姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

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初めての家

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ユズのケーキを食べ過ぎた翌日の月曜日

「今日、衣装合わせをしたいからこれから私の家に集合ね」

 放課後になると後ろの席のちひろが突然そんなことを言い始める。

「ちひろの家?」

 ちひろとは高校から知り合って、まだ1度も自宅には行ったことがなかった。そういえばちひろの家族構成ってどうなっているんだ? 自由奔放だから一人っ子? それとも弟を虐げる姉? 兄に甘やかされてきた末っ子? どれもありえそうだな。

「あれ? まさか変なことを考えている?」
「なんのことだ?」
「私の部屋のタンスを開けて下着を被ったり、へっへっへ⋯⋯叫んでも誰もこないぜとか言って私を⋯⋯ごめん神奈っち、身の危険を感じたから神奈っちも来てもらってもいい?」
「いや、やめてくれない。自己完結で俺を悪者にするの」
「わ、わかりました。大丈夫です。私がちひろさんを護りますから」

 神奈さんがキッとこちらを睨んでくる。
 あの目はまだ俺が紬ちゃんに手を出す変態だと思っている目だ。
 もし俺がドMなら喜びに打ちひしがれる所だが、残念ながらMではない。

「神奈っち冗談だからね。接客担当の人が来てくれないと衣装合わせができないから」

 ちひろは神奈さんの殺気が予想より大きすぎたのか、慌ててフォローをし始める。

「も、もちろん冗談だってわかっていました」

 本当か? 俺を犯罪者を見るような目で見ていたのは気のせいだろうか。

「それじゃあわが家へレッツゴー」

 こうしてちひろは俺と神奈さんをつれて自宅へ向かうのであった。


「それじゃあそこに荷物置いておいて」

 俺はちひろに従って荷物を床に置き、部屋の中を見渡す。
 ちひろの家は3階建てのアパートだった。本人曰く2LDKの部屋らしいが、家族で住むなら少しせまいかもしれない。
 ちなみに先程まで持っていた荷物は、帰りにスーパーや八百屋に行って買った食材である。
 何でこんなもの買ったかって? それはもちろん⋯⋯俺にカレーを作らすためだよ! 
 ちひろが今日は甘口のカレーが食べたいとか言い出して、食材を自分のスコアで買ったからだ。羽ヶ鷺にある店舗なら学園のスコアで買うことができるため、現金がない時はとても助かる。
 まあ俺もカレーを作る対価として、後日ちひろにラーメンを奢ってもらうことになっているから別にいいけど。

「ちひろさん御家族の方はお仕事ですか?」
「ううん⋯⋯私独り暮らしだから。両親は都内に住んでるよ」

 ここで新たな情報が発覚。ちひろは独り暮らしなのか。一年一緒にいたけど初めて知ったぜ。
 そうなると2LDKのこの部屋は十分に広い。アパートはオートロックだったし、もしかしたらちひろの親はそこそこ裕福なのかもしれない。

「えっ? 都内に御自宅があるのに独り暮らしを?」
「そう。高校に入った時に親が引っ越しちゃって。私は通学で朝早く起きるのがめんどくさいからこっちに残ったの」
「わざわざ都内よりこっちを選ぶなんて変わってるな」
「だって羽ヶ鷺って特別な授業があっておもしろいじゃん」

 確かにちひろの言うとおり、羽ヶ鷺はスコアシステムもあるし、国が新たな試みとして作った学園で人気もあり、学区外から来る者もいると聞いていたが、身近にいたとはな。

「それにもし両親と一緒に住んでいたらリウトを家になんて呼べないよ」
「えっ? なんで?」

 神奈さんもいるし、友人として家に連れてくることくらいいいと思うが。

「だめだめ、お母さんは喜ぶけどお父さんはビックリして何をするかわからないから」
「ちひろに彼氏が出来たって嬉し過ぎて?」
「ん~悲しみと殺意で」
「そ、そうなんだ⋯⋯」

 どうやらちひろの父親も親父と同じ様に、娘を溺愛しているようだ。世の中の娘を持つ親は全員同じ考えなのだろうか。とにかくちひろの父親とは極力会いたくないものだな。

「ジュースを出すからこの部屋で待ってて」

 そう言って通された所は白を統一した部屋で、女の子らしくたくさんのぬいぐるみがベッドの上に横たわっていた。

「な、何よ。人の部屋をジロジロ見て。別にめずらしいものじゃないでしょ」

 男に部屋を見られたことが恥ずかしいのか、ちひろは目を泳がせ、少し挙動不審だ。

「ああ、BLのポスターやフィギュアがなくて安心したよ」
「あんたいつも私のことをどんな目で見てるの!」
「すまん。思ったより可愛らしい部屋で驚いたよ」
「そ、そう?」
「そうですよ! ぬいぐるみもたくさんあって、とっても素敵なお部屋だと思います」

 神奈さんはキラキラした目でベッドの上に視線を向けている。どうやら神奈さんはぬいぐるみが大好きなようだ。後でタブレットに入力しておこう。

「とりあえずオレンジジュースでいい? 今持ってくるから、神奈っちはリウトがタンスの中にある下着を被らないか見張ってて」
「わかりました」
「わかりましたじゃないよ!」

 神奈さんは俺が変態◯面のように下着を被ることを疑いもせず、返事をしないでほしいものだ。

 そしてちひろが持ってきたオレンジジュースを飲みながら休憩をした後、俺はキッチンを借りてカレーを作り始める。

「3人分でお願いね」
「はいはい」

 一応返事はしたが3人分? 俺と神奈さんの分か? けどちひろは俺が甘口より辛口が好きなの知っている。もしかしたら明日食べる分なのかな? カレーは一晩寝かせると美味しいと言う人もいるし。 

 俺はそのことをあまり疑問に思わず調理し始め、もう少しでカレーが完成という所で話しかけられる。

「ねえねえリウト、ちょっとこっちを見て」

 ちひろが後ろから呼んできたので振り向くと⋯⋯そこには神ウェイトレスがいた。
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