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第2章 神々の運命
第24話 戦闘訓練
しおりを挟むその日、優香は再び空実と決闘をしたミラッド競技場へ来ていた。しかし決闘とは違い観客はおらず、そこにいるのは空実ではない別の人物だった。
「ほらほら、そんなものかお前の力は?」
「くっ!」
競技場には強風が吹き荒れ、優香は光の槍を持ってフィールド内を走り回っていた。優香の先にいるのは三又の槍を持った海乃だった。
優香は槍を投げつけたり、風の推進力を利用して近接攻撃を放っていた。しかし海乃はその攻撃をことごとく避けていた。手には三又の槍トリアイナを握っていたが、それを使うそぶりは無かった。
なぜ二人が戦っているかというと、所謂戦闘訓練をするためだった。優香はロキの襲撃を受け、戦いにもっと慣れなければならないと思い、軍務総長である海乃に戦闘の手ほどきをしてもらうこととなったのだ。
「ふむ、まだ力の加減がうまくできていないようだな。神威が乱れている」
「そ、そういえば、その神威ってどういうものなんですか?」
「そうか、まだ知らなかったか。ならば神殺しの力から説明したほうが良いな」
手に持つ槍を肩に当て、海乃は優香へ説明を始めた。
「まず神殺しとは、神や英雄といった強大な力を持つ人間だということは知っているな?」
「はい、私や海乃さんのように神の力を持ってる人、それ以外にもヘラクレスさんや空実さんのように神ではないけど強大な力を持つ人も神殺しなんですよね?神殺しには、神を殺せるほどの力を持つ者という意味もあるから」
「そうだ。ではそんな神殺しの力の源とは何なのかだが、それこそが神威というものだ」
神斗の炎や優香の風、光の槍などの強大な力を発揮するには、神威という特殊な力が源となっている。
それは重いものを持つ際に腕の筋力を必要とするのと同じことを意味する。超常の力を使うにも相応の力が必要なのだ。
「神威とは自然の中にあると言われるエーテルを体内に取り込み、増幅させることで得られる。エーテルというのは、第五元素とか、大気の上層とか、輝き続けるものとか色々な意味があるんだが、まぁそれに関しては……空実にでも聞いてくれ。私にはよくわからん」
「な、なるほど。力を使うのに必要なものってことですね」
なんとか優香に説明しようと頭を悩ませた海乃だったが、自分自身よくわかっていないようだった。
海乃は気を取り直して別の説明へ移った。
「神威によって力を発揮させるのはなにも我々神殺しだけではない。神々を始めとした超常の存在もまた、神威によって力を発揮させるんだ。しかし神殺しと超常の存在とでは力の発揮に関して少し違う点があるんだ」
「あ、もしかして人間界では本来の力が発揮できないってやつですか?」
「ほう、知っていたか。そういえばロキと対峙したんだったな。その時にカレンにでも聞いたのか?」
「はい、人間界に居られる時間には制限があるとか、人間界だと力が落ちるとか」
優香がロキと戦った際、カレンが言っていたことだ。実際にロキも何故か人間界を理由に短期決戦で戦おうとしていた。
「エーテルは神界にも人間界にも存在する。しかし超常の存在は人間界でエーテルを取り込むことができない。その理由は人間界のエーテルは穢れているからとか言われているが、純粋に取り込むことができないだけらしい。対して神殺しは人間界でも何の問題もなくエーテルを取り込める。これに関しては明確な理由がわかっていないが、おそらく神殺しには人間の側面があるからだとされている」
超常の存在は人間界のエーテルを取り込むことができない。これには何かしらの理由があるからというわけではなく、単純に不可能ということだった。
それに対して神殺しは、神界でも人間界でもエーテルを取り込み、神威を生成することができるのだ。
「つまりだ、人間界であれば我々神殺しに敵はいないことになる。神々は力を発揮しても神威を再び生成し直すことができないからな。先日のロキ襲撃のように、本来の力を発揮できない短期決戦となる。そのため神々は人間界に現れることはそうそう無い」
