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テッドの思惑
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「神降ろし!? ということはアルテナ様とお話することができるということですか!」
「できると思いますよ。ただアルテナ様がいつ現れるかはわかりませんけど」
ラフィーネさんは少し興奮気味に話をしている。これまでの言動を見ている限りラフィーネさんはアルテナ様の信者っぽいし無理もないか。
「聖女⋯⋯確か魔王を倒した勇者パーティーの中にそう呼ばれている者がいたはずだ」
「アルテナ様を信仰する神聖魔法教会にとっては喉から手が出るほど欲しい人材ね」
過去の勇者パーティーに聖女がいたのか。前の世界の小説やアニメでも聖女は特別な存在だったからな。
「ただアルテナ様がその身に宿ったせいか記憶が混乱しているようなのでしばらくそっとしてあげた方がいいかと」
「そうね。リックさんの言うとおりだわ」
ルナさんの目が覚めた時に記憶がちゃんと融合しているといいんだけど。これはアルテナ様の言葉を信じるしかないな。
「それとリリナディアを医者に診せたいのですが」
「リリナディアさんをお医者さんに診せるのはもう少し様子を見てからにしましょう。もし魔族だと正体がバレてしまうと大惨事になってしまう可能性があるわ」
確かにラフィーネさんの言うとおりだ。診てもらう医者の口が固いとは限らないからな。
「わかりました。もう少し様子をみて体調が戻らない時は医者に診てもらう形にしましょう」
「それがいいですね」
それによくよく考えてみると人族と魔族の発熱に対する対処法も違うかもしれないから医者に診せても意味ないかもしれないしな。
「それじゃあルナさんとリリナディアさんのことはリックさんに任せていいかしら」
「どこかに行かれるんですか?」
「戦いの事後処理をね」
戦いが終わったとしてもサラダーン州の代表としてやることはたくさんあるようだ。
「被害の確認、ザガド王国への抗議、防衛の準備、タージェリアの代表者と会談、グランドダイン帝国へお礼の書簡を出したり他にも色々とね。リックさんも手伝いたい?」
「お断りします」
「即答するなんてひどい人ね」
いやいや、どう考えても俺ができることじゃないでしょ。
「けどリックさんがエグゼルド皇帝陛下を援軍として連れてきてくれて本当に助かったわ」
「そうですね。まさに一騎当千の活躍で、皇帝陛下が大剣を振るう度に嵐が巻き起こり、ザガド王国の兵達を軽々と吹き飛ばされていました」
「ザガド王国の奴らが必死になって逃げ出している様は痛快だったぜ」
年月は経っていたとしてもザガド王国の兵達は忘れていなかったのだろう。過去に皇帝陛下の手によって1,000人の兵を全滅させられたことを。
しかも今回敵が何百何千といたことで起死回生のスキルによる強化の比率は俺と戦った時より高かったんだろうな。もう2度と戦いたくないがもしエグゼルド皇帝陛下と戦う時は1人もしくは少人数で戦う方が望ましいだろう。
「皇帝陛下の力を間近に見てとても脅威に感じました。ですがリックさんは決闘をして勝ったんですよね?」
「確かにリックくんが皇帝陛下に勝ったから援軍に来てくれたとラフィーネ様が仰っていました」
「マジかよ! リックはあの化物に勝ったのか? ならリックはそれ以上の⋯⋯」
何だか三人の俺を見る目に恐れがあるような⋯⋯。
「いやいや、1人で勝ったわけじゃありませんからね。援軍に来ていたエミリアが加勢してくれたからですよ。知っているでしょ? 剣の天才と呼ばれているエミリアを」
「確か剣聖とも呼ばれていましたね」
「なるほど。2人がかりで勝ったというわけですか」
「けどその剣の天才様はけっこうなじゃじゃ馬でお転婆らしいな。誰かと同じ様に」
そしてテッドはチラリとラフィーネさんへと視線を向ける。
こ、こいつはこりもせずに。もう何をされても俺は知らないからな。
「テッ~ドさ~ん⋯⋯どうやらもう一度地獄に戻りたいようですね」
「俺は正しいことを言っただけだろ。何故なら称号で証明されているからな」
「言いたいことはそれだけですか?」
ラフィーネさんから殺気が漏れ始める。
「へっ、さっきのように殺られてたまるか!」
「あっ! こら! 待ちなさい!」
そしてテッドは部屋の外へと逃げ出し、ラフィーネさんはそれを追いかけて行くのだった。
「やれやれ⋯⋯テッドさんは空気が読めないようですね」
「そうだね。でもリックくんにはそう見えるかもしれないけど意外にテッドも人の気持ちを考えている所があるんだ」
「本当ですか?」
とてもじゃないがシオンさんの言うことを信じることができない。初対面でズーリエをショボい街発言したあのテッドだぞ。
「実は公に発表はされていないがこのタージェリアの街は勇者ケインが失踪した場所なんです」
勇者ケイン? それってラフィーネさんがパーティーを組んでいた人か?
