覇道の神殺しーアルカディアー

東 将國

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第2章 神々の運命

第27話 不可侵領域

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 黄金の輝きが晴れると、そこには緑溢れる土地が広がっていた。豊かな自然の先には海が広がり、そのさらに先には真っ白な空間がある。
 二人が転移してきた場所は、そんな自然の中にある大理石でできた巨大な神殿だった。

「この世界の名は、ルルイエ。そしてここが神王会議の会場である、ハプラ・ムーン神殿だ」
「すごい豊かな自然……何か不思議な力を感じる」
「ああ、この世界には他の世界にはない不思議な力が存在するようなんだ。それについては解明されていない。というよりも、この世界についてわかっていることは少ないんだ。この世界には神も人間も動物も存在しない。何のために存在するのか、どうやって生まれたのかもわからない。神王会議でしか使用されない異質な世界なんだ」

 そんな不思議な世界は、豊かな自然と風格ある神殿をどこまでも続く海と空が囲んでいることから、まるで一つの大きな島のようだった。

「さらにここは神界の中でもかなり特殊な場所でな、この世界では神の力の行使の一切を禁止しているんだ。俺はその理由は知らないが、少なくとも今までこの世界で力を行使した神はいないそうだ。故にこの世界、ルルイエは不可侵領域と言われている」
「なるほど、だから神王会議が行われる場所がここなんだね」
「話し合いがこじれても、その場で戦いが起こることがないようにするためだろうな」

 二人は転移してきた場所から移動を始めた。
 神殿の内部は壁に彫刻が描かれていたり、よくわからない異形の像が置かれていた。長い石畳の通路が続くばかりで部屋のようなものはなかった。

「な、なんだか……不気味な所だね」
「確かにな。壁画には大昔の神界での出来事が描かれているらしい。その像は大昔に神々によって討伐された化け物だと言われている。なにぶんこの神殿が作られたのが太古の時代らしく、詳しく知るものはあまりいない」

 そんな話をしながらも二人は歩き続け、やがて巨大な扉の前に辿り着いた。

「ここが会議を行う部屋だ。さて優香、再度確認するが……覚悟はいいか?この扉の先には、神界でも主要な神話のトップ達が待ち受けている。つまり神界最上位の神々だ。生半可な覚悟では……」

 神々が待つ部屋を前に、神斗が優香に向け最後の確認を行おうとした。
 しかし、優香の答えはこの世界に来る前に決まっている。

「大丈夫だよ、神斗。私はもう……覚悟を決めてる。神殺しのために、私のできることはなんでもする。そう決めたから」
「……そうだったな。悪い優香、愚かな問いだった。むしろ覚悟ができていなかったのは俺の方だな」

 神斗は自らを恥じた。優香はすでに強い覚悟を持っており、再び覚悟を問う必要など全くなかったのだ。

「ならば、共に行こう!神殺しのためにッ!!我らの覇道を歩むためにッ!!」
「うんッ!!」

 神斗と優香は共に扉に手を添え、ゆっくりと開いていった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 開かれた扉の先は、天井が高く広々とした空間だった。天井はガラス張りになっており、月の光が差し込んで部屋全体を照らしている。
 部屋の中央には神殿と同じ材質で出来た巨大な丸テーブルが設置され、それを囲むようにして六つの席が置かれていた。
 一つの席を除いた五つの席はすでに、不思議な力を纏った者達が座していた。その一人一人の背後には、優香と同じく代表を補佐する者が立っている。

『遅かったな、神殺しの王よ。お主以外はすでに揃っておるぞ』
「そうか、だが今はまだ神王会議開催の五分前のはずだが?我々は遅れてなどいないし、そちらが勝手に待ったんだろう?相も変わらず精強だな神々共は」
「えッ!?か、神斗!?」

 席に座る者の発言に対して、神斗の思いがけない返答に優香は心底驚いた。
 神斗に声をかけた者は神王会議に出席するほどの存在なのだ。そんな存在に対して神斗は、無礼極まりない発言をした。敬語など使うそぶりすらなく、それどころか神を煽ったのだ。

『貴様……入室していきなりその物言いとは、そちらこそ相も変わらず野蛮だな』
『ぬぁっはっはっはっはっ!!別にいいじゃねえか!そんぐらいよぉ!ぬっはっはっ!!』

 神斗の煽りを受け反論をした者は、体から濃密な力の波動を漏れ出していた。別の神はそのやり取りがよほど面白ったのか大声で笑った。

「ふん、さっさと会議を始めよう。優香は俺の後ろに立っていてくれ」
「う、うんっ!」
『貴様ごときが仕切るなッ!今回の神王会議を仕切るのは……』
『落ち着きたまえ、ラー殿。ここは神聖なる神王会議の議場であるぞ。天帝殿も大人しく席についていただきたい』
「わかっているさ」

