え盛る教会の中へと向かうと、シアは子供に覆い被さるように倒れていた。シアの背中は火傷でひどい傷を負っており、燃えて倒れてきた建物から子供を守ったのだと容易に想像が出来た。

「これはひどい」

 シアの白く美しい背中が見る影もない。この火傷を綺麗に治すには、相当高位の回復魔法でなけば不可能だろう。
 俺はシアの背中の火傷に、意識を失っていた二人を背負って裏手から脱出した。
 教会から外に出た時にシアが目を覚ましたので、俺は助けたことを秘密にしてほしいとお願いして、この場から離れたのだ。
 そしてこの後のことを直接見た訳ではないが、シアが魔法で子供の傷を治したことにより、世間から聖女と呼ばれるようになった。
 あの時は危険を省みないシアに対して尊敬の念を抱いたが、どうやらその行動にも理由があったことを本人に後から聞いた。

「あの時の私は色々大変でしたから」

 今の言葉から、シアも昔のことを思い出していることがわかった。
 火事の翌日。ボーッと川を眺めていたシアをたまたま見かけたので、自分が死ぬかもしれないのに、どうして火の中に飛び込むことができたのか理由が知りたくて、俺は話しかけた。
 するとシアは虚な目をしながら、自分の心の内を教えてくれたのだ。

「人に尽くせ、正しくあれ、皆の模範となれ⋯⋯何度この言葉を親から聞いたことか」

 教会の上層部にいたシアの両親は、教団員としての英才教育をシアが幼き時から施してきたのだ。
 だが子供のシアにはその重圧を受け切ることが出来ず、そのプレッシャーから逃れるために、自分の命などどうなってもいいという考えに至り、火の中に飛び込んだ。

「もちろん子供を救いたいって気持ちはあったよ。でも両親から逃れたいという気持ちもあったの」

 あの時のシアは危うく見えた。命を断つために目の前の川に飛び込んでもおかしくない雰囲気があったな。
 だから放っておくことが出来なかった。

「ユクト様は私に向かって、人は生きる限り必ずストレスを抱えている。そのストレスとどうやって付き合っていくことが大切なんだ。何か好きなこととか楽しいことはないのか? ないなら俺が一緒に探してやるからって言われたことを今でも鮮明に覚えています」
「そんなこともあったっけ? もう忘れたよ」
「嘘ばっかり。ユクト様は絶対に覚えていますよね」

 シアの言う通り、忘れてはいない。というか子供だったのにシアが俺の言葉を一語一句間違えずに覚えていることが驚きだ。

「そしてシアが見つけたストレス解消方が、布面積が少ない服を着て、別人の自分になることとは思わなかったよ」
「私だって思わなかった。ユクト様が見つけてくれたんじゃないですか」
「それ⋯⋯他の奴には絶対言うなよ」

 俺の趣味だと思われるじゃないか。まあ嫌いではないけど。
 だけどそれより聖女様に露出狂のようなことをやらせたと知られれば、どんな目に遭うか想像に容易い。
 でも真面目な奴ほどむっつりなことを考えているという諸説は正しいと証明されたな。

「ともかく私はユクト様に感謝しているってことですよ。ユクト様のためなら何でもやりますよ」

 おそらくシアが女神の執行者として働いてくれるのは、この時の出来事が関係しているのだろう。
 聖女という立場もあるから本当は参加させたくない所だが、今のシアは女神の執行者として必要な人材のため、やめろということは出来ない。

「はいはい。そうですね」
「あっ! 信じてないでしょ」

 シアなら本当にどんなことでもやりかねないので、俺は適当に返事をしておく。

「それよりレリシア様。孤児院に着きますよ。そろそろ聖女モードでお願いします」
「承知しました」

 シアの雰囲気が凛としたものへと変わる。
 瞬時に人格を切り替えることが出来るから大したものだ。

 そして俺達は孤児院へと到着した。
 すると院長であるローガンに出迎えられた。そしてその背後にはミーアがいた。

「おお⋯⋯聖女様、ユクト殿、よくぞ来られました。実は今日はお二人にお話しておきたいことがありまして⋯⋯」

 ローガンは嬉しそうな顔をしていたが、後ろにいたミーアは元気がなく、少し複雑な表情をしていた。
 そしてこの後ローガンから語られた言葉は、ある意味孤児院ではよくある話だった。
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