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最強の援軍?
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そして時は進み、ラフィーネへ通信を送った所へと戻る。
「ハインツ、このままここにいてもいいのか? お前も感じるはずだ。援軍の足音を!」
「何!?」
ハインツはダークネスブレイクの発動を中止し、周囲の気配を探り始める。
「こ、これは⋯⋯貴様まさか!」
「お仕置きされても知らないぞ」
ハインツは援軍の正体が誰かわかり、取り乱し始める。
魔王化して冷静な態度を取っていたハインツだが、さすがに援軍に来た人物に対して平然とすることは難しいらしい。
正直な話、ハインツをこのまま野放しにするといつか必ず俺に災いをもたらしてくることはわかっているけど今は一刻も早くルナさんや捕縛された人を助けたい。
だからここは退いてくれた方が助かる。
「だがその前にお前を倒せば済む話だ」
ハインツは退却するより戦うことを選択したようだ。確かにハインツの性格上余程のことがない限り、憎むべき相手がいる前で尻尾を巻いて逃げるということはプライドが許さないか。
こうなったらこちらも腹を括ってハインツを始末するしかない。
だがこの時援軍の方で動きがあった。
探知スキルで視ると援軍は今、ラフィーネさん達の部隊の周囲にいる兵隊を蹴散らしているが、その中で1人だけ猛スピードでこちらに向かってくる者がいた。
げっ! まずいぞ。このままだとさらにこの場が荒れてしまう!
何とかその前にハインツとの決着をつけないと。
しかし俺の願いは虚しく、1人の少女が俺とハインツの戦いに乱入してくる。
「ようやく会えたわね⋯⋯ハインツ!」
猛スピードでこの場に現れた者⋯⋯それは公爵家の令嬢で剣の天才と呼ばれたエミリアだった。
「エミリアか⋯⋯貴様には用はない」
「あなたに無くても私にはあるのよ。勇者パーティーではよくもリックをこき使ってくれたわね」
「それはエミリアも同じじゃないか」
俺は、エミリアが普段どんな行動をしているのか理解できていないのではと思い、つい突っ込みをいれてしまった。
「う、うるさい! 私はいいのよ!」
それは理不尽じゃないか? まあこの世界では権力がある人の言うことは間違っていても正しいことになってしまうからな。
「とにかくリックは私に強化魔法をかけなさい!」
俺はエミリアの言葉に従ってクラス2旋風創聖魔法とクラス2烈火創聖魔法をかける。
「それと玉座の間ではよくもリックがスパイだなんて虚偽の報告をしてくれたわね」
「それがどうした?」
「どうしたですって? 皇帝陛下もあなたが嘘をついていたことは既に御存知よ。どんな処分が下るか今から楽しみだわ」
「俺はもう帝国を捨てた。帝国でどんな裁きが下ろうと今の俺には関係ない」
「あのハインツが帝国を捨てた? どういう意味なの?」
「私は今、ザガド王国のハインツだ」
「あなた⋯⋯帝国を裏切るつもり? 皇帝陛下の怒りを買うわよ」
「確かに父上は強い。だがこちらには⋯⋯いや、今はまだ口に出すわけにはいかないな」
ハインツが気になる所で言葉を切る。どうせなら悪役らしくベラベラと全てを語ってほしいものだ。
「最後まで言いなさい。それに先程から思っていたけどいつものように威張り散らして命令する姿も見るに絶えなかったけど⋯⋯」
それはエミリアも同じなのでは? 俺に足の裏を舐めるように命令してきたし。
