覇道の神殺しーアルカディアー

東 将國

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第2章 神々の運命

第19話 決闘

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 政務総長と新人の異例の決闘、それが行われる場所は街の中心カドモス広場の近くにあるミラッド競技場で行われることとなった。競技場には決闘の噂を聞きつけたイデトレアの国民達が押し寄せ、決闘を観戦しようとしていた。

「ワァーオ!たくさん人が集まってますネ!」
「一体どこから聞きつけたんだかなー」
「仕方ありませんよ。神は娯楽を好む。神の力を持つ我々神殺しも例外なく娯楽が好きですからね」

 そこには国民だけでなく、国の幹部達までもが特別席に姿を現していた。もちろんこの決闘を許可した者であり、国の王である神斗も。

「くそっ、マーゼラの仕業だな!?観客を呼び込んだのは!」
「おそらくそうだろうな。あのジジイは無類の娯楽好き、特に決闘は大好物だ。ほれ、すでに審判員としてフィールドにいる。特等席から決闘を見ようとしているのバレバレだ」
「おうさま、いいのですか?」
「優香、まだ疲労が残ってると思うぞ?」

 エンジェとクロームが優香の心配をするのも無理はなかった。優香がここにきて五日ほど経ち、すでに怪我も力も回復していた。
 しかし二人が心配していたのは精神の方だった。優香は子ども達と親友を失い、悪夢にうなされるほどショックを受けていた。心配のあまり一緒に寝た二人はそんな優香の精神状態を危惧していたのだ。

「こうなっては仕方がない。優香を信じよう」

 神斗もエンジェとクロームが危惧していることに気がついていた。しかし神斗は決闘を止めることができなかった。
 あの時、執務室で空実が優香に引導を渡した時、優香の覚悟と想いを聞いてしまったから。確固たる覚悟と自分への強い想いを無下にしたくなかったのだ。

「それに、優香は強い。力だけでなく、その心もな」
「ああ、この私と戦えるほどだからな。さらに言えば相手は幹部といえど頭にしか自信のない貧乳娘だ。決して勝てない相手ではない」
「あ、姉御、それ空実さんが聞いたら起こりますぜ?……っと始まるみてぇだな!!」

 競技場はすでに賑やかだったが、一気に歓声が上がった。それは優香と空実がフィールドに姿を現したからだった。
 二人はゆっくりと歩き、フィールドの中央で相対した。その間には審判員としてマーゼラが立った。

「それではこれより、黒沢空実と岡本優香による決闘を行う!!」

 マーゼラによる決闘開催の宣言。そのたった一言により観客は興奮の声をさらに大きくした。

「この決闘は黒沢空実から岡本優香への申し出によるものであり、これは我らが王、王谷神斗様が許可した正式な決闘である。ゆえに公正な判断をする審判員はこの儂、元老総監マーゼラが行う!」
「正式な決闘は公正な判断が必要なため、元老院の者を審判員としなければならない。この法を作ったのも元老院だよな?」
「確かそうだぜ。というよりマーゼラの爺さんが決闘の審判やりたいがために作られたようなもんだな」
「一応の理由はありましたよ。やらせや八百長を防ぐためとか」
「オーゥ、建前と言うやつデスネ!」

 幹部達からは厳しい目で見られるマーゼラだったが、それでもマーゼラは年甲斐もなく嬉しそうに審判を行なっていた。

「この決闘の目的は、新人である岡本優香の力量を測ることにある。つまりこの決闘は私利私欲なものでなく、このイデトレアの未来にもつながる重要な決闘である」

 空実はもちろん優香の実力を見るために決闘を申し込んだのだが、その裏には神斗への想いの強さを測ることもあった。むしろそちらの理由の方が大事だった。優香が一列目に座る、それが空実にとって強い嫉妬心となったのだ。
 優香も実力を認めてもらうために決闘を受けたとしているが、自らの覚悟と神斗への想いの強さを証明するのが本命なのだ。優香はこの時点でなんとなく空実の神斗に対する想いに気がついていた。だからこそ引き下がるわけにはいかなかったのだ。

