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感動の再会

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「紬!」
「お姉ちゃん!」

 目の前で姉妹が駆け寄り感動の再会を果たしている。

「無事で良かった⋯⋯本当に良かった」
「お姉ちゃん⋯⋯ごめんなさいごめんなさい」

 二人は互いを抱きしめ涙を流しており、特に神奈さんは紬ちゃんのことが心配だったのか、感情が露になっている。

「良かった。良かったよぉ」

 そしてうちの姉はそんな2人の様子を見てもらい泣きをしていた。
 とにかく紬ちゃんを神奈さんの元に無事届けられて良かった。もし紬ちゃんに何かあったらこの涙は喜びから悲しみ変わっていただろう。

「もう⋯⋯どうして別荘からいなくなったの?」

 神奈さんは紬ちゃんの両肩に手を置き、原因を聞くために問い質す。

「ごめんなさい。別荘の近くに熊さんが2匹いて、気になって追いかけちゃったの」
「えっ? つ、紬⋯⋯い、今何て言ったの?」

 神奈さんは信じられないと言った表情で、もう一度紬ちゃんに別荘から離れた原因を聞いている。
 まあ普通はそうなるよな。熊を追いかけていたなんて到底信じられるものではない。

「熊さんがいたから追いかけたの。撫でさせてもらったけどあんまりもふもふはしてなかったよ」
「くくく、熊に触ったって! つつ、紬大丈夫だったの!」

 神奈さんは顔面蒼白になりながら紬ちゃんの安否確認をしている。
 もし俺が紬ちゃんの兄だったら今の神奈さんのように生きた心地がしなかっただろう。

「お姉ちゃんよりおっきい熊さんが来たけどリウトお兄さんが護ってくれて」

 紬ちゃんがそう言うと神奈さんが俺の方へと視線を向ける。
 そして破れたTシャツに目が行き(上半身裸だとまた変なことを言われそうだったので再び着ることにした)地面に頭がつく位頭を下げ始めた。

「紬を護るために申し訳ありません! 天城くんはお怪我はありませんか! 大丈夫ですか!」

 神奈さんが狼狽えた様子で破れたTシャツの部分をめくり、傷がないか確認してくる。

「怪我はしてないよ。それに俺は紬ちゃんを逃がすことで精一杯だった。実際に熊を殴って退けたのはコト姉だから」
「く、熊を殴るって⋯⋯琴音さんはそんなに強いのですか!」

 ですよね。どう見ても華奢で胸が平均より小さいコト姉が熊を退けたなんて言っても誰も信じられないよな。

「あれ? 何か今誰かが失礼なことを考えていたように感じたけど気のせいかな? ねっ! リウトちゃん」
「き、気のせいじゃないかな。俺は今頭の中で強くて優しいお姉ちゃんがいて幸せだなって思っていただけだから」
「そう? それならいいけど」

 こ、この姉は強さだけではなく、勘まで野生の動物以上に働くのか。

「神奈先輩が疑いたい気持ちもわかりますが本当のことです。お姉ちゃんの強さは化物じみてますから」
「ユズちゃんお姉ちゃんを化物なんてひどい! お姉ちゃんはどこにでもいる弟くんと妹ちゃんが大好きな普通の女の子だよ」
「そ、そうですね。お姉ちゃんごめんなさい」

 少なくともこの時俺とユズはコト姉が普通の女の子だなんて思っていなかった。どこの世界に女子高生が熊を殴って10メートル吹き飛ばすんだ、と心の中で思ったが突っ込むと人類最強の女子高生である姉の機嫌を損なうので止めておいた。

「わ、わかりました。にわかに信じがたいお話ですが柚葉さんが言うなら信じます」

 ユズの言葉なら信じるというのが少し気になるが、とりあえず俺達が嘘を言っていないことが神奈さんには伝わったようだ。

「琴音先輩、紬を助けて頂きありがとうございました」
「紬ちゃんみたいな可愛い子を護れることが出来て良かったよ」
「ほら、紬からもお礼を言いなさい」
「うん⋯⋯リウトお兄さん、琴音お姉ちゃん助けてくれてありがとうございます」

 もうお礼はもらっていたが、紬ちゃんは神奈さんに言われて改めて感謝の言葉を伝えてくる。だがこの後紬ちゃんは俺達に向かってとんでもないことを言い出してきた。

「このお礼は将来リウトお兄さんのお嫁さんとして天城家に入ってから返すね」

 さっき恋人云々で揉めていたことは神奈さんと紬ちゃんの感動の再会によって有耶無耶になっていたのに、再び紬ちゃんの手で蒸し返されることになった。

「天城くん⋯⋯ど、どういうことですか!」

 神奈さんは熊にも匹敵する怒りのオーラを纏っている。
 このパターンはまた神奈さんにロリコン扱いされる! この時の俺は罵られることを覚悟していたが、神奈さんはため息をつくとオーラを引っ込めた。

「それなら将来に向けてお料理が出来ないとね」
「うん!」
「それと勉強やお裁縫も頑張らないとダメよ」
「わかってるよ。私はリウトお兄さんにとって良い妻になるんだから」

 予想外に神奈さんは俺と紬ちゃんの仲を認めてきた。もしかしたら本当に認めている訳ではないが、何か目標があった方が紬ちゃんの成長に繋がると考えているのかもしれない。

「やれやれ。俺も紬ちゃんのがんばりに報いるよう素敵な大人にならないとな」

 まさか神奈さんが紬ちゃんの気持ちを認めるとは思わなかった。俺が紬ちゃんを助けたことによって少しは歩み寄ってくれたのかな?

 こうして俺は迷子の紬ちゃんを見つけることができ熊に襲われるも、何とか無事に切り抜けることが出来たのであった。

「ちょっとリウトちゃん。何を綺麗にまとめようとしているのかな?」
「いくらロリコンでも幼過ぎませんか? 兄さんには1~2歳年下がお似合いですよ」

 俺としては何事なくこのまま紬ちゃん迷子事件を終わらせようとしたがそれをコト姉とユズが許さない。

「いや、別に俺はそんなつもりじゃ⋯⋯」
「ユズちゃん。それは違うよ。リウトちゃんは年上で甘えられる人がお似合いだと思うな。包容力がある人が好きだって言ってたし」
「いえ、紬ちゃんが大好きなことから兄さんは年下好きだということは明白です。それに甘えてくる子が好きだと私は聞いています」

 2人にそんなこと言った覚えがないのに⋯⋯き、記憶が捏造されている。

 だがこれはチャンスだ。俺はコト姉とユズが言い争っているうちにこの場から脱出することを選択するのであった。
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