姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

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奴隷商人と呼ばれた男

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「なあなあ、誰にリングを着けるんだ? 俺としては沢尻が良いとおもうけど」

 都筑が興味津々と言った様子でリングをつける相手を聞いてくる。

「沢尻にはリングはつけないよ」
「それなら井沢か田中か? サッカー部だから封じておいて損はないぜ」
「いや、その二人でもない」
「だったら誰に着けるつもりなんだよ」
「キーパーにするつもりだ」
「腕につけてセービングに支障をきたす作戦か? それとも足につけて動きそのものを制限させるのか?」

 この時キーパーにリングをつけると話を聞いて、誰もが都筑と同じような考えに至っていた。だが⋯⋯。

「いや、キーパーの藤田の首に3つリングを着けて下さい」

 俺はそう宣言するとCクラスはおろかAクラスのメンバーも予想していない答えだったのか驚いている。

「天城くん首に⋯⋯それは⋯⋯」

 神奈さんも俺の答えに驚愕し、困惑している。

「ルール上問題ないはずだ。得点を決めた者は、得点の数によって指定した相手の、10キロのリング状のパワーアンクルをつけることができる。だからな」
「ふざけるな! そんなことでき――」
「Aクラスの願い、了解だ」

 沢尻が抗議の声を上げる前に、審判の教師が俺の答えを承認してくれる。

「ちょっと待て! そんなことをしたら⋯⋯」
「動けないな。そうなるとルールでは、パワーアンクルをつけられて教師が動けないと判断した場合、その選手は退場となる」
「きたねえ手を使いやがって!」
「きたない? ルールの範囲内だが? さっき都筑にルールを学んだ方がいいと言っていたが、沢尻の方がルールを学んだ方がいいんじゃないか?」
「くっ!」

 沢尻は俺に正論を言われて悔しそうに顔を歪ませている。

「藤田、一応聞くが30キロの重りを首につけてキーパーをすることができるか?」
「いや、無理でしょ。ミノムシみたいに這いつくばることになっちまう」
「それでは審判の権限でキーパーの藤田を退場とする」

 審判の命令により藤田はフィールド外へと向かっていく。
 この意味がCクラスはわかっているのだろうか。

「誰かが変わりにキーパーをやるしか⋯⋯まさか!」

 サッカーにおいてキーパーがいないなど負け試合をするようなものだ。どうやら沢尻はキーパーが退場した意味にやっと気がついたようだ。

「Cクラスはキーパーなしで試合をするしかないだろ? ルールを忘れたのか?」

 そう、ルールでキーパーの交代、ポジションチェンジはどちらか一度だけとするとなっている。既にCクラスのキーパーは高見から藤田に交代しているため、キーパーのポジションに誰かをつけることはできない。

「くそが! まさかこんな手を使ってくるとは!」

 沢尻は怒りに震え、地面に左拳を叩きつける。
 怒りに我を忘れているとはいえ、さすがに利き腕で殴ることはなかったようだ。

 それにしても作戦が上手くいって良かった。今だから言うがスポーツに絶対はないため、俺が点を取られることもあれば神奈さんがシュートを決められなかった未来もあったかもしれない。だが一番手っ取り早く勝つにはこの方法が最適だと考えた。ヒントは氷室先生が教えてくれていたしな。
 氷室先生は封鎖サッカーの説明をしている時に、わざわざここが重要だと教えてくれたからだ。
 氷室先生は怖そうに見えて意外と優しい先生なのかな? 

 ともかくこれで同点になり、相手はキーパーが退場となったので、こちらに少し有利な状態となった。だがAクラスも主力三人が重りをつけられているため油断はできない。

 そして俺はCクラスのキックオフに備えるため、自陣に戻っているとクラスメート達が一斉に俺の側まで寄ってきた。

「よくあんなこと思いついたわね」
「天城、おまえすげえよ」

 ちひろや都筑、Aクラスのメンバーが、後半開始の時とは違い、こぞって称賛の言葉を述べてくる。
 やはり最初はどうあれ、人に誉められるのは気持ちがいい。これでクラスメートの信頼も女子からの尊敬の眼差しもゲットしたも同然だ。
 だがこの後、俺の思惑とは裏腹に、外野からとんでもないことを口走る奴がいた。

「さすが先輩! 首にリングをつけるなんて前世が奴隷商人なだけはありますね! 転生しても魂がちゃんと覚えているってことですか」

 瑠璃が俺を陥れるようなことを大声で叫んできた。

「えっ? 奴隷商人?」
「人に首輪をつけて言うことを聞かせるのが好きってこと?」
「最低ね。人間の屑だわ」

 瑠璃のせいで敵であるCクラスはともかく、味方であるAクラスのメンバーも白い目で俺を見てくる。
 ここはすぐに訂正しなければ好感度がプラス所かマイナスに急降下してしまうぞ。

「瑠璃! 冗談はやめてくれ! 俺がいつ奴隷商人になったんだ」
「だって先輩、このチョーカーを私につけてくれたじゃないですか。てっきり俺の奴隷になれって意味かと思いました」

 そう言って瑠璃は首につけている、黒と白のフリルのチョーカーを指差す。
 確かに誕生日にチョーカーをプレゼントしたが、それはお前がほしいと言ったからじゃないか。

 だがそんな理由を知らない周囲は。

「やっぱり本当だったんだ」
「あんな可愛い娘を奴隷にするなんて」
「リウトちゃんは甘えさせてくれる年上のメイドさんが好きだったんじゃないの! ひどいよ!」

 何故かコト姉まで女子達に混じって俺のことを非難してくる。
 このままだとせっかく上がったAクラスでの地位が悪くなってしまうぞ。

「これは――」
「静かにしろ! 今はエクセプション試験中だぞ!」

 俺は事実無根だと訴えようとしたが、審判をしている教師に止められ、弁解する機会がなくなってしまう。
 そしてエクセプション試験中に浮わついたことをしている俺に対して、Cクラスの男達から殺意を持った目で睨まれる。

「あんな軽薄な奴に絶対負けねえぞ!」
「ちくしょう! 俺の瑠璃ちゃんが⋯⋯」
「奴隷持ちとは舐めた奴だ!」

 やれやれ、恨まれるのには慣れているから堪えることはできるが、勝負は負けてやるわけにはいかない。
 Cクラスの奴らは気づいているのか? キーパーがいなくて地獄を味わうのはこれからだということを。

 俺は不敵な笑みを浮かべ、試合に望むのであった。

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