覇道の神殺しーアルカディアー

東 将國

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第2章 神々の運命

第15話 神殺しの国

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「こ、ここが……」
「ああ、神殺しの国“イデトレア”だ」

 優香と神斗を包み込んでいた黄金の光が晴れるとそこは、小さな神殿のような場所だった。
 床には魔法陣が刻み込まれており、周囲には柱や彫刻、銅像などがある。

「ここは国の一番端に位置する場所で、このイデトレア唯一の出入り口、転移門だ。そして転移門のあるこの神殿を“カテレア神殿”と言うんだ」

 二人は歩き出し、神殿の出口についた。
 するとそこには一組の男女がいた。

「神斗様!お帰りなさいませ」
「おおお、王様!おお、お帰りなさいませ!」
「ああ、ただいま」

 神斗と優香を出迎えた二人のうち、男の方は背が高くスラッとしており、女の方は小柄な少女だった。両者とも腰には剣を携えていた。

「優香、二人はこの転移門の門番であるグラーフとデュリンだ」
「グラーフと言います。よろしくお願いします」
「デュ、デュリンですぅ!」
「私は岡本優香です。よろしくお願いします!」
「二人とも神殺しで、この門を守るのに適した力を持った実力者なんだ」

 この国の出入り口である転移門を守るということは、国へ不正に侵入しようとする者を相手にするということ。つまりそれは相当な手練れでなければ務まらないことを示していた。

「褒めても何も出てきませんよ。そんなことより、早く城へ戻った方が良いのでは?相当仕事が溜まっているそうで。なにより海乃様がお怒りでしたよ?」
「はぁー、やっぱり溜まってるか。ていうかなんで海乃が怒ってるんだ?」
「それは……まぁ城に戻ってみればわかるかと」
「そ、そうか。わかったすぐに戻ろう」

 グラーフはその見た目と言動からもわかる通り真面目なしっかり者だ。
 そんな彼が話をはぐらかしたことに神斗は嫌な予感がし、足早に城へと向かう事にした。

「ごめん優香。本当はちゃんと紹介したいとこなんだけど……」
「大丈夫だよ!それより急いだ方がいいんだよね?」
「ああ、じゃあ行こうか。グラーフ、デュリン、また後でな」
「はい」
「はは、はい!」

 優香と神斗は神殿の出口から外に出て行った。
 神斗と優香を見送った二人は小さな声で話しをしていた。

「終始ガチガチでしたね、デュリン?」
「だ、だって!急だったんだもん!」
「はぁ全く、そんなんじゃダメですよ?ライバルも増えてしまいましたしね」
「ううぅぅーー。ど、どうしよう……」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 神殿を出るとそこには幅の広い大きな道が真っ直ぐに伸びており、多くの人で賑わっていた。
 賑わいを見せる大きな道の周囲には雄大な街並みが広がっていた。

「すごい人の数だねー」
「この大通りは“天狼通り”と呼ばれていて、イデトレア一番の通りなんだ。その理由は街のちょうど真ん中を通っていて、なおかつある場所と転移門を真っ直ぐ繋げているからなんだ」
「ある場所?」
「ああ、あそこだ」

 神斗が指をさしたその先には小高い丘があり、その丘の上には巨大な城がそびえ立っていた。

「この神殺しの国、イデトレアを管理する場所、“フェルノーラ城”だ」
「お、大きい!お城ってことはもしかして神斗が住んでるのも……」
「そう、一応この国の王だからね。俺はあの城に住んでる。あそこはこの国の政治をする場所でもあり、この国の重要人物が住む場所でもあるんだ」

 優香は神斗から街や城について説明を受けながら多くの人が行き交う大通りを歩いて行く。すると、

「あ!国王様よ!」
「お仕事ご苦労様です!!」
「「「きゃあーー!神斗様ーー!」」」

 通りを歩く人々が神斗の存在に気付き、手を振ったり声をかけたりと大騒ぎになった。

「すす、すっごい人気なんだね」
「いやー有難いことだよ」

 神斗は民衆の声に丁寧に答えていった。
 そのままさらに進んでいくと、大きな広場に着いた。

「ここはイデトレアのちょうど中心に位置する広場、“カドモス広場”。ここでは何かの催し物をしたり、国民に向けての発表等をする場所なんだ」
「ここもすごい賑やかだね。そういえば、この国に住む人たちはみんな神殺しなの?」
「いや、神殺しじゃない普通の人間もいるよ。むしろそっちの方が多い。まぁその話は長くなるから、城についてからゆっくり詳しく話すよ」
「うん、わかった!」

