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サーシャの思惑

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 ドルドランドの西門を出た後、俺は走ってズーリエに向かうため、二人に強化をかけようとしたが⋯⋯

「お待ち下さい!」
「どうした?」
「少しリック様とノノさんにお話がありまして」
「なになに~」

 サーシャは深刻な雰囲気を出しているので、真面目な話だということが窺える。

「この旅で遭遇する魔物についてですが、全て私が倒してもよろしいでしょうか?」

 なるほど。サーシャは実戦訓練をしたいようだ。
 俺としては特に異論はない。
 火と氷の原理を教えたことで、サーシャの魔法がどう変わったか見てみたいし。

「わかった」
「ノノも了解だよ」
「ありがとうございます」
「でも⋯⋯」

 つい少し前までは、ズーリエの冒険者達がやる気がなかったせいもあり、ジルク商業国側には街道沿いでもそこそこ魔物がいた。
 しかし今はズーリエの冒険者達が、人々が安心して旅が出来るよう、魔物達を討伐している。
 実際今回ドルドランドに来た時は、盗賊はいたけど魔物はいなかった。

「リック様の仰りたいことはわかります」

 サーシャは事前調査をしっかりやるタイプだから、知らないはずがない。

「そしてもう一つお願いがありまして⋯⋯」
「何?」
「つい二日程前に帝国の領地内で、新しいダンジョンが発生しました」
「新しいダンジョンの発生?」
「はい。ズーリエへ向かう途中に」
「二日前のことをよく知っているな」
「私はこういうことでしかお役に立てませんから」

 そんなことはないと思うけど。サーシャは昔から自己評価が低いからな。
 知識、戦闘、人間性、どれを取ってもサーシャは他者より優れている部類に入る。
 だけどライバル視している相手が、天才と言われているエミリアだから劣等感に苛まれているのだろうか。
 しかもその天才は陰で努力するからな。

「サーシャがいてくれて俺は助かっているよ。命の恩人だし」
「リック様にそう言って頂けると嬉しいです。それでその⋯⋯」
「ダンジョンを攻略したいってことかな?」
「はい。よろしいでしょうか」

 ダンジョンは放っておくと魔物が際限なく現れて、近隣の村や街に被害をもたらす。
 ドルドランドに取っても他人事ではない。

「いいよ。せっかくだから攻略して行こうか」
「ありがとうございます」

 そして強化魔法をかけて、三十分程ズーリエ方面へと向かっていると⋯⋯

「リック様。ここから三キロほどの所で、街道を外れた場所にダンジョンがあります」
「わかった」

 俺達はサーシャの指示に従って、街道を出て右に行く。

「ここまで魔物さんは来なかったね」
「そうだね。冒険者の人達がみんなの安全のために、頑張ってくれた証拠だよ」
「ですがそれもここまでのようです」

 サーシャの視線の先に目を向けると、人型の魔物の集団がこちらに迫っていた。

「おっきなトカゲさんだ」
「あれはリザードマンだね」
「二十匹程ですか⋯⋯相手にとって不足はありません」

 主に槍と盾を持つ、トカゲのような容姿を持った魔物だ。
 肌を覆っている鱗は固く、並の攻撃では貫くのは難しいとされていた。
 確か冒険者だと、Cランク相当に値すると聞いたことがある。

「お二人とも下がっていて下さい」
「サーシャお姉ちゃんがんばって」

 手筈通り、サーシャに倒させるため、俺とノノちゃんは後方へと下がる。
 さて、サーシャはどうやって戦うのか少し楽しみだな。

 サーシャは腰に差したロッドを右手に取り、魔力を集中させる。
 魔法使いは、今いる草原のような場所では、敵が近づいてくる前に仕掛けることができるので有利だ。
 だが相手に接近を許してしまうと、魔力を集中して集めることが出来なくなり、不利な状況に追い込まれる。
 出来ればこの離れた距離で蹴りをつけたい所だが。

「食らいなさい! 氷矢魔法フリーズアロー

 そしてサーシャが魔法を放つと、戦いの火蓋が切って落とされる。



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