覇道の神殺しーアルカディアー

東 将國

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第2章 神々の運命

第20話 空の舞姫

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「え!?つ、翼!?」

 優香は目の前の光景に驚いていた。先程まで存在していなかった翼が空実の背に現れていたからだ。その姿はまさに天使そのものだった。

「驚かせちゃったかな?この翼は私の力で顕現させたものよ」
「じゃあ、空実さんの持つ力って……」
「ええ、その通り。私の力は空を支配する天使、サハクィエル!」

 天使サハクィエル
 それはキリスト教の空を司る天使。四十九万六千の天使を率いて第四天を治めていた天使で、神の総意という意味を持つ。文献にはあまり残されていない天使だが、確かな実力と影響力を持った天使だった。

「で、でも空実さんは神殺しですよね?なのに持っている力は天使なんですか?」

 優香は疑問に思っていた。神殺しとは神の力を持った人間のこと。空実も神殺しのはずだが、その力は神ではない天使だという。確かに人間からしたら天使も強大な力を持った存在ではあるが、天使はあくまで神の使いである。

「ええそうよ。私の持つ力は天使の力だけど、私はれっきとした神殺しよ。神殺しとは神の力を持った人間という意味だけじゃない。神を殺すことのできる超常の力を持つ存在も神殺しと言うのよ。英雄の力を持つ転生者達のようにね」

 神殺しと言う意味には、神の力を簒奪した者、神の力を持つ者、神を殺すことのできる者という意味がある。つまりどんな力を持っていようとも、神殺しの意味に沿った人間であれば神殺しなのだ。
 そのためヘラクレスをはじめとした転生者達も、その超常の力ゆえに神殺しという枠組みをされている。それは天使という超常の存在の力を持った空実も例外ではない。

「なるほど、持っている力が天使でも、その超常の力を持つ空実さん自身は神殺しってことか……」
「ふふ、驚いたかしら?……でも、天使の力だからって甘く見ないでよ!?」

 その瞬間、空が一変した。先程まで快晴だった空に分厚い雲が発生し、今にも雨が降り出しそうな天気になったのだ。穏やかに流れていた風も激しくなり、明らかに自然現象ではない。

「天気が、急変した!?これが空実さんの力……」
「私にここまで力を出させたこと、褒めてあげる。さて、ここからが本番よ!」

 純白の翼をはためかせ、空実はさらに上空へと飛んで行く。すると雲から雨が降り出し、すぐに激しくなった。風の強さもあってそれは暴風雨となって競技場を襲う。
 優香は飛ばされないようにバランスを取っていたが、上空の様子に唖然とした。空実を中心に厚い雲が渦を巻いていたのだ。それは天気予報でよく見る台風そのものだった。

「なに……これ?!」
「空を支配した大天使の力、その身をもって味わうといいわ。神斗の隣に立つのに相応しいのは、あなたでもあの肉女でもない!この私よ!!」

 空実を中心とした空の渦は勢いを増していき、やがて巨大な竜巻となった。巨大な竜巻はゆっくりと地上に向けて進んでいく。

「大いなる天に、逆らうことなかれーー“轟風の翼”テンペスタ!!!」

 巨大な竜巻は優香のいる競技場を襲った。頑丈な競技場だったが、空実の攻撃の前にその地面は破壊され、壁は崩壊した。結果砂塵が舞って視界が悪くなる。
 周囲の観客席にいた観客達は誰かの力なのか、防御壁のような者で守られているようだった。しかし競技場にいた優香は空実の攻撃をまともに受ける形となってしまった。
 競技場を襲った巨大な竜巻はやがて勢力を弱めた。空実は上空から競技場の上まで降りてきて競技場の様子を伺った。

「ちょっとやりすぎちゃったかしら?流石にあの攻撃をまともに受けて立っていられるとは思えないけど……えっ!?う、嘘でしょ?」

 空実は我が目を疑った。舞っていた砂煙が晴れていき競技場内が視認できるようになったのだが、そこには両手を上空に向けて伸ばし、大きな魔法陣を展開した優香が立っていた。

「ど、どうやって!?まさか……防御魔法?そんなもので防げるわけが……」
「私は……負けられない!!」

 優香はどうしても負けられなかった。自らの力を証明し、覚悟と神斗への想いを見せつける。神斗の隣に相応しいのは自分だと豪語した空実に負けるわけにはいかなかった。その強い想いが優香の力を解放した。
 防御魔法を発動した優香は、空実の竜巻を防ぎきったのだ。そんな優香の両目には、白く輝く不思議な文字が浮かんでいた。