だが今そのようなことを言うとさっきみたいに怒られるので黙っておく。
「今のあなたは思春期の子供が背伸びをしているようにしか見えないわよ」
確かにエミリアの言うとおりだ。
この世界にはない言葉だけどハインツは思春期で向かえる中二病みたいになっている気がする。黒いオーラを纏っているし。
「帝国にいた頃の俺は死んだ。今の俺が本当の姿だ」
エミリアの言うとおりハインツが中二病だと考えて今のセリフ聞いたら何だか笑いが込み上げてきた。
だけど言葉はともかくハインツが成長しているのは確かだ。
以前のハインツだったらエミリアに「子供が背伸びをしているように見える」なんて言われたら激昂して斬りかかっていただろう。
だが今のハインツは至って冷静に見える。
嫌な風に成長してくれたものだ。どうせなら帝国にいた頃に今の冷静さを身につけて欲しかったけどな。
「またかっこつけちゃって。正直似合っていないわ」
エミリアはハインツに殺気を向けて剣を構える。
もうこうなったらエミリアは止められない。それなら皇帝陛下を倒した時のように一緒に戦って、とっととハインツを片付けてしまおう。
俺はエミリアの横に並び剣を構える。
少し時間はかかってしまうが俺とエミリアなら確実にハインツを倒せるはず。それにもう少しすれば最強の援軍も来るしな。
先程とは違いこの場には緊張感が走る。
エミリアは好きにやらせた方が力を発揮するので、俺はエミリアの動きに合わせて動くことにする。
そしてエミリアは少しずつハインツとの距離を詰め、突撃をかけるかと思われたと時、予想外のことが起こった。
「剣をしまってどういうつもり? 今さら命乞いなどしても遅いわよ」
エミリアの言うとおりハインツは手に持った剣を鞘にしまったのだ。
「リック⋯⋯決着は次に会った時まで預けてやる。ここではうるさいコバエがいて落ち着いて戦うこともできん」
「なんですって! 私をハエ扱いするなんて万死に値するわ!」
エミリアは挑発に乗ってしまい、猪のようにハインツへと突進する。
「死になさい!」
エミリアの鋭い突きがハインツの額に向かって放たれる。
言葉通りエミリアは一撃でハインツを仕留めるつもりだ。
しかしハインツはエミリアの攻撃を読んでいたのかしゃがみ込んでかわす⋯⋯いや、地面の影の中へと消えてしまった。
今のは魔法? それともスキル? 鑑定ではそのような能力はなかった。ならば第三者の介入かもしくは特殊なアイテムか!?
「リック、お前は必ず俺が殺してやる。それまで死ぬなよ」
そしてどこからか声が聞こえるとハインツの気配は完全にこの場所からいなくなり、周囲に静寂が戻るのであった。
「ハインツはどこに行ったの!」
「たぶんもう逃げたよ」
「あの男、絶対に許さないから! 次に会った時は覚えていなさいよ」
やれやれ。ハインツの奴、エミリアの機嫌を悪くして逃げるなよ。大変なのはこっちなんだぞ。
しかし嘆いても仕方ない。とにかく今はルナさん達を助けるのが先決だ。
「リックさん!」
俺はタージェリアの街の中へと向かおうとした時、遠くから走ってこちらに向かって来る人達がいた。
「ラフィーネさん」
無事で良かった。どうやら最強の援軍がラフィーネさんを助けてくれたようだ。
「ザガド王国の兵隊は?」
「リックさんが用意してくれた援軍が蹴散らしてくれたわ。残りの兵隊も余程援軍の人が怖かったのか敗走しているみたい」
「まあザガド王国の人は恐怖を刷り込まれていますからね」
もしかしたら街の中の兵達も退却しているのか?