「そっか、北欧神話側が動くかもしれないとわかってても、まさか人間界で神に襲われるなんて思いもしないですもんね」
神にとって人間界で戦うのは不利である。神斗達はこの鉄則がある限り人間界では何もしてこないだろうと思っていたが、先日のロキ襲撃は逆にそこを突かれてしまった。
しかしながら、神であれば普通そんな危険な真似はしない。鉄則を無視した強襲は、悪戯の神であるロキならではのやり方だった。
「だからといって油断はできん。超常の存在の中には、長い間戦えず本来の力が発揮できなくとも十分強い者もいるからな……と、神殺しの力についての説明だったな、話を戻そう」
「あ、はい。お願いします」
「エーテルは基本自動的に体内に取り込まれる。体内に取り込まれたエーテルは、力を使おうとした時に神威へと変換されるんだ。その辺は深く考える必要は無い。問題は力を使う際、いかに効率よく神威を制御できるかだ。いくら発動が簡単な力といえど、神威が制御できていなければしっかりとした効力を発揮しない。まず発動すらできない場合もある。必要以上に神威を込めれば無駄に体力を消費するしな」
力を発揮するには神威の制御は初歩的なことであり、とても重要なものなのだ。
「神威の効率的な制御か……私はそれが上手くできてないんですね?」
「まぁ、力に目覚めたばかりだから仕方ないさ。神威を上手く制御するには実際にやって経験を積むのが一番だ。しかしその方法を知らなければ余りにも時間がかかってしまう。今から神威の制御の仕方を教えよう」
海乃は槍を地面に突き刺し、両手を広げた。
「まず力の規模によって必要な神威の量は大体決まっている。込めれば込めるほど良いわけではなく、込める神威の量は必要な分だけあればいい」
海乃の両手からは水が生み出され、水の球体が出来上がった。
「この水の球体を作るのにも一定量の神威を必要とする。もちろん込める神威の量が少なければ生み出すことができない。そして込めた神威の量が多すぎると……」
その瞬間、海乃の生み出した水の球体が破裂してしまった。
「このように上手く生み出すことができない。今のような簡単なものなら問題ないが、強力な力を発揮する際には必要な神威の量は多くなる。もしそのとき過度に神威を込めすぎると、暴発したり制御できなくなる可能性がある。神威は使用する力のレベルに合わせて込めなければならないんだ」
「なるほど、今までの攻撃は神威が制御されておらず、中途半端なものだったんですね」
「そうだ。十分な威力を発揮していなかったり、逆に力任せになっている節がある。一つ一つの攻撃に込める神威の量を考えなければならない。それに慣れていけば、より上手く力を発揮できるようになるぞ」
簡単なものでも強力なものでも、いちいち神威の量を調節しなければならない。強大な力だからこそ、慎重な制御が必要となるのだ。
「一通りのことは教えた、次は実践だ。力の使い方も戦いに関しても、説明をだらだらと聞くよりも体で覚えたほうがいいからな。今教えたことを試してみろ」
「は、はい!」
優香と海乃は戦闘訓練を再開した。
すると優香の攻撃は説明を受ける前よりも鋭さが増し、威力も上がっているようだった。
「少し力の使い方を知っただけでこんなにも変わるとはな。やはり優香、お前は飲み込みが早いようだ」
「ありがとうございます!!」
先程まで優香の攻撃は避けられてばかりだったが、今は海乃がトリアイナで直接防ぐようになっていた。
その後も優香は攻撃の手を緩めることなく、海乃を少しずつ追い詰めていく。
「ふふ、しかし攻めすぎると防御が手薄になってしまうぞ?こんな風にな!」
「え?……ッ!!」
光の槍や風を駆使した攻撃を放っていた優香は、海乃からの突然の反撃に遭い吹き飛ばされてしまう。海乃は風によって高速で移動していた優香を肉眼で捉え、トリアイナで弾いたのだ。
「力の使い方を知っても戦いに関してはまだまだ素人だな」
「うっ……まだまだッ!」
「ほう?すんでで風を凝縮させて防ぐとは、なかなか上手い力の使い方だ!」
「はぁ、はぁ……風を操るのは、だいぶ慣れたので……」
