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第2章 神々の運命
第26話 思惑と計画
しおりを挟むその日、優香と神斗はカテレア神殿に来ていた。
神斗は水鳥院に現れた時に着ていた赤を基調とした服の上に黒い羽織を着ていた。その羽織は豪華な装飾が施されており、一国の王として相応しい格好だった。
「ね、ねぇ神斗、本当に私でいいの?大事な会議に私なんかが行くなんて……」
「大丈夫だって!幹部たちも理由を言ったら納得してくれたし、優香が行くのが一番なんだよ」
数日前の緊急の会議では、優香が神王会議に出席するということで一悶着あったが、神斗がその理由を話すことによって幹部たちの了承を得ることができたのだ。
しかし、優香本人は不安であった。神殺しの命運のかかった重要な会議で何かあったら洒落にならない。
「それに、国民のみんなも歓迎していただろう?」
「そ、そうだけど……」
フェルノーラ城からこのカテレア神殿までは真っ直ぐの大通り、天狼通りを通ってきた。
その日、国民には神斗と優香が神王会議に出席することが伝えられていたのだ。そのため天狼通りは神斗と優香を見送ろうと多くの国民が集まっていた。そこに二人が姿を現した時、国民は歓声をあげて二人を激励した。その激励は王である神斗だけに向けられたものではなかった。
「優香と空実の決闘を見た国民は、優香のことを認めているんだよ。今日のあの歓声がその証拠だ。何も心配することはない。君は国民に認められた、立派な神殺しの代表なんだ」
「みんなが……私を」
「ああ。だからこそ神殺しの代表として、国民の代表として、勤めを果たそう」
「……ッ!うん!!」
神斗と優香は転移門の前に着いた。するとそこには、二人を見送るために先回りしていた幹部たちの姿があった。
「あ!やっときた二人とも!遅いよー」
「仕方ないですよクローム。国民の皆さんがお二人をお出迎えしていたんですから」
「イェーイ!二人トモ頑張ってくだサイ!」
「頼んだぜ神斗、優香ちゃん」
「お二人なら何も心配はありませんわね」
「何かあったらすぐ俺と姉御が駆けつけるぜ!」
「準備は整いましたか?ハンカチは持ちましたか?ティッシュは?食事もしっかり取りましたか?あ、あとお手洗いも済ませましたか?あちらではずっと緊張状態での会議ですから、今のうちに行ったほうがいいです。あとそれから……」
幹部がそれぞれ自分のやり方で二人を激励していく中、空実と海乃が前に出た。
「優香さん、神王会議での神斗のサポートよろしくお願いね。神斗のやつ普段なら問題ないんだけど、たまに危なっかしい所あるから、うまく助けてあげて。あなたなら、任せられる」
「そ、そんなことねぇし……」
「ふふふ、はい!わかりました!」
神斗は普段は冷静なのだが、変なスイッチが入ったり、仲間のことになると感情を抑えられなくなってしまう。空実は神斗のそんなところが心配だったようだ。
「神斗、王としてしっかりと勤めを果たせよ」
「ああ、わかっているよ海乃」
「そして優香、お前はもっと自信を持て。お前はこの私が認めるほどの実力を持っているんだ。それに、私はお前を信頼している、大切な友としてな。お前なら大丈夫だ!神殺しとはなんたるかを、他神話の奴らに見せつけてやれ!」
「海乃っ……ありがとう」
海乃はなんとなく気づいていた。優香が自分に対してあまり自信を持っていないことを。
そこで優香に自分がどれほどの存在なのか、身をもって味わって欲しいと思っていたのだ。だからこそ、優香が神王会議に出席することに反対しなかった。
それほどまでに海乃は、優香のことを認め、信頼していた。
「マーゼラ、俺がいない間イデトレアを頼む」
「わかっとるよ神斗。神々に負けるんじゃないぞ二人とも!ガッハッハ!!!」
「おいおい、戦争するつもりじゃないんだぞ?」
「儂は戦争してもいいんじゃがのう……なんてな!ガッハッハ!まぁとにかく、頑張ってこい!」
