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本編

第10話:イーヴィルの一面

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 イーヴィルの瞳が怪しくひかり、彼を中心に風が巻き起こった。ルイがその風を操り、ユリウスたちへ影響が出ないようにする。

「おい、イーヴィル! 例の気配について聞き出せ! 先に殺すな!」

 ネルは口元に手を当て、拡声器のようにしながら叫んだ。

 それに対し、イーヴィルはひらりと手を振り返してみせる。

「分かっています......よっ」

 イーヴィルは伯爵級悪魔の一体へと急接近すると、その胸倉を掴んだ。他の悪魔二体はイーヴィルの威圧で動けない。

「ガハッ!?」

 胸倉を掴まれた悪魔は吐血する。その腹には大きな風穴が空いていた。

「イーヴィル!」ユリウスが咎めるような声を上げる。

 先程ネルが「殺さないように」と言ったというのに、イーヴィルはこの悪魔を殺そうとしているようにしか見えなかった。彼の纏う空気も、段々と暗く重いものになっており、殺気も高まっている。他にも悪魔が二体いると言っても、三体全員が同じ情報を持っているとは限らない。理想としては、悪魔たちを無効化し、別々にそれぞれ情報を聞き出す事だった。

 イーヴィルは伯爵級悪魔の胸倉を掴んだまま、くるりとユリウスの方を振り返る。

「ご安心下さい。伯爵級の悪魔ならばこの程度で死にはしません」
「くっ......やめっ......」
「お前たち、この森の奥で何の封印が解かれたのか知っているのだろう?」

 イーヴィルはそこで一拍おく。

「――
「「ッはい!」」
 
 胸倉を掴まれていない悪魔たちも声を揃えて返事をした。

「怖っわ......」ネルがボソッと呟く。

「殿下の前とは別人のようですな」エルハルドも呆れたように言った。

 地面に額を擦り付け始めた伯爵級の悪魔たちを目の前に、イーヴィルは徐に右手を上げ、指をひとつ鳴らした。

「「!」」

 ぱちりという音がなり終わる前に、伯爵級の悪魔たちは地面へと崩れ落ちる。

「イーヴィル!」ユリウスがもう一度、咎めるようにイーヴィルの名を呼んだ。

『ユーリ、大丈夫だよ~』
『コイツら寝ただけえー!』
『すーぴーすーぴーっ』
『今のうちに埋めちゃーう?』

 ユリウスは寝ただけかと安堵の息を吐き、教えてくれた精霊たちへと礼を告げた。物騒なことを言っている土の精霊へは釘を指しておく。

「イーヴィル、お前そんな凄い悪魔だったんだな」
「......何だか失礼なことを仰ってません?」

 禍々しい気配を抑え、雰囲気を柔らかくしたイーヴィルは、何時だかのように眉を下げた。

「あー......悪い、他意は無い」
「いえ......どう思われていても良いんですとも......」

 謝るユリウスと頭を項垂れされるイーヴィル。重苦しい空気が辺りを襲った。気まずい。物凄く気まずい。

「……ところで」エルハルドがこの空気を何とかするように口を開いた。そして、森の奥の方へ目線をやる。

「魔物が寄ってきてしまいましたな」
「おや......私が気配を抑えたのが逆効果でしたか」

 魔物たちは悪魔の気配には恐れをなして近寄ってこないが、何故か聖獣には恐れを見せないのでルイは魔物避けにはならないのだ。「イーヴィルは良い魔物避け」などと言うと、また彼は項垂れてしまうのだろうか。

 スっとユリウスに寄り添うようにルイが寄ってくる。

「ふむ。この程度の魔物たち、ユリウス様たちには余裕でしょうから、私はこのアホ共を向こうの空間で預かっておきますね」

 イーヴィルは良い笑顔で、眠る悪魔たちを軽々と抱えた。そしてそのまま、黒い空間へと足を踏み込んだ。

「このような格好で申し訳ありませんが失礼致します」

 ぺこりと一礼してみせると、そのまま姿を消した。

「......悪魔はイーヴィルが預かってくれましたし。どうします? 一戦交えますか」

 ネルが腰の剣に手を当てながら、ユリウスへと問いかけた。

「そう......だな。俺も久しぶりに魔法じゃなくて剣で戦うか」
「お、殿下の剣術は見てて楽しいので楽しみですねー」
「ネル、見てないでちゃんと手を動かせよ」

「分かってますよ」ネルは苦笑した。

 皆はほのぼのと会話しているが、油断している訳では無い。それぞれ剣を抜き、辺りを警戒し始めた。

 ユリウスはルイと騎士に「余程危険な事にならない限り手出しは不要だ」と告げる。二人と一匹は無言で頷いた。

 ガサリ

 ユリウスたちの目の前の茂みが揺れ、頭に響くような唸り声が多数聞こえてくる。

「さあ、殺り合おう」

 ユリウスはその瞳に、好戦的な光を宿した。


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