覇道の神殺しーアルカディアー

東 将國

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第2章 神々の運命

第47話 マーナガルムの力

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(くっ……高速移動?いや、奴は目の前にいる。にも関わらず真横から攻撃された)

 海乃はマーナガルムの美しい遠吠えによって少しだけ緊張を緩めてしまっていたが、目の前にいる敵からの攻撃をまともに受けるほど気を抜いていたわけではなかった。
 しかしだからこそ真正面しか警戒しておらず、予想外の真横からの攻撃に対処しきれず攻撃を受けたのだ。

(では別の第三者からの攻撃?だがそんな気配はしなかった。確実にマーナガルムからの攻撃だった。だとすると……)

 真正面にいるマーナガルムが真横から攻撃を仕掛けるなど不可能。第三者の介入を考えるも、先ほどの攻撃は明らかにマーナガルムからのものだった。
 真正面に存在しながら海乃の真横から攻撃を加えた。物理攻撃の届く距離ではなく、遠距離攻撃の類でもない。
 つまり、真正面にいるマーナガルムと真横から攻撃したマーナガルム、この場に二頭のマーナガルムが存在することになる。

「ふふ、なるほどな。それが貴様の能力か。流石は“幻狼”と呼ばれるだけのことはある」
「グルルゥゥ……」

 今は一頭しか姿を現していないが、もしこの場にマーナガルムが二頭存在すると仮定すると、海乃の目の前にいながら真横から攻撃したことの辻褄が合う。
 しかし、“幻狼”マーナガルムはこの世に一頭しかいない。全く別の狼だったとしても、力の波動や気配まで同じにすることなど出来ない。ましてや突然姿を現し、再び姿を消すことなど普通できることではない。
 海乃はあらゆる可能性を考察し、一つの答えを導き出した。

「貴様の能力は幻を操ること。正確には光を反射させたり屈折させることによって幻を生み出す大気光学現象。いわゆる“幻日”だな?」

 “幻日”とは、太陽から離れた位置に太陽と同じ高さに光ができる現象だ。この現象は空気中に浮かぶ氷晶に太陽光が入射し、屈折することによって発生する。
 この現象によって発生した光はあくまで幻の太陽のようなものだが、昔の人々はこれを二つの太陽が存在する異常現象だと捉えていた。

「私の目の前にいる貴様は能力で生み出した幻。本体は光の屈折を利用して姿を隠しているといったところか。これはかなり厄介な能力だな」

 マーナガルムはこの能力を使い分身を作り、本体は光の屈折を利用して透明化していたのだ。
 ただ透明化するだけでなく、分身を作って相手の注意を引く。相手が油断した瞬間、透明化していた本体が攻撃をする。
 魔獣としか戦ったことが無く戦いにおける駆け引きができないマーナガルムであったが、能力を使うことでそれを補ったのだ。

「グルルゥゥゥ……」
「ハッハッハッハッ!!面白い、面白いぞ“幻狼”ッ!!貴様が本気を出すというのならば、この私“海鳴り姫”も全力で相手をしようではないかッ!!」

 右肩に大きな怪我をしていても尚、海乃はマーナガルムとの戦いを楽しんでいた。
 それを尻目にマーナガルムは再び攻撃の準備に入った。今度は真横からではなく、死角である真後ろからだった。

「グルァッ!」
「ぐっ!またか!」

 何とか気配を感じ取った海乃はトリアイナでマーナガルムの攻撃を防ごうとするも、右肩の大怪我もあって完全に受け止めることができずに後方へ吹き飛ばされてしまう。
 しかし今度は受け身を取ることができ、大きなダメージを受けずに済んだようだった。

「右腕はしばらく使い物にならんが……これならどうだッ!?」

 海乃は左手に持つトリアイナの穂を真っ直ぐにマーナガルムに向けた。
 するとトリアイナの穂に水が集まってくる。小さな水の弾丸が出来上がった。

「せせらぎの弾丸、鉄を穿てーー“水鉄砲ポルカ”!!!」

 海乃はトリアイナの穂に生み出された水の弾丸を発射した。
 放たれた水の弾丸はマーナガルムに向けとてつもない速度で飛んでいく。
 しかしマーナガルムは体を横に回転させることで高速の水の弾丸を躱してしまった。
 躱された水の弾丸はマーナガルムのいた少し後方に着弾し、大きな音とともに地面を深く抉った。小さな水の弾丸だったが、かなりの圧力が込められているのか高い威力のある攻撃だった。

「グルルルゥゥ……」
「ふぅ……元々身体能力が高く、凶悪な牙と爪を持っているだけに厄介だな、その幻を操る力」

 海乃の強力で高速な攻撃をも躱す程の身体能力を持ち、鋭い爪と牙による攻撃もできる。それに加え幻を操って身を隠したり、陽動として分身を生み出すこともできる。
 魔獣以外との戦闘に慣れていないマーナガルムであったが、その能力は十分脅威的なものだと言えた。

「ふっふっふっ……ハーッハッハッハッハッ!!!いやはや、お前のこと舐めていたよ。まさかここまでやるとはな」

 マーナガルムの予想以上の力に対し、海乃は恐れるどころか笑い声をあげた。
 海乃はただ戦うことが好きなのではなかった。強い力を持つ者、強者との戦いこそ海乃の大好物だった。
 目の前にいる存在が自分にとって強者であることがわかったからこそ嬉しくなり、つい笑ってしまったのだ。

「やはり強者との戦いは楽しい……楽しいなぁ!!ハッハッハッハッ!!!!」

 右肩に大怪我をしているにも関わらず海乃の目は爛々と輝いており、まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようだった。
 しかし、海乃の体からはその表情に似つかわしくないほど強大な力の波動が放たれており、それによる影響か大地は震え、空からは突然大雨が降り始めた。
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