「ケイン様はラフィーネ様のパーティーメンバーであり⋯⋯かつての恋人でした」
恋人か。確かにラフィーネさんは多少お転婆かもしれないけど綺麗だし親しみやすいし結婚していてもおかしくない。
「我々がジルク商業国内の旅をしているのは困っている人達を助けるということが主な理由の1つですがもう1つ、ケイン様の行方を探すという意味があるのです」
恋人が突然いなくなるか。そのような経験はしたことはないがもし俺が同じ立場だったらラフィーネさんと同じ様に恋人を探すだろうな。
「長年一緒にいる私やテッドにしか気づかない程度ですがタージェリアに来てからのラフィーネ様は心に余裕がないように感じました」
数回会った程度の俺がわからないのは当たり前か。そういえばズーリエの街ではテッドはラフィーネさんに暴言は吐いていなかったな。
「だからテッドはラフィーネ様がケイン様のことを深く考えすぎないようにわざと茶化す言い方を⋯⋯」
「それにしても行き遅れは言い過ぎだと思いますけどね」
逆にその言葉で勇者ケインのことを思い出してしまうような気がするが。
「まあそれはテッドなので⋯⋯あいつも不器用だから」
「そうですね」
今日はテッドの意外な一面を見たな。俺を信用してくれている所や人を気遣う? ことができる所とか。普段の言動がその人の全てではないということか。
「ばばあが何を言ってやがる!」
「ばばあ! 私はまだ26よ!」
「26は俺に取っちゃばばあだよ!」
ラフィーネさんとテッドの聞くに堪えない声が廊下に響き渡っている。
「さて、そろそろ私も行きますね」
しかしシオンさんは動じることもなく部屋の外へと行き、そして2人を叱りつける声が辺りに響き渡るのであった。
「賑やかな人達だ」
とりあえず外にいる人達は放っておいて俺は2人の目が覚めるのを待つか。
そして1時間後。
「う、う~ん⋯⋯ここは⋯⋯」
2人の眠り姫の内の1人の目が覚めるのであった。
「できると思いますよ。ただアルテナ様がいつ現れるかはわかりませんけど」
ラフィーネさんは少し興奮気味に話をしている。これまでの言動を見ている限りラフィーネさんはアルテナ様の信者っぽいし無理もないか。
「聖女⋯⋯確か魔王を倒した勇者パーティーの中にそう呼ばれている者がいたはずだ」
「アルテナ様を信仰する神聖魔法教会にとっては喉から手が出るほど欲しい人材ね」
過去の勇者パーティーに聖女がいたのか。前の世界の小説やアニメでも聖女は特別な存在だったからな。
「ただアルテナ様がその身に宿ったせいか記憶が混乱しているようなのでしばらくそっとしてあげた方がいいかと」
「そうね。リックさんの言うとおりだわ」
ルナさんの目が覚めた時に記憶がちゃんと融合しているといいんだけど。これはアルテナ様の言葉を信じるしかないな。
「それとリリナディアを医者に診せたいのですが」
「リリナディアさんをお医者さんに診せるのはもう少し様子を見てからにしましょう。もし魔族だと正体がバレてしまうと大惨事になってしまう可能性があるわ」
確かにラフィーネさんの言うとおりだ。診てもらう医者の口が固いとは限らないからな。
「わかりました。もう少し様子をみて体調が戻らない時は医者に診てもらう形にしましょう」
「それがいいですね」
それによくよく考えてみると人族と魔族の発熱に対する対処法も違うかもしれないから医者に診せても意味ないかもしれないしな。
「それじゃあルナさんとリリナディアさんのことはリックさんに任せていいかしら」
「どこかに行かれるんですか?」
「戦いの事後処理をね」
戦いが終わったとしてもサラダーン州の代表としてやることはたくさんあるようだ。
「被害の確認、ザガド王国への抗議、防衛の準備、タージェリアの代表者と会談、グランドダイン帝国へお礼の書簡を出したり他にも色々とね。リックさんも手伝いたい?」
「お断りします」
「即答するなんてひどい人ね」
いやいや、どう考えても俺ができることじゃないでしょ。
「けどリックさんがエグゼルド皇帝陛下を援軍として連れてきてくれて本当に助かったわ」
「そうですね。まさに一騎当千の活躍で、皇帝陛下が大剣を振るう度に嵐が巻き起こり、ザガド王国の兵達を軽々と吹き飛ばされていました」
「ザガド王国の奴らが必死になって逃げ出している様は痛快だったぜ」
