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ウメヤキ村編
第6話「これからの生き方」
しおりを挟むコンキオリン摘出手術から一ヶ月が経過した。
ベーゼの右腕はうっすらと切開跡が残っているだけで傍目からみても傷跡の類いはわからない程に修復されていた。
「あれだけ深々と切ったのにもう完治しているのですね」
「一週間でだいたい今の状態だったけど、念のため二週間余裕を見てみただけだ」
傷は塞がっていても筋肉や血管がくっついていない可能性もあるためベーゼは大事を取った。
「さて、ベーゼ、良い機会ですのでちょっと話をさせてください」
「なんだよ改まって?」
「今後の進路についてです。このままこの村で一生を過ごすのか世界を旅するのか、それともまったく別のことを成すのか」
「進路か……色々思うところがある。元々、前世は生物学のポスドクだったしこっちでも生態系調査とかの仕事に就きたいね」
「では外に?」
「うーん、まずは……学校だな」
「学校ですか……それは難しいですね」
「なんでだ?」
「この世界は見てのわかるようなファンタジー世界、学校は貴族や富豪などが通うもので平民には縁遠いものです。学費もかなり掛かりますし」
「そうか……だとするとこの村で一生過ごすのもありか」
「冒険者になるのもありかと、私もサポートしますし」
「冒険者か」
「うまく成り上がれれば貴族と接点を持つこともあります。そうすれば学を得られるかもしれません」
「運まかせだな」
「前世もそうでしょう?」
「それもそっか、とりあず保留で、俺は晩飯を取りに森に行ってくるよ」
「はーい、母はウサギか鹿が食べたいです」
「わーったよ」
ベーゼは家から出ると、ケルブスが家の前で待っていた。
コンキオリンの一件からケルブスは具合が悪いままで寝込んでいた。
「お、久しぶりだな。具合は良くなったか?」
「うん……それと聞いたよコンキオリンの事」
「えああ、まぁ、気にすんな金もらってやったことだし」
「そうだね、今日はどうする?」
「森に晩飯を取りに行く」
「いいね! 行こう!」
「ちょおおおおおおおおっっとまったああああああああああああ!」
大慌てでアドルフィネがベーゼにドロップキックをかます。
当然ベーゼは顔面にアドルフィネの両足が直撃し、そのまま玄関まで転がる。
「いきなり来て何すんだよ! 相手のゴールにボールをシュートッッ! 超エキサイティン!! じゃねえよ!」
「何言ってるのベーゼ?」
「ごめん、僕もわからないよ」
「あー、そっか……それでアドルフィネわざわざ俺の顔面に蹴りを入れた理由は? 俺お前になんかやったか?」
「いや何も、全然やってないけど?」
「じゃあ、謝れよ!!」
「???????」
「ハテナじゃねえよ!」
「いやどうせすぐに傷治るじゃない」
「そういう問題じゃねえよ。まぁいいけどよ。どうしたんだ?」
「そう! ケルブスが倒れたって聞いてから学校にお休みもらって見舞いよ!」
「あー、それなら見ての通りだ」
ケルブスはニコッと笑って元気そうな素振りを見せた。
白銀の髪に紅い瞳、色白の肌、どれも女性を射止めるには充分過ぎるほど魅力的だ。
「はうあ!! 元気そうで良かったわ!」
「全部、ベーゼのおかげだよ」
「どういうことなの?」
ベーゼは事の顛末をアドルフィネに語った。
「と言うわけだ」
「そんなことが……ねえケルブス私の従者にならない? あとベーゼは下僕にならない?」
「従者? どうして?」
ケルブスは小首を傾ける。
「私の従者になれば学校に行けるし、学校の医務室にはお医者様がいるの。だから私の従者になればいつ倒れたとしても医者が診てくれるわ!」
「それは嬉しいね」
「すまん、俺の必要性は?」
「私はまだ初等部だけど高等部になるとき従者として二人まで付き添わせることができるの。もちろんタダで!」
「なるほどな」
「普通の貴族なら監視されるのが嫌で付けないし、従者が教育不足なのをみんなに知られるのは屈辱的らしいのよ」
「それアドルフィネの家の面子は大丈夫なのか?」
「うちはほとんど商人の家で使えるものは何でも使うわ! だから従者くらいなんてことないわよ!」
「あー、なるほどな。お里が知れるってやつか」
「よくそんな言葉知ってるわね?」
「えーっと……行商の奴らが言ってたのを聞いてただけ」
「ふーん……まぁいいわ、それでどうする? 従者になるの? 明日までに決めて!」
「僕は学校に行ってみたい。僕の病弱の体が治るかもしれないから」
「ケルブス、まずは親に聞かねえと」
「そうだね。アドルフィネ! 明日必ず!」
「ええ、わかったわ! 言い知らせを待っているわ!」
三人は踵を返す。ベーゼは家の中に戻るとナトと話を始めた。
「ナト、ちょっといい?」
「ベーゼ? どうしました? 忘れ物ですか?」
「進路についてだけど」
「はいはい」
「アドルフィネが従者にならないかって」
「と言いますと?」
「ケルブスの虚弱体質を何とかするためにアドルフィネが通っている学校に一緒に行かないかって話」
「お金は?」
「アドルフィネの従者として入るからタダだって」
「なるほど、それは良いかもしれませんね」
「俺としてもこの話は乗りたい」
「いいと思います。ただ――」
「ただ?」
「ベーゼと離ればなれになるのは母は寂しいです」
「今すぐじゃ無いから、五年後だから!」
「それでもおおおおおお母はああああああああああさびいいいしいいいいいいいいいいのおおおおおお! どおおおおおじでわがっでぐれないのおおおおおおおお!」
「泣くな泣くな鼻水大洪水だよ、ナイアガラか!?」
「う゛ぇええええええええええええええ!!!」
ナトは泣き叫びならが承諾した。
「ナト、ありがとうございます」
「ぐすん、母のお気持ちとしては反対ですが仕方ありません」
「まぁ、いつかは巣立つもんだよ」
翌朝。
アドルフィネが意気揚々と寝ぼけ眼のベーゼとケルブスを家から引きずり出す。
「おはよう!」
「朝っぱらからなんだよ」
「うっさいベーゼ! ケルブスごめんなさい朝早くから……」
「アドルフィネもベーゼもおはよう。昨日の話でいてもたってもいられなかった?」
「ええ、まぁ、そんなところ」
「それなら、このケルブス、アドルフィネお嬢様の従者になることをお約束致します」
「うーーーーーん! やったあ!!」
「ケルブス良かったな親御さんに許して貰えて」
「そう言うケルブスはどうなのよ?」
「残炎だったなアドルフィネ、俺も従者になるぜ!」
「ふーん、まぁ、どうでもいいわ」
「露骨ぅ!」
「いい荷物持ちが増えたくらいにしか思わないわ! でもまぁ! ちょっと教室が静かすぎるときには丁度良いかもしれないわね!」
アドルフィネは一見するとベーゼを辛辣に扱っているように見えるが、実際はケルブスが特別なのであって、ベーゼの扱いというのはアドルフィネなりの接し方でこれはこれで友情がある。
「ま、ともあれこれからもよろしくな!」
ベーゼの一言に二人は歯を見せて笑った。
「あ、それと入学試験あるからちゃんと勉強しなさいよ! そのための本も二人に送るから!」
「任せろ!」
「うん、僕、頑張るよ!」
三人は指切りをして約束した。もちろんこれはベーゼの提案だ。
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