 神斗は空席に座り、優香は座った神斗の後ろに待機した。
 先程神斗に反論した者を咎め、神斗に席につくよう指示した者は一息つき、席についた他の五名を一瞥した。

『では気を取り直して、神王会議を始める前に出席する者が名を称する“真実の宣言”を行う』

 今この場にいるのは神界でも最上位の神々、つまり名が広く知られた存在達だ。しかしそれでもわざわざ名を名乗らせる。それには理由があった。
 この神王会議は神界にとって最重要かつ神聖な会議である。
 もし全く別の存在が神話のトップを装えば、その神話に対して喧嘩を売るようなものだ。そのような愚行をさせないために、嘘偽りなく自らその名を名乗らせるのだ。自分が本物であるという宣言、誓いのようなものだ。

『私から名乗ろう。インド神話代表、ヴィシュヌである。今回の神王会議の議長を行う』
『同じくインド神話より、補佐官のラクシュミーです』

 最初に名乗ったのは入り口の正面に座る者。ヴィシュヌと名乗った男は青い肌で4本の腕を持っていた。上半身は裸だが、頭や耳に豪華な装飾を施し煌びやかな格好をしている。
 ヴィシュヌの後ろに立っているのは鮮やかな赤色の服を着たとても美しい女性だった。
 ヴィシュヌが名乗ると、その足元の床から茶色の光が溢れ出した。

『ギリシャ神話代表のゼウスだ!ぬっはっはっ!!』
『妾はゼウスの妻にして今回の神王会議にて補佐を行う、ヘラである』

 次は先程豪快な笑い声をあげた男。ゼウスと名乗ったその男は金色の髪と青色の目をしていた。筋肉質な体を真っ白な絹でできたキトンで包んでおり、頭には冠を被っていた。
 ゼウスの後ろには、ゼウスと同じく綺麗なキトンを纏った美しい女性が立っている。
 ゼウスの名乗りではヴィシュヌの時とは違い、緑色の光が床から溢れ出した。

『エジプト神話代表、ラー』
『ラー様の補佐をいたします、イシスと申します。どうぞよろしくお願いします』

 ラーと名乗った者は特徴的で、ハヤブサの頭をしていた。しかしその眼光はとても鋭く、未だ発言はないがずっと神斗を睨んでいた。
 対して、ラーの後ろに立つイシスという女性はラーと違い、神斗のことをどこか慈愛に満ちたような目で見ていた。
 ラーの宣言によって床から溢れ出た光は黄色だった。

『北欧神話代表のトールだ』
『私はヴィーザルです』

 トールは赤い髪と髭をした筋骨隆々な大男だった。常に眉間にしわを寄せており、威厳のある雰囲気を纏っている。
 トールの後ろに控えるのは美しい銀髪の美青年、ヴィーザル。
 そして床から溢れ出しトールを照らす光は、青い色の光だった。

『アブラハムの宗教を代表するミカエルと申します』
『私はガブリエル。ミカエル殿を補佐する役目を仰せつかった者だ』

 アブラハムの宗教とは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三教を指している。その三教を代表するのは純白の翼を持った天使、ミカエル。甲冑を着ており、容姿からは性別がわからないほど整った美しい顔をしていた。
 後ろに控えていたガブリエルもミカエルと同様、純白の翼を持っている。
 ミカエルの足元からは真っ白な光が溢れ出した。

「神殺し代表、王谷神斗だ」
「か、神殺し代表の補佐官、岡本優香……ですッ」

 神斗は目の前に座る神々に臆することなく、むしろ堂々とその名を名乗った。
 しかし優香は目の前にいる神々から感じる強大な力を前に、足を震わせ手には汗を握っていた。それを悟られぬよう、神殺しを他神話から侮辱されぬよう気をしっかり持って立っていた。
 神斗の名乗りによって足元からは金色の光が溢れ出た。

『次にこの会議についての確認を行っていく。ラクシュミー、用意を』
『かしこまりました』

 今回の神王会議の議長ヴィシュヌは、神王会議を行う上で守られるべき決まり事を一つ一つ述べていった。

『一つ、会議中に限らずルルイエ内において力の行使を行ってはならない。
 一つ、ルルイエ内に力を発揮する媒体、武器を持ち込んではならない。
 一つ、出席する者は各自の勢力の代表者として相応しい言動を心掛けること。
 一つ、出席する者はその名を自ら名乗り、他勢力に宣言する。
 一つ、会議中争いごとを行ってはならない。
 一つ、本会議に不相応の言動を行った者は、議長の判断によって退場させられる。
 一つ、本会議にて決定した事案については絶対厳守する。
 以上に該当しない場合においても、代表者の過半数の同意と議長の決定によって順次対処することが出来る』

 ヴィシュヌがいくつかの決まりごとを述べ終えると、ラクシュミーによって代表者の前に一枚の紙とペンが配られた。

『以上の事柄に同意をし、所定の欄に署名をしていただく』

 配られた紙には先程ヴィシュヌが述べた決まりごとが描かれており、その下には署名欄があった。代表者たちはその紙に自らの名を署名していった。
 この世界では力を行使できない。故にこのような手法をとるのだ。
 その後、ラクシュミーが一枚一枚丁寧に回収し、ヴィシュヌの前に提出した。

『うむ、全員の署名を確認した。それでは……』

 すると、それぞれの代表者の足元から溢れ出るようにして輝いていた光が一層輝きを増し、部屋全体を照らす月の光と合わさり幻想的な光景を生み出す。

『これより、神王会議を開催するッ!!』
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