姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ

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紬ちゃんを探せ

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「紬ちゃんがいないってどういうこと?」

 俺は走っていたためか、汗だくで髪を乱した神奈さんに問いかける。

「朝、湖の方へ散歩に行くために⋯⋯私が忘れ物をして、別荘の入口で紬がいるはずなのにいなくて⋯⋯」

 じゃっかん文章がおかしいが、おおよその見当はついた。湖に行こうとして別荘の入口で待っているはずの紬ちゃんがいなくなったんだ。

「それって何分くらい前?」
「じゅ、10分くらい前です! 先へ行っていると思い湖に来てみましたが紬の姿はなくて⋯⋯」

 10分か。子供の脚ならそう遠くへは行けないはずだ。だがここは山で周囲は森に囲まれており、近くに湖や川がある。うっかり足を滑らせて水の中に落ちたら大惨事になる可能性が高い。

「わかった。俺はこのまま紬ちゃんを探しに行くから神奈さんは別荘に戻って人を連れてきてくれ」
「わ、わかりました」

 こういうのは時間との勝負だ。早ければ早いほど紬ちゃんは無事でいる確率が高い。そのためには別荘にいる皆の力を借りた方が良いだろう。

「それじゃあ俺は川と山の方を探してくる」

 湖の周辺は視界が良く、先程の言葉より神奈さんが探していたと思われる。それなら俺は危険がありそうな場所を中心に回ろう。

「天城くん! よろしくお願いします」

 神奈さんは俺に頭を下げるとすぐに踵を返し、急ぎ別荘へと向かう。

「さて、俺も急ごう」

 そして俺は紬ちゃんを探しに川沿いの道へと走り、山を登っていくのであった。


「紬ちゃーん、いたら返事をしてくれー」

 ダメだ。さっきから何度も紬ちゃんの名前を呼び続けているが、返ってくるのは小鳥の囀りだけだ。

 川に落ちてしまったことを考慮して、水辺の方を中心に探しているが、今の所成果は何もない。

「足を滑らせて川に落ちていないといいが⋯⋯」

 川の流れはかなり速い。紬ちゃんが落ちたら助かる確率はかなり低いと思う。
 俺は紬ちゃんが溺れてしまった所を想像すると古傷である左腕の肘がズキリと痛む。

 嫌な予感がする。この時の俺は一刻も早く紬ちゃんをみつけないと取り返しのつかないことになるような気がしていた。

「紬ちゃーん! 紬ちゃーん!」

 頼む! 見つかってくれ!

 俺は汗が出ようが息が乱れようが関係なく、ただ走り続け、声を出し続け、周囲の気配に最大限注意を払う。
 神奈さんと別れてから7分程が経ち、俺の中の焦りがどんどん大きくなる。
 子供の足ならもう追いついてもいいはずだ。
 だが俺の声に紬ちゃんが反応してくれることはない。何か気絶して返事ができないのか? もしかしたら川に落ちて底に沈んでしまったのか?
 俺は紬ちゃんが見つからないことで焦燥感に駆られたのか、負の結果だけが頭に過る。
 いや、ひょっとして紬ちゃんは誘拐されてしまったのか? もうこの周辺にはおらず、車で連れ去られているのならいくら声をかけても無駄だ。だがまだそのような未来が確定した訳ではないので俺は懸命に声を出す。

「紬ちゃーん! 俺の声が聞こえたら応えてくれ! お姉ちゃんも、神奈さんも心配しているぞ!」

 もう何度目かわからないが、大きな声を上げて紬ちゃんの行方を探すが成果はない。
 これは一度戻って皆と情報共有をした方がいいのか? 見逃している部分もあるかもしれないので確認しつつ1度湖の方へと戻ろう。

「くそっ!」

 俺は何も収穫もなく、苛立ちを覚えながら来た道を戻ることを決断し、最後にもう1度、力を振り絞って声を絞りだす。

「紬ちゃーん! 聞こえたら返事をしてくれー!」
「リ⋯⋯に⋯⋯さん」

 ん? 今微かだが返事があったよな? 山の方か!

「紬ちゃーん! 紬ちゃーん!」

 俺は全力で声を出しながら山の方へと登っていく。

「リウトお兄さん」

 すると段々と紬ちゃんの声がハッキリと聞こえるようになってきた。

「よかった。とりあえず最悪のケースは免れたようだ」

 紬ちゃんの生存が確認できた所でひとまず俺は安堵のため息をつく。
 声の質からして焦っている様子ではないので、紬ちゃんは無事である可能性が高いと感じたが、それは大きな間違いだったことに後で気づく。

「紬ちゃん、どこにいるの?」

 俺は紬ちゃんの元へと行くため、山道を少し逸れた森の中へと進んでいく。

「リウトお兄さんこっちです」

 15メートル程先にある茂みの向こうから紬ちゃんの声が聞こえるが、この時俺は違和感を感じた。
 紬ちゃんは俺の声が聞こえても何故こちらに来ないのだろう。まさか怪我をしているのか!
 俺は足早に茂みを越えるとそこには身を低くした紬ちゃんの姿があった。

「紬ちゃん大丈夫? どこか怪我をしてない?」
「怪我? 私、痛い所なんてどこにもないよ?」
「そうなの。とにかく見つかってよかった」

 どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。

「1人で遠くにいっちゃダメだぞ。お姉ちゃんすごく心配していたからな」
「ご、ごめんなさい⋯⋯」

 俺が叱ると紬ちゃんは少し泣きそうな表情をみせる。悪いことをしていた自覚はあるということか。

「でも何で1人で森の中に来たの?」

 俺は疑問を問いかけると泣きそうだった紬ちゃんは、少し興奮した様子で話してくれる。

「お兄さんあれ見て」

 俺は紬ちゃんが指差す方に視線を送るとそこには黒い何かがいた。
  

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