「はいっ!」
神斗、海乃、空実、幹部たちだけでなく、国民までもが自分のことを認めてくれている。優香はそれを強く実感した。
そして優香は、幹部たちや国民の期待、信頼を裏切らない働きをしようと決意する。
「神斗、私頑張るよ。神殺しのために、国民や幹部のみんなのために!!」
「ああ、優香ならやれるさ。共に頑張ろう」
二人は転移門に向けて歩みだした。転移門は黄金の輝きを放っていた。その先で二人を待ち受けるのは、それぞれの神話の代表たち。そして神王会議の開かれる特別な世界。
「さぁ行こう!!神王会議が行われる世界、絶対の不可侵領域、ルルイエに!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……行ってしまったわね」
「ン?やっぱり心配なんデスネ空実!」
「べ、別にそんなんじゃないわよ……」
幹部たちは神斗と優香が黄金の輝きの中に消えたのを見届けた。
そんな中、空実は未だ二人のことを心配していたのだ。
「空実ちゃんが心配する気持ちはわかるけどなー、神斗の言う通りこれが最善だろうさ」
「そうですわね。神王会議はお二人にお任せしましょう」
「うむ、我らには我らの仕事がある。さて、早速“準備”を進めよう」
神斗はわざわざ大切な会議の場に優香を連れていこうと考えた。最初は反対していた幹部たちだったが、神斗の考え、優香を連れていく理由を聞いて納得した。イデトレアと神殺しそのものの命運がかかるほどの会議だが、それでも幹部たちは承諾した。それだけの理由があったのだ。
「まずは海乃、部隊の編成はどうなっておる?」
「ああ、編成はすでにヘラクレスが指揮を取っている。すぐにでも展開できるようになるだろう。私もすぐに合流して部隊を鼓舞せねばな」
マーゼラは幹部たちの前に立ち、何かの指示を出し始めた。
「よし、編成が完了し次第国内へ展開せよ。次はケイン、捗っているか?」
「ああ、こっちも問題ないぜ。物資は一式揃えたし、予備もできるだけ用意しよう」
「ほう!流石の仕事の早さだな」
「へっ、早いのは仕事だけじゃないぜ?俺の自慢だが女の子に手を出す早さも……」
「それは自慢になりませんよ?ケイン」
ケインのおふざけにマーゼラは無視をしようとしたが、代わりに千里が相手をした。
「ちなみに私の方も準備は滞りなく進んでおりますわ。ケインに届けて頂いたものも問題ありませんでした」
「そうか、良くやってくれた。次にカレン、お前はこの後すぐに行動を起こしてもらう。もう一つの準備の方もよろしく頼むぞ。この計画で最も重要なものになる。任せたぞ」
「住民をフェルノーラ城へ避難させる件と城の防衛網の構築はこの後すぐに行います。例の準備も完璧に実行しましょう」
「私もこれから作戦本部の設置の準備に入るわ。みんな何かあったら本部にいる私のところに来なさい」
部隊の編成に物資の調達、さらには住民を城に避難させるといった指示が出されていた。そういった何かの準備をまとめる本部まで設置されるようだった。
その時、神殿の外から転移門の門番であるグラーフとデュリンが現れた。
「エンジェ殿から報告が来ています。未だ情報なし、との事です」
「お、同じくクローム様からの報告ですぅ!こちらも未だ気配なし、だそうですぅ!」
「ふむ、先に行動を起こしていたエンジェとクロームか。あの二人がいれば意表を突かれることはないだろう。二人とも報告ご苦労」
「「はっ」」
「さて、儂も元老院に戻って対応に当たるとするかのう」
「ワタシも他神話への対応を進めマース!」
「うむ。皆、進捗状況は逐一本部に伝えること。それと今夜は計画の最終調整のための会議を開く。報告をまとめておくように」
マーゼラの指示によって幹部たちは行動を起こしていた。そんな幹部たちの行動はまるで何かからの襲撃に対応する準備のようだった。
