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壁ドン
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「どうしましょうどうしましょう。ここは街の役所で神聖な場所⋯⋯本来なら私は止める立場ですけど⋯⋯就業時間は既に終わっています。見てみぬ振りをしてもアルテナ様はお許しになるでしょう」
このむっつりスケベは何を言っているんだ。
自分の都合のいいようにアルテナ様を味方にしたぞ。
やはりこれはハリスさんの案に従うしかないかないようだ。
気は進まないがやるしかないか。
俺は左手でルナさんの手を取り、壁へと導く。
「えっ? えっ?」
ルナさんは驚いているが、構わず右手は壁へと置く。
そして至近距離になったルナさんに向かって、俺は言葉を紡ぐ
「どこを見てる? 妄想の俺より現実の俺を見ろよ」
うぅ⋯⋯こんなこと一度も言ったことないから滅茶苦茶恥ずかしい。
ハリスさんめ。他人事だと思って好き勝手言って。
だけど恥ずかしいのを我慢したかいがあったのか、ルナさんの目が俺を捉える。
「あっ⋯⋯その⋯⋯」
どうやらこれでルナさんは元に戻ったようだ。
恥ずかしいのを我慢して、イケメンの振りをしたかいがあったな。
しかしルナさんの様子がおかしい。
何だか狼狽えて、どんどん顔が赤くなっているし、目も焦点があっていない。これって⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯ぷしゅぅ」
突然ルナさんが糸が切れたように崩れ落ちた。
「ルナさん!」
俺はルナさんが地面に倒れる前に、何とか支えることに成功する。
「大丈夫!?」
しかし返事はなく、意識を失っており、動く様子はない。
「ちょっとハリスさん! ハリスさんの言うとおりにしたら、ルナさん気絶しちゃったんですけど」
「これは想像以上の破壊力があったようですね」
「破壊力? 何ですかそれは?」
「無自覚ですか。怖いですね」
何のことかさっぱりわからない。
やはりハリスさんの言うことを聞くんじゃなかった。
「とりあえずルナ代表は奥の部屋にあるベッドに運びましょう」
「そうですね」
このままルナさんを応接室に置いておく訳にはいかないので、俺はハリスさんの言葉に従ってベッドへと運ぶ。
そしてルナさんが目覚めたのは気絶してから一時間後であった。
「リック様の貞操がハリスさんに! えっ⋯⋯ここは⋯⋯」
このむっつり眠り姫は何を口走っているいるんだ。
夢の中で俺がどんな目にあっているか、想像したくないな。
「ここは休憩室ですよ。ルナ代表は突然倒れてしまったので、リックくんがここまで運んでくれました」
「それではあれは夢⋯⋯続きが見たかったような見たくなかったような⋯⋯」
間違いなく見たくない夢、悪夢だろ。
とりあえずさっきの俺の恥ずかしい台詞も夢だと思っているので指摘せず、このままにしておこう。
「それよりさっき飲んだお酒のことですが⋯⋯」
「ああ、荒くれ者達を眠らせた酒ですね」
ハリスさんは勘違いしている。
どうやら初めて少しだけ裏をかいたような気がする。
「あのお酒⋯⋯ウイスキーはこれからドルドランドとアールコル州で販売する予定です」
「それは少し残念ですね。ズーリエだけで飲めるお酒なら、私達としては万々歳でしたが」
「ハリスさん失礼ですよ。リックさんはドルドランドの領主になる方です。自分の領地を最優先に考えるのは当たり前のことです」
「そうですね。失礼しました」
その地域でしか作れないものなら価値が上がる。
商人出身のハリスさんなら、ズーリエに利益がどう繋がるか考えるのが普通だろう。
「いえ、ですが安心して下さい。ハリスさんの希望は叶うと思いますよ」
「それはいったいどういうことでしょうか?」
「ドルドランドのお酒はエールが元になっているもの。そして今飲んだお酒はワインが元になっています」