 優香と神斗は広場を抜け、再び通りに出た。そこから少し歩くと橋のかかった大きな川に着いた。その橋の先からが丘となっており、目の前にはフェルノーラ城がそびえ立っていた。

「近くで見るとより大きいね」
「他の神話体系の城にも負けないぐらいだからね。このフェルノーラ城とカテレア神殿を挟むようにして街が広がっていて、それを二分割するようにして天狼通りがある。だからあの通りは常に多くの人で賑わっているよ。もっと街を紹介したいけどそれはまた今度という事で、城に入ろうか」
「う、うん!なんか……緊張してきた」

 優香と神斗は橋を渡り、丘を登っていった。
 入り口の大きな扉の前にたどり着くとそこには先程の門番と同じように、男が二人立っていた。

「あ!お疲れっす神斗様!」
「おい!アドルフ!王に向かってなんだその口の聞き方は!!失礼にもほどがあるぞ!王よ、申し訳ありません。後できつく叱っておきますのでお許しください」
「いいや、全然構わないさ。優香、この二人はフェルノーラ城を守る警備官のアドルフとシュバイトだ。カテレア神殿の二人の門番と同様、城を守るのに適した力を持った者たちだ」

 このように、神殺しは適材適所それぞれの持つ力によって役職が与えられていた。門や城を守る者は、攻撃をすることよりもその対象を守ることに特化しているのだ。

「あんな門を守る程度の奴らと一緒にしないでもらいたいっす!」
「こらっ!いい加減にしろアドルフ!お前はいつもいつもそうやって失礼な物言いをしよって!今日という今日は……」
「あー、放っておいて先に行こうか」
「う、うん」

 優香と神斗は警備官の二人を置いて先を急いだ。開かれた扉を通り少し歩くと階段があり、その上には人影があった。

「げっ!あいつらは……」
「「遅いぞ神斗!!」」

 階段の上で神斗を待ち受けていたのは、海乃と空実だった。
 海乃は戦いの時の着ていた鎧は脱いでおり、青を基調とし胸元の開いた服を着ていた。
 空実は白を基調としそのスラッとした体に合ったシンプルな服だった。

「一体その女と何をしていたんだ!!」
「へぇー、その子が……へぇー」
「な、なんだよ?なんで怒ってんだお前たち」
「ふんっ!お前にはわからんさ!」
「いいからさっさと大広間に来なさい!みんな待ってるから」

 そういうと海乃と空実はドスドスと歩いて行った。それを追うようにして優香と神斗も歩いていく。

「なんだよあいつら」
「さ、さぁ?どうしてだろうね。あはは」

 神斗は気づいていなかったが、女の感なのか優香は二人が何に対して怒っているのかなんとなく察したのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 城の二階に上がり、優香と神斗が歩いていった先には装飾の施された豪華な扉があった。

「さて、ここがこの城の大広間だ。舞踏会やパーティーなんかもやる場所だ。……いいか優香、今この部屋には普通な奴もいれば変な奴もいる。むしろ変なやつの方が多いくらいだ。だけど、なんだかんだ良い奴らなんだ。変なふうに絡んでくるかもしれないが、優しく相手してやってくれるか?」
「……本当に仲間に優しいんだね。うん!もちろんだよ!」
「ありがとう……じゃあ、開けるぞ」
「うん」

 神斗は扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。部屋の中は豪華な装飾が施され、絵画や像が飾られていた。
 真っ赤な絨毯が敷かれたその先には、九人の神殺しがいた。神斗は優香を連れ、その前に立つ。

「紹介しよう。この子は今回の任務にて遭遇した神殺し、岡本優香だ。この子とは去年から知り合っていたが、力の存在には気づかなかった。つまりは力に目覚めたばかりということになるが、彼女の力は俺と、海乃が保証する。そうだろう海乃?」
「ちっ、ああ保証するよ!その子は強大な力を持っている。必ずや我々神殺しの力となれる」
「と、いうことだ。さぁ優香、軽く挨拶を」
「お、岡本優香です!よ、よろしくお願いします!」