「よし、皆の者ッ!王が不在の中、このイデトレアを守れるのは我らだけであるッ!我らが神殺しの王、神斗はこの国と神殺しという存在を我らに託した。そんな王からの信頼と期待を損なうわけにはいかないッ!皆、最善の手を尽くせッ!!」
「「「はっ!!!」」」
マーゼラの激励のもと、幹部たちはさらなる準備を進めるためにその場を解散した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ヒッヒッヒッ!ヒッヒッヒッ!!』
暗闇の中、まるでピエロのような服装をした美青年、ロキが気味悪く笑っていた。
『どうやら興奮がおさまらないようだねぇあんた』
『そりゃそうや!まさかこんなにもおもろい状況になるとは予想しとらんかったわ!ヒッヒッヒッ!』
『あたしも予想してなかったよ。人間界とはいえ、あんたが退却することになるとはねぇ』
ロキと話しているのは、ロキが嫁と呼ぶ褐色肌の魅惑的な女性だった。
『だからおもろいんや!神殺しのこと甘く見とったわ。親父殿の力を持ったあの小娘も、今なら問題ないが放っておけば厄介な存在になるのは間違いないわ』
ロキは数日前に優香とカレン、そして優香の護衛をしていた紅葉と戦った。ロキはこの人間界での奇襲で目的を達成するつもりだった。しかし結果は、人間界で本来の力が出せなかったものの、強大な力を持つ神である自身を三人は退けた。
『だからって計画に支障はないで。神殺しの中で最も厄介な天帝と戦兵が神王会議に出席の中、神殺しの国イデトレアを襲撃、その混乱に乗じて親父殿の力を解放するんや!ヒッヒッヒッ!』
『まぁその計画に文句はないが、あたし達の計画を奴らが察知していたらどうするんだい?』
『それでも問題ないで。会議への付き添いが戦兵ではない者だとしても、少なくとも天帝は必ず会議に出席する。戦兵がイデトレアに残ったとしても、俺様には奥の手がある。対処はいくらでもできるんや』
奇襲は失敗したものの、ロキには別の計画があった。大掛かりな計画でロキも出来れば奇襲で終わらせたかったが、こうなっては強硬手段を取るほかないとなったのだ。
そんな第二の計画、それは神殺しの国イデトレアに直接襲撃をするというものだった。イデトレアの王である神斗は神王会議に出席するために国内には確実にいない。王の留守を狙うことによって混乱させ、襲撃への対処を遅らせる。さらに神斗は神殺しの中でも相当な実力を持つ。強大な戦闘力を持ち、国の指揮を執る存在が会議でしばらく帰還できない状況は、ロキにとって絶好のチャンスなのだ。
『それもそうだね。あれを使えば目的を達成しやすくなるからね。だからって奴らには天帝以外にも強大な戦闘力を持つ存在がいる。こちらもそれなりの被害を被ることは覚悟しなきゃいけないよ?』
『別に今すぐ奴らと戦争をしようというわけやない。今はあくまで、親父殿の力を解放することが目的や。その目的が完了できればそれで良い。それに、俺様の本命は……ヒッヒッヒッヒッヒッ!!!!』
ロキの目的はあくまで優香の力を奪うこと。神殺しと全面戦争をするつもりではなかった。さらにロキには奥の手もあるようだった。
そして、優香の力を奪うのは一つの目的に過ぎない。ロキにはその目的を含めた、本命があるのだ。
『さぁ、さぁさぁさぁ!!最っ高に楽しもうやないかッ!!!ヒッヒッヒッヒッ!!!』
ロキは計画を実行に移す。なんとしても自分の目的を、本命を成し遂げるために。
しかし、神斗はロキの思惑を予想していた。幹部たちによる大掛かりな準備と優香の神王会議への出席、それはすべて神斗の計画の内だった。神斗がこんな計画を立てた理由、それは優香を狙うロキの持つ思惑に対する措置であったのだ。ロキが何をしようとも、優香を守れるように。
今はそんな二人の思惑が交錯しただけだが、それはあくまでも嵐の前の静けさに過ぎないのだった。
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