俺は探知スキルを使って周囲の状況を確認してみるとルナさんや捕らわれている人達の周りにはザガド王国の兵達はいなかった。
そして街の外も探知スキルで視てみるとザガド王国の兵達は既に退却をし始めていたけどこれは⋯⋯。
「ラフィーネさん。捕らわれている人達の周囲にはザガド王国の兵達はいないようです」
「そうなの?」
「はい。申し訳ありませんがルナさん達をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「えっ? リックさんはどうするの?」
「俺は瀕死の状態で倒れている人がいるのでその人の所に行ってきます」
「わかったわ」
「すみません」
その子の着ている服は軽装で、とても戦場に出るようなものではなかった。そして左手には鎖が繋がれていたのでもしかして⋯⋯。
俺はラフィーネさんに頭を下げると急ぎ南西にある川の方へと向かうのであった。
「ハインツ、このままここにいてもいいのか? お前も感じるはずだ。援軍の足音を!」
「何!?」
ハインツはダークネスブレイクの発動を中止し、周囲の気配を探り始める。
「こ、これは⋯⋯貴様まさか!」
「お仕置きされても知らないぞ」
ハインツは援軍の正体が誰かわかり、取り乱し始める。
魔王化して冷静な態度を取っていたハインツだが、さすがに援軍に来た人物に対して平然とすることは難しいらしい。
正直な話、ハインツをこのまま野放しにするといつか必ず俺に災いをもたらしてくることはわかっているけど今は一刻も早くルナさんや捕縛された人を助けたい。
だからここは退いてくれた方が助かる。
「だがその前にお前を倒せば済む話だ」
ハインツは退却するより戦うことを選択したようだ。確かにハインツの性格上余程のことがない限り、憎むべき相手がいる前で尻尾を巻いて逃げるということはプライドが許さないか。
こうなったらこちらも腹を括ってハインツを始末するしかない。
だがこの時援軍の方で動きがあった。
探知スキルで視ると援軍は今、ラフィーネさん達の部隊の周囲にいる兵隊を蹴散らしているが、その中で1人だけ猛スピードでこちらに向かってくる者がいた。
げっ! まずいぞ。このままだとさらにこの場が荒れてしまう!
何とかその前にハインツとの決着をつけないと。
しかし俺の願いは虚しく、1人の少女が俺とハインツの戦いに乱入してくる。
「ようやく会えたわね⋯⋯ハインツ!」
猛スピードでこの場に現れた者⋯⋯それは公爵家の令嬢で剣の天才と呼ばれたエミリアだった。
「エミリアか⋯⋯貴様には用はない」
「あなたに無くても私にはあるのよ。勇者パーティーではよくもリックをこき使ってくれたわね」
「それはエミリアも同じじゃないか」
俺は、エミリアが普段どんな行動をしているのか理解できていないのではと思い、つい突っ込みをいれてしまった。
「う、うるさい! 私はいいのよ!」
それは理不尽じゃないか? まあこの世界では権力がある人の言うことは間違っていても正しいことになってしまうからな。
「とにかくリックは私に強化魔法をかけなさい!」
俺はエミリアの言葉に従ってクラス2旋風創聖魔法とクラス2烈火創聖魔法をかける。
「それと玉座の間ではよくもリックがスパイだなんて虚偽の報告をしてくれたわね」
「それがどうした?」
「どうしたですって? 皇帝陛下もあなたが嘘をついていたことは既に御存知よ。どんな処分が下るか今から楽しみだわ」
「俺はもう帝国を捨てた。帝国でどんな裁きが下ろうと今の俺には関係ない」
「あのハインツが帝国を捨てた? どういう意味なの?」
「私は今、ザガド王国のハインツだ」
「あなた⋯⋯帝国を裏切るつもり? 皇帝陛下の怒りを買うわよ」
「確かに父上は強い。だがこちらには⋯⋯いや、今はまだ口に出すわけにはいかないな」
ハインツが気になる所で言葉を切る。どうせなら悪役らしくベラベラと全てを語ってほしいものだ。
「最後まで言いなさい。それに先程から思っていたけどいつものように威張り散らして命令する姿も見るに絶えなかったけど⋯⋯」
それはエミリアも同じなのでは? 俺に足の裏を舐めるように命令してきたし。
だが今そのようなことを言うとさっきみたいに怒られるので黙っておく。
「今のあなたは思春期の子供が背伸びをしているようにしか見えないわよ」
確かにエミリアの言うとおりだ。