 優香は緊張していた。
 なぜなら目の前にいる者たち全員から異様な力を感じるからだ。年の近そうな者から年寄り、小さな子供までいたが、そのどれもが優香を圧倒するほどの力の波動を放っていた。

「わー、可愛いひとですねー」
「いいや、あたしの方が可愛いね!」
「エンジェはそう思わないなー」
「姉御の方が可愛いだ……ぐはッ!!」
「それ以上キモい事言うと殴るぞヘラクレス」
「な、殴る前に行って欲しいんですが……」

 一瞬だ。
 一瞬でその場の空気が崩れ去った。豪華な装飾が施され、気品ある空気が流れていたかと思いきや、ほんの一瞬でお祭り騒ぎになってしまった。
 ある者は意見し、ある者はその意見を否定し、ある者は殴り、ある者は殴られ、ここが国を運営する場所とは思えないほど騒がしくなった。

「え、え?!」
「あー、ごめん優香。こういう奴らなんだ。なんというか自己主張が強いというか、個性豊かというか……まぁ、もう少し待てばすぐに静かになるから、ちょっと待ってて」
「え?それってどういう……」

 その時だった。
 またもや一瞬で空気が変化した。先程までの騒がしさが一変、ピンと糸を張ったかのような緊張感が生まれたのだ。
 その原因は、九人の真ん中に立つ老人から発せられた純粋な迫力、いわゆる覇気だった。

「お主たち、我らが王の御前であるぞ。控えよ」

 老人が発した一言でさらに空気は重くなる。騒いでいた者は反省したのか黙って元の場所に背筋を伸ばして立った。それを確認した老人は発していた覇気を抑え、一歩前に出た。

「申し訳ありませんでした、王よ。場違いな言動をしたこの者らをどうかお許しください」
「構わん、いつものことだ。優香、今のでわかったかもしれないけど、この人は個性の塊のようなこいつらをまとめる者だ」
「そ、そうみたいだね」

  優香は老人の迫力と言動から理解した。あの海乃すらも黙らせるほどのとんでもない人物であることを。

「申し遅れました。私はマーゼラ・インベスター。この神殺しの国の元老院、元老総監を務めております。私にはわかりますよ。あなたからとてつもない力の波動を感じます。どうか我らが王と我々神殺しの力になって欲しいと思います。どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」

 マーゼラと名乗った老人は先程までの迫力が嘘かのように優しく優香に語りかけた。それによって優香も少しだけ緊張感を緩めることができた。

「この人は古くからこのイデトレアを支え続けている人だ。とんでもない実力を持っていてな、正直俺も頭が上がらない程だ。普段は優しい人だから、わからないことがあったらこの人に聞くってのが俺たち神殺しの定石になっている」
「ハッハッハ!王に褒められるとは、嬉しい限りですな!」
「おいおい、わざと王って呼び方するのやめてくれるか?あと敬語も。公式の場じゃないんだからいつも通りで頼む」
「そうか?たまには良いと思うのだがなー神斗よ!ガッハッハッハッ!!」

 マーゼラは騒がしかった空気を張り詰めさせた者とは思えないほど豪快に笑った。

「さっき会った門番や警備官たちと違って、こいつら近しい者たちは王である俺に全く遠慮がない。場によってはしっかりするんだが、普段はこんな感じだ。だからあまり緊張しなくて良いからな」
「そう。こいつらは馬鹿だが、案外良い奴だったりする。だから君も遠慮することはないからな。なにか悪いことをされた時はこの俺に言え!とっちめてやるからよ!ガッハッハ!」
「……ッ!あ、ありがとうございます!!」

 優香はこの神殺しの国に入ってからずっと緊張していたが、神斗とマーゼラの言葉を聞き、それを緩め安心することができた。

「さて、じゃあ他の者にも自己紹介してもらおうか。こんな奴らだけど、せめて名前だけでも覚えてやってくれ」
「うん!もちろんだよ!」

 中心にいたマーゼラの両脇にいた者から順に自己紹介が始まった。

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