「なお、今回の決闘では両者の経験に歴然とした差がある。そのため通常ではどちらかの戦闘不能、若しくは敗北宣言でのみ勝敗が決するが、今回はこの私の独断によって決闘を終了させられるという特例を加える。異論のある者はいるか!?」

 そのマーゼラの問いかけに対し、観客は歓声を止めることなく答えた。それは一切の異論がないと言わんばかりの熱い歓声だった。

「よし、では決闘を開始する。両者、準備は良いか?」
「大丈夫です!」
「私もいいわよ。というか、ハンデはいらないの?流石に差がありすぎると思うのだけれど」

 それもそのはず、優香はまだ力に目覚めたばかり、対して空実はとっくに力に目覚めており、国の幹部としての経験がある。あきらかな差があるのは当然だった。

「ハンデなんていりません。私は、真っ正面からあなたを倒す。そうしてこそ、私の実力と覚悟、神斗への想いを証明できるから」
「……ふふ、無粋だったようね。いいわ!真っ向勝負よ!!」
「うむうむ、よいぞ、よいぞぉぉ!!美しくも可憐な女同士の暑き戦い!素晴らしい!!ガッハッハッハッ!!!」
「何を興奮してんのよマーゼラ!さっさと始めなさい!」
「おおっと、この儂としたことが、つい熱くなってしまったわ。気を取り直して……では」

 マーゼラが片手を頭上に上げた。それを合図に観客は先程までの騒ぎようが嘘のように静まり返った。そして優香と空実も静かに構えをとった。

「決闘ッ、開始ぃぃぃいいッ!!!!!!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 決闘開始の合図と同時に動き出したのは優香だった。その身に風を纏い、空実の下まで飛んでいく。

「はぁっ!」

 途中風を手に集め塊にしたものを空実に向け投げ放った。しかし空実は飛んでくる風の塊を素早い身のこなしで躱していく。
 優香は再び風の塊を作り出し、次は投げずに空実に直接ぶつけようと一気に距離を詰めた。

「ほっと」

 しかし空実はまたもや躱し、優香に詰められた分後ろに飛んで距離を取った。
 攻撃をことごとく簡単に躱された優香は、間髪入れず両手に白く輝く魔法陣を展開した。

「はぁぁぁああ!!」

 優香は両手に光の槍を生み出し、左手の槍を空実に向けて投げ優香自身も空実に向けて走り出した。
 しかし空実は難なく光の槍を躱し、走ってくる優香を迎え撃つ。

「さぁ、来なさい!!」

 空実の下に辿り着いた優香が右手に持つ槍を振り上げたその時、優香の姿が消えた。

「ッ!!転移……魔法!!」
「くらえ!!」

 優香は転移魔法によって空実の背後を取っていた。そのまま空実に向けて光の槍を振り下ろす。

「くッ!」

 しかし優香の攻撃は空実に当たらず空を切ってしまった。空実は優香の攻撃をすんでで躱していたのだ。その身には風を纏っていた。

「風!?もしかして、空実さんの力って風を操る力?」
「ふふ、さぁどうでしょうね?私をもっと追い込めばわかるんじゃないかしら?」

 風を起こすことによる緊急回避、それだけで風を操る力と断定することはできない。優香自身も魔法という形でだが風を操ることができるからだ。
 優香が空実の力について考察していると、空実は一歩一歩近づいて来た。

「甘く見ていたわ。力に目覚めたばかりだから手加減してこちらから攻撃しないって決めてたけど、どうもそんなこと言ってられないみたいね。今度は、こっちから行くわよ!」

 空実は手に風を纏わせ飛び出した。体にも風を纏わせ、さらに後方に風を放つことで優香までの距離を一瞬で詰めた。
 優香はなんとか反応し空実の風を纏った拳を光の槍で受け止めることができた。しかし風の推進力を得た空実の攻撃を受け止め続けることができず、光の槍ごと弾き飛ばされてしまう。