海乃の反撃に対して、優香は風を操って防いでいた。しかしそれでも海乃の攻撃には耐えきれなかった。
優香は体勢を立て直し、再び光の槍と風を生み出して海乃と対峙する。
「今日はここまで……と言おうと思ったが、どうやらそちらはその気は無いようだな?」
「ええ、まだやれます!」
「ふふ、ふふふっ!素晴らしいぞ!そのようなやる気に満ちた目と覚悟を見せつけられては、私もそれに答えねばな!おお、滾ってきたぞ!!」
「あ……これ、ヤバイかも……」
海乃からは並々ならぬ闘気が溢れ出していた。優香に感化された海乃はトリアイナを振り回しながらゆっくりと歩き出した。その顔に異質な笑顔を浮かばせながら。
海乃とこうして何度か手合わせをしていた優香は知っていた。白神海乃という女は狂ったほどの戦闘好き、つまりは……戦闘狂であると。
「行くぞ優香ぁ!!!もっと私を……楽しませてくれぇ!!!!」
「ひぃーー!!」
その後優香はしばらくの間、槍を振り回し暴れる海乃に追いかけられる羽目となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「いやーすまんすまん!つい熱くなってしまった!」
小一時間ほど暴れる海乃に追いかけられた優香は疲れ果て、ぐったりと地面に座り込んでいた。
それを海乃は槍を肩にトントンと当てながら見下ろしていた。その息は優香と違い、全く乱れていなかった。
「いやしかし、目覚ましい進歩だ。軍の部隊長クラスには並んだかな」
「あ、ありがとうございます。たぶん教官が良いからですよ」
「そ、そうか?ふふ、いくら褒めても……手加減はしないぞ?」
「ですよね……」
褒められた海乃は嬉しそうにその大きさを強調するかのように胸を張った。
それでも海乃は手を緩めるつもりはないらしく、思惑が外れた優香は残念がった。
「さて、流石にもう戻らねばな。あまり遅くなると神斗に怒られてしまう。ま、私は怒られても構わんが」
「ええー、ちゃんと王様の言うことは聞きましょうよ」
「私にとって神斗に怒られるのは褒美なんだが……まぁいい。腹も減ったし戻るか」
海乃は優香に手を差し伸べ、優香はその手に掴まり立ち上がった。海乃は美しい黒髪をなびかせながら競技場の外へと向かう。優香はボロボロの体を引きずるようにその後を追った。
すると海乃が急にその足を止め、優香の方へと振り返る。
「言い忘れていたんだが、今後私のことは呼び捨てで構わん。敬称をつけられるのはどうも好かんのでな」
「えっ、良いんですか?」
「ああ。この国に私のことを、さん付けで呼ぶものはおらん。大体は呼び捨て、部下は役職名で呼ばせている」
「わ、わかりました。じゃあ、海乃で」
優香は海乃のことを初めて呼び捨てた。それは小っ恥ずかしくも仲が縮まったことを示しており、優香は嬉しい気持ちになった。
「それと敬語も同様だ。下の者には徹底させているが、お前に敬語を使われるのは落ち着かんからな」
「け、敬語も!?」
「私とお前は、最初は敵同士だった。しかし今は同じ神殺しであり、同じ国に住み、同じ飯を食う仲だ。それに私はお前の実力を認めているし、何より同じ相手を愛する者同士だからな」
「は、ははは……」
敵として出会い、一度はぶつかり合った二人。
海乃は優香の実力を見て、認めてしまった。その力だけでなく、優香の持つ心の強さ、確固たる覚悟を。
「お前とは、その……仲良くなりたい。どうだろうか?」
「海乃……うん、わかったよ!私も、もっと海乃と仲良くなりたい!」
「ほ、本当か!」
海乃は先程の狂ったような笑みとは違い、眩しいほどの笑顔を見せた。普段は気品があり、凛々しく振舞っている海乃だったが、その笑顔は年相応な無邪気なものだった。
「だ、だからといって神斗は渡さんぞ!あいつは私のものだ!」
「うっ!わ、私だって負けないから!」
優香と海乃は仲間であり、恋のライバルであり、そして友人となった。
夕日に照らされた二人の姿は、町の人々が振り返るほど美しかった。そんな二人は競技場を後にし、想い人の待つ城へと歩み出した。
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