「なるほど⋯⋯そうなると先程飲んだお酒は、ブドウが名産品であるズーリエで作ることに適しているということですね」
さすがハリスさん。即座に理解してくれたようだ。
「ですがそれではズーリエだけが得をして、リックさんが得をすることがありませんよね?」
「ここは母さんが生まれた所で、おじいちゃんおばあちゃんが住んでいる土地だから。俺としては贔屓するのに十分な理由だよ。それに⋯⋯ルナさんもいるしね」
「リックさん⋯⋯」
貧困は犯罪を生む。治安を維持するためにもズーリエの経済はある程度潤ってもらわないと困る。
それに先頭に立つのがルナさんなら申し分ない。
ルナさんなら⋯⋯それと一応ハリスさんならきっとズーリエを良い方向へと導いてくれるはずだ。
それに打算的な考えが全くない訳ではない。
ドルドランド付近では、ワインを生産できる果物はほとんど作られていない。だからこれからのことも考えるとズーリエで生産する方が自然だ。
それに⋯⋯
「作ったワインと今飲んだお酒⋯⋯ブランデーは優先的にドルドランドに卸して下さい。代わりにドルドランドからはウイスキーをズーリエに卸します」
「それは素晴らしい。美味しい酒がジルク商業国とグランドダイン帝国の両方で飲めますね。しかもまだこの酒はまだ世に出回っていない。商売人の血が騒ぎます」
一国が独占しないという状況をつくることが出来る。たぶんこのお酒は、一国だけが所有すると争いの種になりそうだからな。
「ブランデーを作る機械はドワクさんにお願いしてあります」
「ほう⋯⋯あのドワクさんとも繋がりがあるとは。さすがですね」
商売に関しては、商人でもある二人に任せておけば間違いないだろう。
これで酒を売る算段がついたので、俺は役所を出て自宅へと戻るのであった。
―――――
いつも【狙って追放】を読んでいただきありがとうございます。この度新たに【異世界転生者のリトライ~これから起こることは全てわかっている。世界でただ一人の回復術師はとても有能でした~】も投稿致しますので、そちらも読んで頂けると幸いです。
このむっつりスケベは何を言っているんだ。
自分の都合のいいようにアルテナ様を味方にしたぞ。
やはりこれはハリスさんの案に従うしかないかないようだ。
気は進まないがやるしかないか。
俺は左手でルナさんの手を取り、壁へと導く。
「えっ? えっ?」
ルナさんは驚いているが、構わず右手は壁へと置く。
そして至近距離になったルナさんに向かって、俺は言葉を紡ぐ
「どこを見てる? 妄想の俺より現実の俺を見ろよ」
うぅ⋯⋯こんなこと一度も言ったことないから滅茶苦茶恥ずかしい。
ハリスさんめ。他人事だと思って好き勝手言って。
だけど恥ずかしいのを我慢したかいがあったのか、ルナさんの目が俺を捉える。
「あっ⋯⋯その⋯⋯」
どうやらこれでルナさんは元に戻ったようだ。
恥ずかしいのを我慢して、イケメンの振りをしたかいがあったな。
しかしルナさんの様子がおかしい。
何だか狼狽えて、どんどん顔が赤くなっているし、目も焦点があっていない。これって⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯ぷしゅぅ」
突然ルナさんが糸が切れたように崩れ落ちた。
「ルナさん!」
俺はルナさんが地面に倒れる前に、何とか支えることに成功する。
「大丈夫!?」
しかし返事はなく、意識を失っており、動く様子はない。
「ちょっとハリスさん! ハリスさんの言うとおりにしたら、ルナさん気絶しちゃったんですけど」
「これは想像以上の破壊力があったようですね」
「破壊力? 何ですかそれは?」
「無自覚ですか。怖いですね」
何のことかさっぱりわからない。
やはりハリスさんの言うことを聞くんじゃなかった。
「とりあえずルナ代表は奥の部屋にあるベッドに運びましょう」
「そうですね」
このままルナさんを応接室に置いておく訳にはいかないので、俺はハリスさんの言葉に従ってベッドへと運ぶ。
