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第2章 神々の運命
第46話 捨て身
しおりを挟む北欧神話の世界、第二層。
そこでは海乃率いる合同部隊と魔獣たちとの戦いが繰り広げられていた。
「隊列を乱すなッ!」
「そっち行ったぞ!気をつけろ!」
「援護遅れているぞぉ!!」
魔獣たちはその圧倒的な数によって海乃たちを四方から完全に包囲していた。
三つの部隊は洗練された連携によって何とか持ち堪えている状態であり、戦線は膠着していた。
それに対し海乃はたった一人で一方向の敵を相手していたのだが、その圧倒的な武力によって既に壊滅していた。
唯一海乃の前に立ち塞がったのが、“幻狼”マーナガルムである。
「ふっふっふっ、貴様の仲間はなかなかやるようだな?マーナガルムよ。私の配下の者どもが苦戦するとはな」
「グルルルゥゥゥ……」
大量の魔獣たちの屍が転がる中、海乃は余裕そうな表情で戦場を見渡した。
そんな海乃の前に立ち塞がっていたマーナガルムもまた、身体中に傷を負っており、海乃の持つ黄金の槍“海神の三叉槍”の穂の部分にはマーナガルムのものと思しき血が付いていた。
「やはり実力をつけるには実戦が一番だ。貴様らのおかげで我が兵たちの練度が上がっている。これはきっちり礼をしなくてはな?」
「グルルゥゥ……グルァッ!!」
海乃がトリアイナを構えた。マーナガルムはこれに反応し先手を打とうと襲いかかった。
しかし、海乃はトリアイナでマーナガルムの攻撃をいとも簡単に捌ききる。
攻撃を全て防がれたマーナガルムは反撃を受けないよう跳躍して距離を取る。
「最強の狼であるフェンリルが相手ではないのは残念だが……まぁ良い。今回は貴様で我慢してやろう」
「ッ!……グルアアァァァァァッッ!!!」
その言葉が癪に障ったのかマーナガルムは再び攻撃を仕掛ける。
それは先程よりも数段速く強い攻撃であり、海乃はトリアイナで捌ききることができず数カ所傷を負ってしまう。
海乃はマーナガルムの猛攻に対し、槍だけでなく力によって生み出した水を組み合わせて反撃を行う。
生み出された水は矢のように鋭くなりマーナガルムに向けて飛んでいった。
しかしマーナガルムは水の矢など気にもとめず、真っ直ぐ海乃に向けて突撃した。
「なにッ!?」
「グルアァッ!!」
マーナガルムは水の矢によって体に傷を負いながらも走り続け、その豪腕によって海乃を殴り飛ばした。
十数メートルもの距離まで吹き飛ばされた海乃だったが、直前で槍と水の壁で防いだのか何事もなかったかのように平然と立ち上がった。
しかし、海乃は左肩に怪我をしていた。マーナガルムの爪が海乃の槍を掻い潜り、水の壁を貫通して傷を負わせたのだ。
「はっはっはっ!なんだ、やればできるではないか!そうだそれで良い!もっと私を楽しませてくれっ!」
怪我をした海乃だったが、気にしていないどころか逆に楽しんでいた。
対してマーナガルムの方は海乃に傷を負わせられたが、自身はそれ以上の攻撃を受けてしまっていた。
マーナガルムは海乃の言動によって我を忘れ、ただただ海乃に攻撃を当てることだけしか考えられず、捨て身の突撃をしたのだ。
「ふむ、やはりか。貴様、さては魔獣としか戦ったことがないんじゃないか?」
「……」
「戦い方があまりにも単調だ。駆け引きというものがない。相手の動きを予測し、反対に自分の動きを悟らせない。そういった戦いの基礎がなっていないようだ。まぁ、魔獣に言ったところでしょうがないか。はっはっはっはっ!」
「……ッ!!」
マーナガルムは同じ狼であるフェンリルと違い、神や神殺しと戦うことよりも他の魔獣と戦うことの方が多かった。
そのため普段は動物的本能によって戦っており、相手を騙したり陽動を仕掛けたりして戦うことには慣れていなかった。
それを見透かされ、その上侮辱までされたマーナガルムの心は怒りと憎しみの感情によって支配された。
するとマーナガルムの体から漆黒のオーラが溢れ出し、その体を包み込む。
海乃はこれを危険だと判断し槍を構え、水を生み出して臨戦態勢をとった。
「……グルルゥゥ」
「貴様、一体何を……」
「ッ!!……オオォォォォォオオオオオンンンッッ!!!!」
マーナガルムの発した美しい遠吠えとともに、体を包み込んでいた漆黒のオーラも弾け飛んだ。
そのあまりにも美しい遠吠えを聞いた海乃は少しだけ緊張を緩めた。
「ほう、美しい遠吠えじゃないか。飼い主がそんなに恋しいのか?……ッ!?」
ーーその時だった。
突如海乃の真横に強大な力を持つ何者かが出現した。
その何者かは既に鋭い爪のついた腕を振り上げており、少しだが緊張を緩めてしまっていた海乃はこれに対処しきることができなかった。
「グルアアァァッッ!!」
豪腕と鋭い爪による攻撃をまともに受けた海乃は先程よりもさらに遠くへ吹き飛ばされてしまう。
体は何度も地面を跳ね、骨は軋み、真っ赤な鮮血が飛び散る。
地面に転がる海乃の体にはいくつかの傷が付いていたが、右肩には先程ついた左肩の傷よりも深い傷を負っていた。
「……な……んだ……今のはッ」
強烈な一撃を受けた海乃だったが、何とか意識を保っていた。
そんな海乃は驚愕の表情を浮かべていた。
なぜなら真横から海乃を攻撃してきたのは、真正面にいたマーナガルムそのものだったのだ。
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