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第2章 神々の運命
第34話 元老院
しおりを挟む神殺しの国イデトレアにそびえ立つ巨大な城、フェルノーラ城の上層には国を動かしていく上で重要な機関が集まっている。
その中でも玉座の間に次いで重要な場所に神斗と優香は来ていた。
「ここは?」
「玉座の間が心臓部であれば、ここは頭脳と呼べる場所。“元老院”だ」
神斗は神殺しの国イデトレアの王にして、行政を司る機関、“国務院”の総監でもあった。国務院は政務や軍務、財務などの行政を行う機関だが、あくまで国を動かす一翼でしかない。
イデトレアは王政ではあるが、王が権力を独占した独裁体制ではない。国務院、元老院、司法院の三つの機関に権力を分散した三権分立体制だった。
「元老院というと、マーゼラさんが総監をしている機関だよね?」
「ああ。元老院は国の法律や他勢力との条約の承認、行政各部が行なっている政策の精査などを行う機関だ。国政に関わる重要な案件の判断を行うため、六人の元老院議員は国民からの直接選挙によって選ばれているんだ」
「なるほど、だから国の頭脳って呼ばれるんだ。じゃあ今日ここに来たのって……」
「いつもなら毎月行われる定例会で定時報告を行うんだが、神王会議が行われた後は臨時で報告をしなければならないんだ。会議の場で合意した条約などの承認をしてもらうためにな」
神王会議では他勢力との条約の締結や修正といった勢力を超えた話し合いが行われた。それは国にとって重要な内容であるため、元老院によって議決する必要があるのだ。
「……まぁ、今回は他にも話さなければならない事があるしな」
神斗は目の前の扉を開けて中に入っていく。優香も神斗に続いて中に入っていくと、そこは暗がりに包まれた空間だった。
天井からは仄かに光が差込み、部屋の中心にある円卓をぼんやりと照らしている。その円卓には六つの席があり、そのうち五つの席にはすでに元老院議員と思しき人物らが座していた。
「おお!来たな神斗、優香。早速報告に入ってもらいたいのだが、まずは優香に元老院議員を紹介せねばな。国務院の幹部たちとまではいかんが、それなりに個性豊かな連中だ。覚えてやってくれ」
円卓の席の一つに座っていたマーゼラが立ち上がり神斗と優香の二人を迎えた。
マーゼラは立ち上がると優香に元老院議員の紹介を始めた。
「お前からだジョン」
「え~、僕からかい?」
「お前がこの中で一番まともじゃからな。他の奴から始めると逆にハードルが上がるぞ?」
「あ~そういうことね。わかったわかった」
マーゼラから指名を受けたのはマーゼラの右側に座っている男性だった。
白髪に丸眼鏡、その身には白衣を着ており所々破れていたり汚れている。ひょろっとした体に青白い肌をしているため弱々しい雰囲気のある人物だというのが優香の第一印象だった。
「今ご紹介に預かりました、元老院議員のジョン・フォノンと申します。ん~と、一応僕ヴァンパイアです。よろしくね」
「はいっ、よろしくお願いします!」
ヴァンパイアは人の血を吸い、下僕や餌として支配したりする。夜になると力を発揮しコウモリなどを使役する。ニンニクや十字架といった苦手なものはあるものの、強靭な肉体と精神を持つ異種族である。
そんなヴァンパイアの中でも真祖と呼ばれる上位の存在は不老不死の者もいるという。
「こいつはこのイデトレアだけでなく神界全体の中でも屈指の知識人でな、“賢王”と呼ばれておる。ヴァンパイアだが他人の血を吸う必要のない特異体質だから安心してくれ」
「ふっ、血はあまり好きじゃないんだ。そんなものよりも僕は知恵が好物なのだよ」
ジョンが不敵に笑うと鋭い牙が生えているのが見えた。
次にマーゼラはジョンの隣に座る者を指名する。それは厳格な雰囲気のこの場には似つかわしくない、小さな子供だった。
「ぼ、ぼぼっ僕は、エルデバラン、です……。よ、よろしくお願いします!!」
エルデバランは浅黒い肌をしている少年だった。円卓が大人用に作られているのか高さが合わず、椅子に行くつかクッションを敷いて座っていた。
「エルデバランはスプリガンという妖精の一種の末裔だ。この歳にして元老院議員に選ばれた逸材で見た目とは裏腹になかなか小癪な奴でな、こやつを侮ってはならんぞ?ガッハッハ!!」
「そ、そんなこと言わないでくださいよマーゼラさん!!」
マーゼラに弄られたエルデバランは浅黒い頬を赤く染めていた。
エルデバランの外見は一般的な少年の姿だ。しかし元老院議員としてこの場にいる時点で只の子供ではなく、国の政治に影響を与える元老院議員として相応の力を持っていることは確かであった。
マーゼラは怒るエルデバランを無視して紹介を続けた。
「次はこいつだ」
「拙者は菊御門タケルと申す。イデトレアの仲間としてだけでなく、“同郷”の者としてもどうぞよろしく頼む」
「同郷?それって……」
「うむ、タケルはこのイデトレア出身ではなく人間界出身だ。それも優香と同じ国のな。人間界にいたのを儂自ら引き抜いた。相当な実力を持っていたのでな」
