姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

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地獄への始まり

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ユズ達は調理室を出てスーパー井沢へと向かう。
 この空き時間で出来るだけカレーを作らないと。

「俺はスパイスの調整をするからみんなは玉ねぎ、人参、じゃがいもを切ってもらえないかな」
「了解です」

 クラスメート達は水瀬さんが中心となって野菜を切り始める。

 よし。まずは甘口から作るか。ターメリック2にガラムマサラ4――。
 そして俺は10分程で甘口、中辛、辛口のスパイスを整える。

「スパイス調整が終わったから野菜を切るの手伝うよ」

 俺は空いているはじっこのスペースを使って玉ねぎを切り始める。

 トントントントントントン

 時間もないこともあり、俺は正確に切れる限界の早さで玉ねぎを切り刻む。

「リウトはやっ!」
「しかもそれでいて大きさが統一されています」
「天城くん1人で私達3人分くらいの早さじゃない?」

 いつもならクラスメート達の褒め言葉に悦に入る所だが、今はとにかく早く切ることに集中していて、 その声は俺の耳に入ってこない。

「いつもなら女子の褒め言葉を聞くとデレデレするのに⋯⋯それだけ真剣なんだね」
「柚葉さんの為に頑張っている天城くん。ちょっとカッコいいね」
「私達もなるべく天城くんの負担を減らすようにがんばりましょう」

 水瀬さんの掛け声にクラスメート達は頷き、2ーAのカレーを作るスピードはさらに上がっていく。

 そして野菜や鶏肉が全て切り終わり、玉ねぎや人参などを炒め始めた頃、突如大きな音をたてて調理室のドアが開かれる。

「に、兄さん!」

 ユズが瑠璃ともう1人の1年生を引き連れて、いつもより大股で俺の元へ向かってくる。
 普段淑女としての行動を意識しているユズには珍しい光景だ。

「ど、どういことですかこれは!」
「いきなりどういうこととか言われても何のことか全くわからないぞ」
「これですよこれ!」

 そう言ってユズは俺のスマートフォンを指差した。

「ちゃんと買えたか? それは良かった」

 3人が手に大荷物を持っているので、おそらく無事にケーキの材料を買うことが出来たのだろう。

「よくありません! Sアプリの中に入っていたスコアがひゃ⋯⋯」

 俺はユズが言わなくて良いことを口にしようとしたので、口を手で塞ぐ。

「それは内緒だ」

 多くのスコアを持っていると知られたら、余計な敵を作りそうだからな。

「瑠璃と⋯⋯」

 俺は買い物に行ったユズと同じクラスだと思われる女の子に視線を向ける。

「あっ! 私は楓と言います」
「楓さんもこのことは内緒な」
「先輩との2人だけの秘密というわけですか⋯⋯仕方ありませんね」
「いや、4人の秘密だから」

 瑠璃がボケたので俺は突っ込みを入れる。
 何となくだが瑠璃がいつもよりバカなことを口にしている気がする。もしかしたら新入生歓迎会の材料が来なくて落ち込んでいるユズを励ますためなのかもしれない。ユズも良い友達を持ったものだな。

「とにかく兄さんにスマートフォンを返します。こんな高価なものを持つなんて、怖くて震えてしまいますから」

 俺はユズからスマートフォンを受け取る。
 スマートフォンを受けとる時、ユズは本当に震えていたから思わず心の中で苦笑してしまう。

 これでケーキ作りの材料は揃った。後はひたすら馬車馬の如く働くだけだ。

「水瀬さん、みんな⋯⋯後はお願いできるかな?」
「任せて! 後は私達が何とかするから。天城くんは大好きな妹さんを助けて上げて」
「あ、ああ。ありがとう⋯⋯」

 水瀬さんが大好きな妹なんて言うから返事に困るじゃないか。ユズも今の話を聞いて顔を真っ赤にしているし。
 と、とにかくこれで1ーAに集中できる。

「瑠璃と楓さんはケーキ作りは出来るのか?」
「味と見た目の保証がなくていいなら私でも出来ます」
「1人だと難しいですね」

 味と見た目を気にしなくていいなら誰でも作れると瑠璃に突っ込みたいが、もう時間がないので突っ込まない。

「確かシフォンケーキ、カップケーキ、パンケーキだよな? 作るの。ユズはこの中でどれが一番得意だ?」
「得意ではありませんが、その中ならカップケーキが一番上手く作れると思います」
「それならシフォンケーキとパンケーキは俺が作ってユズはカップケーキを頼む。そして楓さんは俺のサポートで瑠璃はユズのサポートをお願い」

 ユズは意外と人見知りだから、ここは瑠璃と組ませた方がケーキ作りがはかどるだろう。ユズと楓さんがどれだけ仲が良いかわからないしな。

 もう新入生歓迎会が始まる10時まで、1時間を切っている。朝一のお客さんに食べさせるには、もう作り始めないと間に合わないから、効率重視で行くのが良いだろう。

「兄さんに従います」
「先輩に従います」
「え~と⋯⋯2人に合わせて天城先輩に従いますって言った方がいいのかな?」

 楓さんは真面目そうに見えたけど、どうやらノリがいいようだ。

「それじゃあがんばろう」
「「「おー」」」

 こうしてここから俺達4人の地獄の時間が始めるのであった。
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