年月は経っていたとしてもザガド王国の兵達は忘れていなかったのだろう。過去に皇帝陛下の手によって1,000人の兵を全滅させられたことを。
しかも今回敵が何百何千といたことで起死回生のスキルによる強化の比率は俺と戦った時より高かったんだろうな。もう2度と戦いたくないがもしエグゼルド皇帝陛下と戦う時は1人もしくは少人数で戦う方が望ましいだろう。
「皇帝陛下の力を間近に見てとても脅威に感じました。ですがリックさんは決闘をして勝ったんですよね?」
「確かにリックくんが皇帝陛下に勝ったから援軍に来てくれたとラフィーネ様が仰っていました」
「マジかよ! リックはあの化物に勝ったのか? ならリックはそれ以上の⋯⋯」
何だか三人の俺を見る目に恐れがあるような⋯⋯。
「いやいや、1人で勝ったわけじゃありませんからね。援軍に来ていたエミリアが加勢してくれたからですよ。知っているでしょ? 剣の天才と呼ばれているエミリアを」
「確か剣聖とも呼ばれていましたね」
「なるほど。2人がかりで勝ったというわけですか」
「けどその剣の天才様はけっこうなじゃじゃ馬でお転婆らしいな。誰かと同じ様に」
そしてテッドはチラリとラフィーネさんへと視線を向ける。
こ、こいつはこりもせずに。もう何をされても俺は知らないからな。
「テッ~ドさ~ん⋯⋯どうやらもう一度地獄に戻りたいようですね」
「俺は正しいことを言っただけだろ。何故なら称号で証明されているからな」
「言いたいことはそれだけですか?」
ラフィーネさんから殺気が漏れ始める。
「へっ、さっきのように殺られてたまるか!」
「あっ! こら! 待ちなさい!」
そしてテッドは部屋の外へと逃げ出し、ラフィーネさんはそれを追いかけて行くのだった。
「やれやれ⋯⋯テッドさんは空気が読めないようですね」
「そうだね。でもリックくんにはそう見えるかもしれないけど意外にテッドも人の気持ちを考えている所があるんだ」
「本当ですか?」
とてもじゃないがシオンさんの言うことを信じることができない。初対面でズーリエをショボい街発言したあのテッドだぞ。
「実は公に発表はされていないがこのタージェリアの街は勇者ケインが失踪した場所なんです」
勇者ケイン? それってラフィーネさんがパーティーを組んでいた人か?
「ケイン様はラフィーネ様のパーティーメンバーであり⋯⋯かつての恋人でした」
恋人か。確かにラフィーネさんは多少お転婆かもしれないけど綺麗だし親しみやすいし結婚していてもおかしくない。
「我々がジルク商業国内の旅をしているのは困っている人達を助けるということが主な理由の1つですがもう1つ、ケイン様の行方を探すという意味があるのです」
恋人が突然いなくなるか。そのような経験はしたことはないがもし俺が同じ立場だったらラフィーネさんと同じ様に恋人を探すだろうな。
「長年一緒にいる私やテッドにしか気づかない程度ですがタージェリアに来てからのラフィーネ様は心に余裕がないように感じました」
数回会った程度の俺がわからないのは当たり前か。そういえばズーリエの街ではテッドはラフィーネさんに暴言は吐いていなかったな。
「だからテッドはラフィーネ様がケイン様のことを深く考えすぎないようにわざと茶化す言い方を⋯⋯」
「それにしても行き遅れは言い過ぎだと思いますけどね」
逆にその言葉で勇者ケインのことを思い出してしまうような気がするが。
「まあそれはテッドなので⋯⋯あいつも不器用だから」
「そうですね」
今日はテッドの意外な一面を見たな。俺を信用してくれている所や人を気遣う? ことができる所とか。普段の言動がその人の全てではないということか。
「ばばあが何を言ってやがる!」
「ばばあ! 私はまだ26よ!」
「26は俺に取っちゃばばあだよ!」
ラフィーネさんとテッドの聞くに堪えない声が廊下に響き渡っている。
「さて、そろそろ私も行きますね」
しかしシオンさんは動じることもなく部屋の外へと行き、そして2人を叱りつける声が辺りに響き渡るのであった。
「賑やかな人達だ」
とりあえず外にいる人達は放っておいて俺は2人の目が覚めるのを待つか。
そして1時間後。
「う、う~ん⋯⋯ここは⋯⋯」
2人の眠り姫の内の1人の目が覚めるのであった。
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