この世界にはない言葉だけどハインツは思春期で向かえる中二病みたいになっている気がする。黒いオーラを纏っているし。
「帝国にいた頃の俺は死んだ。今の俺が本当の姿だ」
エミリアの言うとおりハインツが中二病だと考えて今のセリフ聞いたら何だか笑いが込み上げてきた。
だけど言葉はともかくハインツが成長しているのは確かだ。
以前のハインツだったらエミリアに「子供が背伸びをしているように見える」なんて言われたら激昂して斬りかかっていただろう。
だが今のハインツは至って冷静に見える。
嫌な風に成長してくれたものだ。どうせなら帝国にいた頃に今の冷静さを身につけて欲しかったけどな。
「またかっこつけちゃって。正直似合っていないわ」
エミリアはハインツに殺気を向けて剣を構える。
もうこうなったらエミリアは止められない。それなら皇帝陛下を倒した時のように一緒に戦って、とっととハインツを片付けてしまおう。
俺はエミリアの横に並び剣を構える。
少し時間はかかってしまうが俺とエミリアなら確実にハインツを倒せるはず。それにもう少しすれば最強の援軍も来るしな。
先程とは違いこの場には緊張感が走る。
エミリアは好きにやらせた方が力を発揮するので、俺はエミリアの動きに合わせて動くことにする。
そしてエミリアは少しずつハインツとの距離を詰め、突撃をかけるかと思われたと時、予想外のことが起こった。
「剣をしまってどういうつもり? 今さら命乞いなどしても遅いわよ」
エミリアの言うとおりハインツは手に持った剣を鞘にしまったのだ。
「リック⋯⋯決着は次に会った時まで預けてやる。ここではうるさいコバエがいて落ち着いて戦うこともできん」
「なんですって! 私をハエ扱いするなんて万死に値するわ!」
エミリアは挑発に乗ってしまい、猪のようにハインツへと突進する。
「死になさい!」
エミリアの鋭い突きがハインツの額に向かって放たれる。
言葉通りエミリアは一撃でハインツを仕留めるつもりだ。
しかしハインツはエミリアの攻撃を読んでいたのかしゃがみ込んでかわす⋯⋯いや、地面の影の中へと消えてしまった。
今のは魔法? それともスキル? 鑑定ではそのような能力はなかった。ならば第三者の介入かもしくは特殊なアイテムか!?
「リック、お前は必ず俺が殺してやる。それまで死ぬなよ」
そしてどこからか声が聞こえるとハインツの気配は完全にこの場所からいなくなり、周囲に静寂が戻るのであった。
「ハインツはどこに行ったの!」
「たぶんもう逃げたよ」
「あの男、絶対に許さないから! 次に会った時は覚えていなさいよ」
やれやれ。ハインツの奴、エミリアの機嫌を悪くして逃げるなよ。大変なのはこっちなんだぞ。
しかし嘆いても仕方ない。とにかく今はルナさん達を助けるのが先決だ。
「リックさん!」
俺はタージェリアの街の中へと向かおうとした時、遠くから走ってこちらに向かって来る人達がいた。
「ラフィーネさん」
無事で良かった。どうやら最強の援軍がラフィーネさんを助けてくれたようだ。
「ザガド王国の兵隊は?」
「リックさんが用意してくれた援軍が蹴散らしてくれたわ。残りの兵隊も余程援軍の人が怖かったのか敗走しているみたい」
「まあザガド王国の人は恐怖を刷り込まれていますからね」
もしかしたら街の中の兵達も退却しているのか?
俺は探知スキルを使って周囲の状況を確認してみるとルナさんや捕らわれている人達の周りにはザガド王国の兵達はいなかった。
そして街の外も探知スキルで視てみるとザガド王国の兵達は既に退却をし始めていたけどこれは⋯⋯。
「ラフィーネさん。捕らわれている人達の周囲にはザガド王国の兵達はいないようです」
「そうなの?」
「はい。申し訳ありませんがルナさん達をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「えっ? リックさんはどうするの?」
「俺は瀕死の状態で倒れている人がいるのでその人の所に行ってきます」
「わかったわ」
「すみません」
その子の着ている服は軽装で、とても戦場に出るようなものではなかった。そして左手には鎖が繋がれていたのでもしかして⋯⋯。
俺はラフィーネさんに頭を下げると急ぎ南西にある川の方へと向かうのであった。
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