「くはっ!うぅぅ……」

 優香は競技場の壁に叩きつけられた。優香はなんとか立ち上がったが、空実との力の差に衝撃を受けた。風を利用していたとはいえ、ただの拳に光の槍が押し負けたのだ。純粋な力の強さ、使い方、相手の隙の突き方、どれを取っても優香を凌駕していた。

「くっ、じゃあ、これならどう?」

 しかし優香は諦めない。右足を大きく一歩、力強く踏み出した。するとその地面に白く輝く魔法陣が描かれた。その瞬間地面に亀裂が走っていく。さらに地面に衝撃が起こり、亀裂を辿るようにして地面が崩壊していった。
 優香は手を正面に突き出し、再び魔法陣を展開した。そこから先ほどの風よりも強い暴風が発生し、地面の崩壊によって出来た瓦礫を巻き込みながら空実に向かっていった。

「へぇ、面白いこと考えたわね……でも」

 空実は風を纏い上空へ跳躍した。一瞬で上空へ飛んだことによって、瓦礫を巻き込んだ暴風を軽く躱してしまった。空実に当たらなかった暴風はそのまま競技場の壁にぶつかり、瓦礫を粉々に粉砕した。

「あなたの攻撃は確かに強力なものだけど、それゆえに無駄が多い。簡単に躱せるわ」

 そう、優香の攻撃は威力こそ高いものの、単調なものだったのだ。しかし優香もそれには気づいていた。だからこそ、あえて今のような派手な攻撃を放ったのだ。次の準備をするために。

「もっと工夫をしないと……へッ!?」

 空実は気づいた。優香の手元に白く輝く大きな魔法陣があることに。優香は空中にいる空実に目標を定め、それを放った。

「輝きは陰を落とすーー“魔導の光槍”リース・エトスピー!!!」

 優香の手元の魔法陣が一層輝きを増した。瞬間、巨大な光の槍が無数に出現し空実に向かって放たれた。その光の槍の群れはあまりにも眩しく、競技場全体を照らすほどだった。

「こ、これは……!?」

 カッッドゴオオォォォォォォォオオンンッッ!!!!!

 無数の光の槍は目標を外すことなく、空実に直撃した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あれは!魔女の子供が私に放ったものと同じ技だ!」
「そうか……やはり使えるんだな、お互い」

 優香の放った無数の光の槍、それは水鳥院での戦いの際に恵美が海乃に放ち、海乃が瓦礫の下に閉じ込められる結果となった技だった。転移魔法と同様、優香は恵美の使った技や魔法を使用できた。それもそのはず、恵美の力は優香の力である魔導王の力のコピーだ。オリジナルである優香が恵美の使用できる技を使えるのは至極当然だった。

「力に目覚めたばかりとは思えねぇな。流石と言ったところかねー」
「オーゥ!空実さん大丈夫ですかネー?」

 シャルルが心配するのも無理はなかった。競技場全体を照らすほど濃密で巨大な光の槍、それを数え切れないほど放たれ直撃したのだ。いくら強大な力を持つ神殺しといえど、“常人”ではタダでは済まない。

「確かにあの新人、強いな。今すぐ軍に入っても問題ないぐらいだ。しかし……」
「ああ、ヘラクレスの言う通りだ。いくらあの頭の良さにしか取り柄のない貧乳娘といえど、“あの程度”では効かん」

 優香の相手である空実は常人とは言えない。その若さで神殺しの国の幹部にまで登りつめた天才だ。王である神斗や軍務のトップである海乃には及ばないが、幹部となった空実は相当な戦闘力を持っていた。腕っ節でなく頭を使う役職だろうと、新人に戦闘で負けることなどありえないのだ。

「空実はただ風を操る力などではない。空を、天候を操る力。その力ゆえに、“空の舞姫”と呼ばれる空実の持つ力とは……」

 競技場を照らしていた光がだんだんと止み、空が見えてきた。しかしそこにはまだ一つの光が存在していた。それは優香の放った光の槍ではなく、空に浮かび、背に純白の翼を生やした空実の姿だった。

「空を司り、神の総意の意味を持つキリスト教の天使、サハクィエル!!!」
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