覇道の神殺しーアルカディアー

東 将國

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第2章 神々の運命

第33話 帰還

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 神王会議を終えた神斗と優香は、カテレア神殿内にある転移門に姿を現しイデトレアに帰還していた。

「「「お帰りなさいませ!我らが王よ!!」」」
「ああ、みんなただいま!」

 するとそこにはすでにイデトレアの幹部たちが集まり、片膝をついて整列していた。
 強力な力を持った幹部たちと屈強な兵士たちが静かに跪くその姿はまさに、堂々たる王の帰還だった。

「マーゼラ、何か問題はあったか?」
「いえ、すべて王の手筈通りに。さすがは我らが王、計画は一切問題なく実行する事ができました」
「そうか、なら詳細の報告を……」

 神斗から問いにマーゼラは膝をついたまま、丁寧に答えた。
 普段は神斗に対してもっと砕けた感じで接していたマーゼラであったが、この時は王の臣下として丁寧な口調をしていた。

「お言葉ですが王よ、報告はまたフェルノーラ城に戻ってからで良いかと」
「ん?なぜだ?」

 イデトレアは王である神斗のいない間に他勢力から襲撃を受けた。神斗はそのことについて詳しいことを一刻も早く聞きたかった。
 しかしマーゼラはそれには答えなかった。

「なぜなら、国民の皆が王の帰還を待っているからだ」

 膝をついた状態から立ち上がり、口調も普段の砕けたものに戻る。
 幹部の中には神斗に対して敬語を使わず、軽い態度で接する者が多い。それはお互いを信頼し合い、頼り合っているからこそだった。
 公の場に限ってはこうして丁寧な口調を使ったり、整然とした態度を取るのだ。

「ほら、行ってやりな神斗。国民は天狼通りでお前の帰還を待ち望んでいるぞ」
「……ああ、そうだな。行くか」

 神斗は跪く幹部や兵士たちの間を通り、国民の待つ場所まで歩いて行く。幹部たちは王が通り過ぎると立ち上がり、神斗の後をついて行く。
 神斗がカテレア神殿の扉の前に立つと、扉の脇に控えていたグラーフとデュリンが扉を開いた。

「「「ワアアアァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!!」」」

 カテレア神殿の前は少し開けた広場になっていたが、今そこは多くの人が集まっておりその人だかりは真っ直ぐに伸びる天狼通りまで続いていた。
 扉が開け放たれ神斗が姿を現した瞬間、集まった人々から大歓声が上がった。
 神斗は一歩前に出て集まった国民たちに向け口を開いた。

「国民たちよ、まずは謝らせてくれ。北欧からの襲撃の際、俺はこの国にいなかった。王として、神殺しとしてこの国を守らなければならないはずが、俺は戦場に立つどころか戦士たちを鼓舞することも、国民を安心させることもできなかった。本当に申し訳ない」

 神斗はまず国民に対して謝罪した。
 国が襲撃を受けたのにもかかわらずこの国の王である神斗はその場にはいなかった。神王会議に出席していたため仕方がないのだが、それでも神斗は国を治める王として謝罪をしたのだ。

「王がいない中、北欧からの奇襲攻撃にも混乱せずうまく対処してくれた幹部たちには深く感謝する。お前たちが配下にいることは、俺の誇りである」

 神王会議を行なっている間に北欧からの襲撃を予想していた神斗は様々な対策、作戦を用意していた。しかしそれを実行したのは神斗の後ろに並ぶ幹部たちであった。
 突然奇襲を受け、さらには強大な力を持つフェンリルが出現してもなお幹部たちは臆することなく作戦を実行しきった。中にはカレンの様に自ら行動し国を守ることに貢献した者もおり、王が留守の間イデトレアを守った幹部たちを神斗は褒め称えた。

「そして力強き戦士たちよ!俺が不在の中よくぞこの国を守ってくれた!猛き奮戦ぶり心から称賛する!これからもイデトレアと神殺しのためにその力を振るってくれ!」

 さらに神斗は民衆とともに集まっていた戦士たちを称えた。
 戦士たちは戦場にて北欧から襲撃をしてきた巨人や魔物と戦った。作戦を実行し指示を出していたのは幹部たちだったが、実際に力を振るってイデトレアの街を守ったのは戦士たちである。
 それに神斗はしっかりと触れ、戦士たちの心をさらに震わせて鼓舞した。すでに襲撃は収まり敵はいないのにもかかわらず。それには未だ続く神斗の作戦を実行するためであった。

「北欧神話の攻撃は明らかな侵略行為である。我々はこれを黙って見過ごすわけにはいかない!イデトレアの国民たちよ、今こそ立ち上がる時だ!神殺しの国イデトレアの気高さを神界全土に知らしめるのだッ!!」