そしてルナさんが目覚めたのは気絶してから一時間後であった。
「リック様の貞操がハリスさんに! えっ⋯⋯ここは⋯⋯」
このむっつり眠り姫は何を口走っているいるんだ。
夢の中で俺がどんな目にあっているか、想像したくないな。
「ここは休憩室ですよ。ルナ代表は突然倒れてしまったので、リックくんがここまで運んでくれました」
「それではあれは夢⋯⋯続きが見たかったような見たくなかったような⋯⋯」
間違いなく見たくない夢、悪夢だろ。
とりあえずさっきの俺の恥ずかしい台詞も夢だと思っているので指摘せず、このままにしておこう。
「それよりさっき飲んだお酒のことですが⋯⋯」
「ああ、荒くれ者達を眠らせた酒ですね」
ハリスさんは勘違いしている。
どうやら初めて少しだけ裏をかいたような気がする。
「あのお酒⋯⋯ウイスキーはこれからドルドランドとアールコル州で販売する予定です」
「それは少し残念ですね。ズーリエだけで飲めるお酒なら、私達としては万々歳でしたが」
「ハリスさん失礼ですよ。リックさんはドルドランドの領主になる方です。自分の領地を最優先に考えるのは当たり前のことです」
「そうですね。失礼しました」
その地域でしか作れないものなら価値が上がる。
商人出身のハリスさんなら、ズーリエに利益がどう繋がるか考えるのが普通だろう。
「いえ、ですが安心して下さい。ハリスさんの希望は叶うと思いますよ」
「それはいったいどういうことでしょうか?」
「ドルドランドのお酒はエールが元になっているもの。そして今飲んだお酒はワインが元になっています」
「なるほど⋯⋯そうなると先程飲んだお酒は、ブドウが名産品であるズーリエで作ることに適しているということですね」
さすがハリスさん。即座に理解してくれたようだ。
「ですがそれではズーリエだけが得をして、リックさんが得をすることがありませんよね?」
「ここは母さんが生まれた所で、おじいちゃんおばあちゃんが住んでいる土地だから。俺としては贔屓するのに十分な理由だよ。それに⋯⋯ルナさんもいるしね」
「リックさん⋯⋯」
貧困は犯罪を生む。治安を維持するためにもズーリエの経済はある程度潤ってもらわないと困る。
それに先頭に立つのがルナさんなら申し分ない。
ルナさんなら⋯⋯それと一応ハリスさんならきっとズーリエを良い方向へと導いてくれるはずだ。
それに打算的な考えが全くない訳ではない。
ドルドランド付近では、ワインを生産できる果物はほとんど作られていない。だからこれからのことも考えるとズーリエで生産する方が自然だ。
それに⋯⋯
「作ったワインと今飲んだお酒⋯⋯ブランデーは優先的にドルドランドに卸して下さい。代わりにドルドランドからはウイスキーをズーリエに卸します」
「それは素晴らしい。美味しい酒がジルク商業国とグランドダイン帝国の両方で飲めますね。しかもまだこの酒はまだ世に出回っていない。商売人の血が騒ぎます」
一国が独占しないという状況をつくることが出来る。たぶんこのお酒は、一国だけが所有すると争いの種になりそうだからな。
「ブランデーを作る機械はドワクさんにお願いしてあります」
「ほう⋯⋯あのドワクさんとも繋がりがあるとは。さすがですね」
商売に関しては、商人でもある二人に任せておけば間違いないだろう。
これで酒を売る算段がついたので、俺は役所を出て自宅へと戻るのであった。
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いつも【狙って追放】を読んでいただきありがとうございます。この度新たに【異世界転生者のリトライ~これから起こることは全てわかっている。世界でただ一人の回復術師はとても有能でした~】も投稿致しますので、そちらも読んで頂けると幸いです。
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