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目覚め

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「⋯⋯ルナさん?」

 俺は目覚めたルナさんに対してはるななのかルナさんなのかわからず名前を呼ぶのを躊躇してしまう。

「私⋯⋯倒れて⋯⋯」
「大丈夫ですか?」
「⋯⋯リクくん⋯⋯ううん、リックさん」

 どうやらアルテナ様の言った通り2人の記憶が融合しているようだ。

「一応この世界だとリックだけど2人の時はリクでもいいよ」
「それじゃあリクくん、助けてくれてありがとう」
「あ、ああ⋯⋯どういたしまして」

 まさかいきなりお礼を言われるなんて思わなかった。
 リク⋯⋯かあ。ルナさんにとっては前の世界の人格の方が色濃く残っているのかな。

「ルナとして初めて会った時、何故かリクくんに懐かしさを感じたけど当たり前のことだったんだね」
「はるなも? 実は俺もなんだ。ルナさんにはどこか他の人とは違う雰囲気を感じていたんだ」

 前の世界からの知り合いだったから当然のことだったんだな。

「リクくん⋯⋯また会うことができて本当に嬉しい」
「俺もだよ」

 はるなが俺の胸に顔を埋め、抱きしめてきたので俺も抱きしめ返す。

 温かい。
 今さらながらルナさんを護ることが出来て良かった。ルナさんを失うということははるなも失うことになり、俺は大事な人を1度に2人も失くしてしまう所だったんだ。

「私、前の世界でもこの世界でもリクくんに助けられてばかりだね」
「そんなことはないよ。俺はルナさんにもはるなにも助けられているし、何よりこの世界に2人がいてくれるだけで嬉しい」
「でも⋯⋯力は足りないかもしれないけど私もリクくんの役に立ちたいの」

 俺の胸に顔を埋めていたはるなは1度離れ、真っ直ぐに俺の眼を見つめてくる。

 そういえばはるなもルナさんも他人のために動くことができる人だ。今思うと2人の性格が似ているのは同じ魂を持っているからなのかもしれない。
 ん? 性格が似ているということはもしかしてはるなもむっつりスケベだったということか! だけどそのことはもう知るよしはないな。少なくとも目の前にいるルナさんはむっつりスケベ確定だ。

「それならこの子⋯⋯リリナディアを一緒に護ってほしい。リリナディアは魔族で魔王の卵だからおそらく人族のことを嫌っていると思うんだ」

 ザガド王国が探していたのはたぶんリリナディアで間違いないだろう。そして無数にあった身体の傷は王国の人間がつけたと考える方が自然だ。例え俺達が関わっていなかったとしてもそんな人間に憎悪を抱くのは当然の出来事だろう。

「ルナさんもはるなも他人と仲良くなるのが得意だろ? この子を護るにしてもまずは信頼してもらわないと始まらないと思うんだ」
「わかりました。私に任せて下さい」

 はるなは魔王と聞いても動じない。もしかしてアルテナ様が乗り移っている時の記憶があるのかもしれないな。

 そして俺とはるなはリリナディアが起きるまでの間、前の世界の話に盛り上がり、いつの間にか時が過ぎていくのであった。

 3時間後

 リリナディアは依然変わらずベッドの上で寝ており、起きる気配がない。
 それだけ疲れているのかそれとも何か他の要因があるのか俺にはわからない。

「熱は下がってきていますね」

 リリナディアの額に置かれた濡れたタオルを交換しているルナさんが語りかけてくる。

 確かに息は整ってきているし顔色も良くなっている。この様子だと医者は呼ばなくてすみそうだ。
 後は目が覚めてくれればいいのだが。そういえば魔族ってどういうものを食べるのだろうか? 俺達と同じだといいけど。

「うぅ⋯⋯」

 そして俺達の願いが通じたのか突然リリナディアは呻き声をあげ、そしてゆっくりと目を開けた。

「リックさん女の子が」

 ルナさんにはリリナディアの名前を言わないように話してある。教えられていないのに名前を知られていると警戒されてしまうからだ。下手をするとザガド王国の奴らの仲間だと思われ兼ねないからな。

 そしてリリナディアは完全に目を開けると周囲を確認するように視線を左右に動かす。だが俺とルナさんがその視界に入ると⋯⋯。

「いやっ! 来ないで! これ以上血を抜かないで下さい!」

 リリナディアは俺達に恐れをなしてか突然ベッドから飛び上がり、部屋の端まで走り出す。
 血? どういうことだ? リリナディアはザガド王国で血を抜かれていたのか?
 とにかく今はリリナディアを落ち着かせないと。この興奮している状態だと話を聞くこともできない。

「俺達は倒れていた君をここに連れてきただけだ。ザガド王国の奴らの仲間じゃない」

 ここで敢えて関係があるか見極めるためにザガド王国という言葉を入れてみた。もし関係があるなら何らかの返答を返してくるはずだ。

「ザ、ザガド王国の人達じゃない? だ、だけど人族は信用できない!」

 今の言葉よりリリナディアはやはりザガド王国から逃げてきたようだ。まずは奴らと俺達は違うと言うことアピールしたいところだけどやはりというかリリナディアは人族を信用していないように見られる。

 俺はどう対応していいか迷っていると背後にいたルナさんが前に出る。

「私はルナと言います。私達はあなたが街の外で気を失っていたのでここに運びました。お身体の具合はいかがですか?」

 リリナディアとの距離を詰めるのは俺よりルナさんの方が適任だと思うのでここは任せることにする。

「か、身体? 別に問題ないけど」
「それは良かったです。それと傷の方は痛みますか?」
「き、傷? 何もないわ⋯⋯何もない!?」

 リリナディアは自分の身体を見ながら驚きの声をあげている。

「な、何で⋯⋯古い傷もなくなってる」
「それはこちらのリックさんが魔法で治療してくれました」
「そ、そんな魔法⋯⋯聞いたことない」
「私達を、人族を信用して下さいとは言いません。ただお話をさせて頂けませんか?」
「⋯⋯⋯⋯」

 リリナディアは黙って何かを考えている。少しはこちらに対する警戒を解いてくれたのかな? 
 やはりルナさんに任せて正解だったようだ。

「わ、わかりました⋯⋯話だけなら⋯⋯」

 そしてその後リリナディアが口にした内容は俺の想像を遥かに越える内容であった。
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