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本編

第12話:異空間と冒険者ギルドにて

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「ッは、ここは......」
「何だこれは......」
「体に......力が入らない......」

 とある異空間。悪魔たちの住まう禍々しく暗いそこの一角に、闇の鎖で簀巻きにされた伯爵級悪魔たちが三体転がっていた。

 それを椅子の肘かけに頬杖をついたまま、冷めた目で見つめるのも、また悪魔。序列3位で悪魔たちの最高司令官。ユリウスと主従の契約を結んでいるイーヴィルだった。

「お前たち、やっと目を覚ましたか」

 イーヴィルはそう言い、一番近くに転がっている悪魔を思い切り蹴飛ばした。

「ガハッ!?」

 蹴られた悪魔の体から何かが折れ、何かが潰れたような不快な音が響くが、蹴った彼は何も気にしない。

「はあ、まったく。何時までぐーぴーと寝ているのかと思った」

 イーヴィルは呆れたように言っているが、そもそも奴らを眠らせたのは彼である。実に自己中で――

「くっ、イーヴィル様......」

 

「誰が名を呼んでいいと言った? 不快だ」イーヴィルは吐き捨てるようにこう言った。

「あの人間たちは、司令官の事を名で呼んでいたではありませんか!?」
「それも、まるで司令官が自分より下のものだというような態度でした!」
「そうです! あんな人間ごときが許されているのに、悪魔の伯爵級たる我々が......」
「――?」

 伯爵級の悪魔たちは、イーヴィルの地雷を踏み抜いてしまったことを察し、ヒュっと喉を鳴らした。

 イーヴィルが肘を着く椅子がミシリと軋む音をだす。彼はゆっくりと立ち上がった。

 そして、伯爵級悪魔たちの中で一番髪の長い者に近寄っていき、その髪を鷲掴みにした。

「お前たちのような弱くて馬鹿な悪魔と、強く聡明であられるユリウス様たちを比べるなんて、なんとおこがましい」うっそりと笑った。

「っあ、これはッ......!」
「俺たちはその人間を知らないからッ......!」
「お許し下さいッ......!」

 伯爵級悪魔たちの言い訳を聞いて、イーヴィルはどこか納得した表情になって、右手を離した。

 簀巻きだと大して受け身も取れずに、髪の長い悪魔は勢いよく床に叩きつけられる。これでは許されたのかどうか分からない。

 イーヴィルは口元に手を当て、少しの間何かを考えていた。

「うん、そうだ。確かにお前たちはユリウス様達のことを知らない。......という事で、先程の失言に関しては一旦置いておこう」

 

「森の奥の気配について、知っている事を全て話せ」
「「も、勿論です!」」

 伯爵級悪魔たちは物凄い勢いで頷いた。





 ギルドへと戻ってきたユリウスたちは、こちら側へと背を向けて何か作業していた受付嬢へと声をかけた。

「悪い、また買い取りを頼む」
「はっ! この声はユーリさんたちの予感!」

 そんな事を言い、勢いよくこちらへと振り返った受付嬢は喜色満面だった。

 どうしてそんなに歓迎されているのだろうか。ユリウスとエルハルドは首を傾げ、ネルはどこか引いた様子を見せていた。

「ギルド長が『あいつら、馬鹿ほど魔物狩ってくると思うから、買い取りの準備しとけ』と、言っていたので、準備は万端です!」
「「ぶふっ......!!」」

 受付嬢の妙に上手いギルド長ドレードの物真似に、ギルド内にいた冒険者たちは汚く吹き出した。

 ぎゃははと、冒険者たちが腹を抱えながら笑うのを、ユリウスたちは引き気味に眺めていた。

「それにしてもギルド長がそんな事を......ね......」ユリウスはアイテムボックスを出しつつ言った。

 ネルはその言葉を聞いて、爆笑しながらそのボックスへと手を突っ込む。

 「よいしょ」という掛け声とともに引き出されたのは、大量の魔物たちの死骸だった。ブラッドマウスにシャドーウルフを始め、ゴブリンにオーク等のものもある。

「「!?」」

「......こういうことですか!」受付嬢は大量の魔物たちを前に目を輝かせた。

「悪い。森でシャドーウルフの群れと戦闘して、その後のルイと俺のやり取りをネルたちが笑っていたらな。......寄ってきた」

 ユリウスは半目でネルとエルハルドを一瞥する。

「ユーリ、悪かったからそんな目で見るな」エルハルドは苦笑した。

「兄さんごめんごめん」ネルは反省した様子がなく、思い出し笑いをしていた。

 大した魔物じゃ驚異にはならない彼らだが、多くの魔物たちを一度に相手するのは彼らとて色々と面倒くさい。

 笑い声に寄ってきた魔物に次々と囲まれた時、ユリウスは絶対零度の視線を二人へと向けていた。騎士のくせに初歩的なミスをしているんじゃない。そう言ってやりたかった。

 まあ、二人も魔物が寄ってきても面倒くさいだけで危険は無いと分かっていたので気を抜いていただけなのだが。そもそも、スタンピードが起こりかけている今、どっちにしろ魔物は退治しないといけなかった。

「おおーおおー、大量だなー」
「サリトさん! ......も、大量だな」
 
 ユリウスと違い、アイテムボックスの使えないSランク冒険者サリトは、縄に魔物たちの足を括り付け、引き摺っていた。

 良くこの量を引き摺ってこれるなと、ユリウスはサリトの筋肉質な腕を見た。

「サリト殿......こんなもの引き摺っていたら、街で怖がられないか?」
「まあ、まず女子どもは近寄ってこないわな!」

 エルハルドの問いかけに、サリトはガハハと笑って見せた。

 確かに。大量の魔物を引き摺るガタイのいい冒険者は普通に怖い。サリトは常に笑っているのがトレードマークなのだが、それが怖さに拍車をかけているかも知れなかった。

「それにしてもなあー、明らかに生態系が狂ってきてるな」

 サリトは自らが狩ってきた魔物たちを眺め、呟いた。

 ユリウスも森で遭遇した魔物たちを思い浮かべ、神妙な顔つきをしながら口火をきった。

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