「それが、魔導王の力ってことね」
「私だって、神斗の隣にいたいんだ!!」

 優香は足元に魔法陣を展開した。そこから炎が生み出され、空に浮かぶ空実に向けて放たれた。さらに優香は空に伸ばした手に再び魔法陣を展開し、風を生み出した。すると放たれた炎は風によって勢いを増し、炎の渦となった。

「くっ!これしきで!」

 地上から放たれた炎の渦に対して、空実は空から降っていた雨を操り、その手に集めて大きな水の塊を作り出した。やがて優香の放った炎の渦と空実の生み出した水の塊が衝突した。炎の渦は風によって勢いを増していたが、水の塊はなんとか炎の渦を受け止めることができた。
 その瞬間大量の水蒸気が発生し、再び視界が悪くなる。

「まだこんな力があったなんてね。これ以上は気を抜けないわね」

 空実は地上に意識を集中させた。
 しかしその背後にはすでに、光の槍を持った優香がいた。

「なっ!?また……転移ッ!!」
「はぁぁぁああ!!」
「ぐッ!!」

 空実は背後の優香に気がついたが、すでに遅かった。優香の振るった光の槍をまともに受け、地上に向けて吹き飛ばされてしまった。

「くふッ、ま、まさか……この私を地上に落とすなんて」

 空実は地上に叩きつけられたが、たいした怪我はしていないようだった。しかしそれでも空実は一層警戒した。自らの独壇場である上空から突き落とされたのだ。これ以上ない屈辱だった。

「私は、負けない。もう二度と、あんな思いをしないために!神斗への想いだって、誰にも負けたくない!」
「ふふっ、これはもう、認めざるを得ないわね……でも」

 風に乗って降りてきた優香は両手に持った槍に風を纏わせていた。空実のどんな攻撃にも反応できるよう常に臨戦態勢をとっていた。優香も空実と同様、一切の油断をしないように。
 対する空実は大きく翼を広げ、力を増幅し輝くオーラを身に纏う。

「私だって負けられないわよ。私はこの国の政治を背負った者、そして王の隣に立つ者だ!」

 刹那、空から轟音が鳴り響いた。それと同時に周囲が光に包まれ、優香に強烈な衝撃が降りかかった。それは空から落とされた雷だった。
 優香はなんとか防御魔法で防いだが、その一撃はあまりにも重く、受け止めるのが精一杯だった。そんな優香に空実はさらなる追い討ちをかけた。

「はぁっ!!」
「くっ……うわっ!」

 翼をはためかせ高速で近づいてきた空実が水の波動を放った。優香はそれを槍で防げたが、その後の怒涛の攻撃に防戦一方となる。
 高速で飛翔しながら放たれる水や風、雷の攻撃に対し、優香は槍や防御魔法、転移魔法を用いて防いだり躱したりしていた。
 競技場全体で発生した二人の攻撃のぶつかり合い、弾け合いに観客は魅了され、さらなる歓声が湧いた。

「「はぁぁぁああ!!!」」

 優香の炎と風で生み出された炎の渦と、空実の水と風で生み出された水の渦が空中で衝突した。それはどちらも強力な技で、お互いをお互いが打ち消し合う。
 二人は思いのほか長い戦いとなり、体力がなくなってきていた。その時、お互いが強力な技を放ったことによって一瞬の静寂が生まれた。

「はぁ、はぁ、くっ」
「はぁ、はぁ、ふふっ」

 一瞬の静寂、先に動いたのは空実だった。
 空実は上空へ飛翔し、手と翼を大きく広げた。すると再び雨が降り出し、すぐに豪雨となる。しかしそれは先程までとは全く違うものに変貌する。

「な、なにこれ?きゅ、急に、寒く……」

 その時起こっていたのは、急激な気温の低下だった。
 先程までは過ごしやすい暖かい気温だったが、一瞬にして凍えるほどの寒さとなっていた。それを裏付けるように空から降る雨が雪に変化していた。