その者は長い茶髪を一本に縛り、大きな笠を被っていた。真っ赤な和服を着ており、その口元は黒い布を巻きつけており真っ赤に輝く瞳が一層強調されていた。
そしてその手には一本の刀が握られており、その刀からは異様な力を発していた。
「ちなみにタケルはヘラクレスと同様、英雄の力を持つ転生者だ。それもヘラクレスを始めとした転生者の頂点、イデトレア最強の転生者だ」
「最強の……転生者?!」
「人間にして強大な力を持った英雄は人間にあだなす魔物や怪物を討つ存在。しかし、英雄は時として神々を討つ。神ではない英雄の力を持つからといって、拙者たち転生者を甘く見るでないぞ?」
「は、はいっ!もちろんです!!」
優香はタケルの真っ赤な瞳から発せられた強い力の波動に気圧されてしまった。
タケルは決して優香を威圧したわけではない。自らの考えと思いを言葉にしただけであったが、その赤き眼光によってただの言葉が周囲を威圧したのだ。
タケルの紹介を終えたマーゼラは次の元老院議員を紹介しようとしたが、なぜか渋っている様子だった。
「次は……こいつか。正直あまり紹介したくないんだが、しょうがない」
マーゼラが渋々紹介したのは筋骨隆々、スキンヘッド、片目が傷跡によって閉じられた大男だった。上半身には何かの獣の皮で作ったと思しきマントだけを羽織り、傷だらけの体が曝け出されていた。
歴戦の猛者らしい雰囲気を醸し出す風貌だったのだが、一点だけおかしな所があった。横一文字に固く結ばれた無骨な口に、真っ赤な“口紅”が塗られていたのだ。
「こいつはローガン・カイルノート。イデトレア……いや、神界きっての変態だ」
マーゼラから紹介を受けた大男、ローガンはその口を開いた。
その瞬間、その場の雰囲気が崩壊した。
「あぁんもうっ!何よマーゼラちゃんその紹介!嫌になっちゃうわー。まぁ変態ってことは否定しないけどねん」
厳格な雰囲気のあるこの場に相応しいとは言えないオネエ口調で喋るローガンは立ち上がり、優香の前まで進んでそのゴツゴツとした右手を差し出し、野太い声で話しかけた。
「あたしはローガン・カイルノート。趣味は男漁り、好みのタイプはエルデバランのような可愛らしい男の子よ。よろしくねん優香ちゃん!」
「ひ、ひいぃぃぃ!!!」
「よ、よろしくお願いしますローガンさん!」
ローガンから異様な気配を感じ取ったのか、エルデバランは体を震わせて椅子の裏に隠れてしまった。
するととある“女性”がローガンに声をかけた。
「ローガン、挨拶はその辺にしときな。これ以上その濃いキャラを全面に出してると、その子もエルデバランのように怯えちまうよ?」
その女性は大きな三角帽子を被った魅惑的な女性だった。その女性は先程まで誰も座っていなかったはずの席に座っていた。まるで最初からそこにいたかのように。
「え!?いつの間に?」
優香はその女性が急に姿を現したことに驚いてしまった。
ローガンの異様な迫力に押されてはいたものの、その誰も座っていなかった席は優香の視界に入っていた。にも関わらず、気づいたらそこにいたのだ。
「あらそう?それは困るわねぇ。なら今度またじっくりお話ししましょう?優香ちゃん」
「え?あ、はいっ!」
ローガンが席に戻るとエルデバランは椅子の裏から恐る恐る出てきて椅子に座りなおした。
「まったく、キャラが濃いやつは面倒でしょうがないね。なんで幹部クラスになるにつれ個性強いのがあつまってくるんだろうね?」
「お前の言えることではないぞ、キーキよ」
ローガンに声をかけた女性の名はキーキ。先日の北欧神話からのイデトレア奇襲攻撃にて、フェンリルを転移門のあるカテレア神殿に強制転移させた人物だった。
「なんだい?私のことを個性の強いやつだと言いたいのか?」
「ああ、まったくもってその通りだ。だからこそ優香への紹介を最後にしたのだ」
「ふんっ、あんたにだけは言われたくないんだが?この戦闘狂が」
「儂は別に戦闘狂ではない!ただ戦いが好きなだけだ!」
マーゼラの発言にキーキが反論した。するとそれに腹を立てたのか、はたまた元々鬱憤がたまっていたのか、マーゼラは立ち上がりキーキに向かって文句を言い放ち始めた。
「それに貴様、遅刻してきた身であろう!さらには扉から入らず転移魔法で入ってきよって!一体これで何度目だ!?他の会議でも遅刻し、ましてや無断欠席まで!仕事をおろそかにして街中をブラブラし、他の世界に無許可で侵入したこともあるよな!?お前は元老院議員としての自覚が足りとらん!!」
「ああもう、うるさいジジイだねぇ。そんなんでよく元老院総監が務まるねぇ」
「なんだとぉ!?」
「おぉ!?やるかこの!!」
ついにはキーキまでもが立ち上がり、一触即発の事態となってしまう。
しかし周囲にいる他の元老院議員と神斗は止めようともせず、呆れたような表情をしていた。
「ふふ、なんだがお二人、“夫婦“みたいですね」
口喧嘩するマーゼラとキーキの姿を見て、優香はつい笑ってしまった。
「そりゃそうだよ。マーゼラとキーキは夫婦だからね」
「……え?」
優香は神斗の発言に、口を半開きにしたまま思考停止してしまった。
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