「「「オオオオォォォォォォォォオオッ!!!!!!」」」

 神斗は北欧からの襲撃を侵略行為と受け取り、見過ごすことなく反撃することを宣言した。それはつまり北欧神話に対しての宣戦布告だった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 壮大ながら細かな装飾が施された豪華絢爛な宮殿。本来であれば神々しい雰囲気で包まれているはずが、今となっては重い緊張感が漂っていた。
 中でも特別空気が張り詰めている部屋がある。そこでは強大な力を纏った者たちが多く集まり、何かを話し合っていた。

『一体どうしてくれるのだロキ殿!このままでは戦争になってしまうぞ!』
『まさか神王会議中に襲撃を実行するなんてね。しかも“神喰らい”まで……』
『神界の平和のための会議を行なっている時に他勢力を襲撃、それがどんな意味を持つかわかっておるはずだ!』
『良くて神殺しとの全面戦争。悪い方に転じ続ければ神界全土の戦い、“神王大戦”に発展する……か』
『主神がいない今の状態でも十分混乱しておるというのに、さらに大きな戦いまで起きれば勢力の存続まで危ぶまれる』

 ロキは北欧の主神の力を取り戻すため、優香を狙って神殺しの国イデトレアに襲撃を行った。
 しかしイデトレアに優香はいなかった。それだけでなくフェンリルが返り討ちにあい、次元の狭間に飛ばされ打ち倒された。
 イデトレア襲撃は失敗した。それどころか敗北を意味しているといっても良かった。

『おやおや、アースガルズの神々は相当臆病の様だねぇ。戦争がそんなに怖いのかい?』
『どうやらその通りの様ですなシギュン様。こやつらはただただ戦うのが怖い、腰抜けの様です』
『アハハー、弱っちぃねー』

 ロキを追求している者たちに対し、褐色肌の魅惑的な女性“シギュン”とその後ろに浮かぶ二つの影は挑発的な態度をとった。

『なんだと!?貴様らロキ派はただ戦争がしたいだけであろう!』
『そうだ!我らトール派が神殺しと平和的な解決をしようとしておるのを毎度の様に反対しおって!今は内輪揉めしておる場合ではないのだぞ!』
『ロキ殿、貴殿は以前まで話し合いで解決するのを好んでいたではないか。にもかかわらずなぜ今回は武力行使を選んだのだ?』
『ふん、何を言ってももう遅いわ。奴らとの戦争は絶対に起こる。話し合いなどしても無駄なところまで来てるんや。もうそろそろ腹を決めたらどうなんや?それとも、この国のためとはいえ奴ら神殺しと戦いたくない言うんか?おぉ?』

 主神を失った今の北欧神話は統制が取れておらず、ロキ派とトール派の二つの派閥ができお互いがお互いの邪魔をし合っていた。そのためこういった重要な会議ですらまとまらず、言い合いが絶えなかった。
 さらに今回は勢力の命運すらも絡んでくるほどの会議だ。お互い譲歩などできない。言い合いは苛烈を増していき爆発寸前だった。
 そんな宮殿の廊下には赤髪の大男が足早に歩いており、派手な装飾の扉の前で止まった。

『ぐうぅッ、このぺてん師が!いい加減に……』
『そこまでだッ!!』

 ある神が我慢の限界だったのかロキに向け詰め寄ったその時、勢いよく扉が開け放たれた。
 そこにいたのは神王会議に出席していたトールだった。その後ろには補佐官としてトールとともに神王会議に出席したヴィーザルが控えていた。

『『『……ッ!トール殿ッ!!』』』

 トールは部屋の中を一瞥すると堂々と歩み出し、上座に座した。

『お帰りなさいませトール様。神王会議が終わって早々、ご足労いただき申し訳ありません。少々……いえ、重大な問題が起きてしまいまして……』
『よい。何があったかもある程度は聞いておる』

 神王会議の行われた世界からこの北欧神話の世界に帰還してすぐに現状を部下から伝えられ、話を聞きながらこの部屋に直接姿を現したのだ。

『すでに神殺しとの戦争の火蓋は切って落とされた。もう戦いを避けることなどできん』
『なーんや、わかっとるやないかトール君!そう、俺様たちはもう戦うしかないんや!ヒッヒッヒッ!!』

 ロキの起こした襲撃によって神殺しは北欧神話側に戦争を仕掛けて来る。それはもう明白だった。

『内から瓦解するか、外から崩壊するか、どちらにせよこのままでは我ら北欧神話は滅んでしまう。まずは目先の神殺しとの戦いだ。これを乗り切らねば話しにならん。今一度、結束を強める必要がある』

 今のような内輪揉めをしているままでは北欧神話は神殺しとの戦争をまともに戦うことができない。たとえうまく乗り切ったとしてもトール派とロキ派の溝が深いままでは内乱が発生する可能性もある。
 トールは今こそ、北欧神話を一つにまとまるべきだと思っていた。そのため話し合いという平和的な解決よりも神殺しという共通の敵を共に倒すことを選択したのだ。

『ロキよ、今回の失態はしっかりと責任を取ってもらう。本来であれば今すぐにでも幽閉し処罰を与えねばならないが、今回は別の形を取ることとする』
『ん?なんや、またチャンスをくれるんか?』
『ああ、これが“最後”だ』
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