「……まだよ」

 空実はさらに強い風を起こし、猛吹雪を発生させた。気温はすでに零下まで下がり、競技場の地面は雨によって濡れていたため凍り始めていた。
 範囲はこの競技場だったが、それでも天候を一瞬にして真逆に変えた空実の力に優香は驚愕したと共に、あまりの寒さに動けないでいた。しかし、

「ぐうぅぅ、なんて強大な力……でも、それでも私は!!」

 確固たる覚悟と強い想いに突き動かされた優香は輝く文字を浮かべた目を見開き、震えながらも立ち上がった。目の前の異常な光景と強大な力に正面から挑んだ。
 両手を広げ、空に向かって伸ばす。するとそれぞれの手に魔法陣が展開し、炎と雷を生み出した。しかしそれだけでは終わらなかった。二つの魔法陣が重なり合い、融合し、一つの新たな魔法陣となった。それと同時に炎と雷も打ち消し合うことなく混ざり合う。それはやがて大きな球状となった。

「これが最後よ、さぁ証明してみなさい!あなたの覚悟と想いの強さを!!この私、“空の舞姫”があなたの全てを見定める!」
「証明してみせる。絶対に失わないと決めた、この覚悟と想いを!!」

 競技場は巨大な雷炎と猛烈な吹雪によって大きく揺れ、激しく震えた。

「免れぬ洗礼、神は冷徹なりーー“絶対零度”アブソルータ・ヌラ!!!」
「荒ぶる魂よ、虎となれーー“燃える雷鳴”ロイギ・オスカ!!!」

 空からは雪と氷でできた巨大な波動が地上に襲いかかり、地上からは炎と雷でできた巨大な爆撃が空に放たれた。
 そんな二つの強大な一撃は、競技場の上で衝突した……かに見えた。
 二つの攻撃は一瞬のうちに跡形もなく霧散した。雷炎と吹雪は一切の衝撃なく消え去り、空と気温も元に戻っていた。

「そこまでッッ!!!」

 地上に立つ優香と空に浮かぶ空実、その間に何者かが現れた。

「この決闘、審判員の儂の独断によって、ここまでとする!」
「え?」
「へ?」

 それはこの決闘の審判員であるマーゼラだった。二人の間に割って入り、決闘を終了させたのだ。
 優香と空実、二人は心底驚いていた。二人の今の一撃は間違いなく本気の一撃。正直、相手のことや周りのことなど全く気にしておらず、自分の思いを本気でぶつけようとしていた。
 そんな強力無比な二人の一撃を、マーゼラはいとも簡単に打ち消したのだ。

「二人の気持ちはよくわかる。だが、今回の決闘はあくまで新人である岡本優香の実力を試すことである。幹部である空実と渡り合った時点で、十分であっただろう」
「そ、そうだけど……」

 そう、この決闘は優香の力を試すことが目的で行われたものだ。二人は自分の思いを相手に証明することしか頭になかったため、決闘の趣旨を忘れていた。

「それに今の攻撃、明らかに度が過ぎておった。いくら頑丈な競技場と観客を守る壁があるからといって、あの攻撃がぶつかればどうなるかなど、わかっておるだろう?」
「は、はい……」
「そんな攻撃を一瞬で消したあなた、一体どうなってんのよ……」

 マーゼラが決闘を止めたのは、優香の力の証明が十分であることだけでなく、安全性を考慮したからだった。

「それともなにか?神聖なる決闘に邪な気持ちを持ち出しているのか?この決闘はあくまで岡本優香の実力を測るもの、そうだろう?」
「「うっ」」

 マーゼラはニヤつきながら二人に問いかけた。
 この二人が決闘で神斗への想いの強さを競っていたのはマーゼラも知っていた。しかし盛り上がっていた決闘開始前ならいざ知らず、観客が競技場に注目している今、そのことを言うのはあまりにも恥ずかしかった。
 決闘の本筋である優香の力の証明はすでに済んでいた。この状況では、二人はマーゼラの言うことを聞くしかなかった。

「二人とも文句はないな?……では、決闘はこれにて終了!!見事な戦いを見せてくれた二人に、盛大な拍手を!!」

「「「ワアァァァーーーー!!!」」」
 パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!

 こうして優香と空実の決闘は幕を閉じた。
 二人は途中で水を差され、やるせない気持ちだったが、どこか満足した気持ちも持っていた。
 優香と空実は自然と近づき、お互い認め、称え合う握手を交わした。
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