覇道の神殺しーアルカディアー

東 将國

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第2章 神々の運命

第30話 神喰らい

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『ほっほう?やるやん海鳴り姫!流石は天帝の右腕やな』

 北欧神話の世界にある煌びやかな宮殿、そのとある一室にロキはいた。豪華な椅子に足を組んで座り、手の上に水晶玉を浮かべていた。

『あのヘラクレスの転生者、“壊人”かいじんもかなりの手練れだねぇ。いくら神でもあの一撃をまともに受ければタダじゃ済まないよ』
『やっぱ神殺しは強いわ。それに加え高い統率力と連携で戦う雑兵ぞうひょうもよく訓練されとる。あの数の差にも対応するとはなぁ』

 ロキと褐色肌の妖艶な女性は、ロキの手の上に浮いている水晶玉を介してイデトレアの様子を見ていた。

『まだ戦兵せんぺいの姿はないようだねぇ。王である天帝がいない状況で奴が現れないということは、やはり神王会議に向かったのは戦兵だったか』
『襲撃を受けているにも関わらず、王の代理を務める奴が姿を現さないのはおかしいもんなぁ。何より奴は無類の戦闘好き、この状況で暴れないはずがない』
『天帝も居なけりゃ戦兵も居ない。こりゃあ私らにとって最高の状況じゃないか!』

 ロキが唯一懸念していたのは、“戦兵”という存在がイデトレアに残っているかどうかだった。ロキは今の状況を鑑みるに、作戦に対する障害が無くなったと考えた。

『だが、未だ神殺しには強力な力を持つ輩がいる。十分に注意しなきゃね。それに気がかりなのは奴らの襲撃への対応の早さ。まるで襲撃されることを予想していたかのようだ。もしそうなら、他に何か対策があるかもしれないよ?』
『まぁそうやな。俺様の作戦を予想し、対策を打っている可能性もある。しかし、この絶好の機会を逃すわけにはいかん。だからこそ、こいつの力を使うんや』

 ロキは手を前に突き出し、床に大きな魔法陣を展開した。魔法陣は白色と黒色が入り混じった、不気味な雰囲気を発している。

『さぁ、お前の出番やで?我が息子……“神喰らいの狼”フェンリルッ!!』

 やがて魔法陣は少しずつ発する光を強めていき、一瞬だけ激しい閃光を発する。

「グルルルゥゥゥゥゥゥ……」

 一瞬の閃光と共に不気味な魔法陣は消え去り、そこには真っ黒な体毛をした巨大な生物が出現していた。
 人間の数倍はある四肢と、危険な雰囲気を発するほど鋭く尖っている爪。顎門からは涎が垂れ流れ、その牙は爪以上に鋭く尖っていた。
 閉じられていた目がゆっくりと開いていくと、黒ずんだ真っ赤な目が現れた。
 そのまさに怪物のような生物は、巨大な狼だった。

『“神喰らいかみぐらい”として、我が義兄である魔導王を喰らうんやッ!!そして俺様の求める、神々の運命を始めるんやッ!!』
「オオォォォォォォォォォンッ!!!!」

 ロキの声に合わせ、巨大な狼は遠吠えを上げた。その遠吠えは見た目とは裏腹に、聞き惚れるほど美しい声だった。

『ヒッヒッヒッ!!ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!!』

部屋の中では、 フェンリルの美しい遠吠えが未だに木霊こだまする中、ロキの不気味な笑い声が入り混じっていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 イデトレアの街中で戦闘が繰り広げられている中、フェルノーラ城には作戦本部が作られ、文官や軍の参謀官が集まって話し合いが行われていた。

「敵はドラゴンやクラーケンといった魔獣とトロールなどの巨人です!」
「空にはドラゴン、水場からはクラーケン、地上はその他魔獣と巨人。バランスの整った布陣のようだね」
「魔獣の数が予想よりも多いようですなー」
「巨人の中には異形の姿が特徴の“霜の巨人”も数体確認されているようです」

 作戦本部では前線から入った情報が報告されていた。それをもとに戦いの状況を考え、政務総長の空実や元老院総監のマーゼラ、財務総長のケインを中心に敵への対策を話し合っていた。

「問題ないわ。後衛の部隊には医療班も配置され応援部隊の派遣もできるように準備されている。それに前線は海乃が指揮している。戦線拡大への対応もすでに行なっているわ」
「あの海乃ちゃんが指揮をとっておるなら何も心配する必要はねぇな。戦に限っては天才的だからなー」
「もし前線が突破されても後衛にはカレンの率いる治安維持部隊がいる。城の守りが薄くなるけど、もしもの場合に城を守る奥の手もある。万全の体制よ」
「それに城にはまだこの儂もいるしのう?ガッハッハッ!!」

 神斗は神王会議中に北欧神話側が何かしらの行動を起こすことを予想していた。そのため神斗の指示のもと、襲撃に対する準備を整えていた。
 多少の予想外にも戦場にて直接指揮をしている海乃や、作戦本部から情報を統括し指示を出している空実たちによって完璧に対応していた。

「例の作戦の準備は出来ているの?」
「はっ、カレン様の準備はすでに整っているとのこと」
「ケイン、補給物資の方は問題ない?」
「ああ、まだまだ大丈夫だぜ空実ちゃん」
「よし、すべての準備は整ったわ。あと私たちがやるべきことは……」

 突然の奇襲だったが、万全の準備で対応することができた。今ではすでに今後の準備だけでなく、例の作戦と呼ばれるものまで用意されていた。
 そんな作戦や準備を指示する作戦本部を鼓舞するため、空実は立ち上がって訴えかける。

「戦場で戦う者たちと同様、野蛮で下賎な敵どもからこのイデトレアを死守する!そのためにも戦場で戦っている者たちが安心して戦えるよう策を講じる。これは私たちにしか出来ないことよ!気を抜かず頭を捻りなさい!いいわね!!」
「「「了解!!!」」」

 空実の激励により作戦本部の士気が向上したその時、何者かが扉を開けて部屋の中に入ってきた。
 それは前線と後衛、作戦本部との情報伝達をまとめる役目を担っているエンジェだった。

「報告します。カドモス広場南方に新たな敵が出現したとのこと」
「新たな敵……まさかッ!」
「“神喰らい”、フェンリルです」
「「「……ッ!!」」」

 エンジェのもたらしたその報告によって、作戦本部は凍り付いてしまった。文官や参謀官は突然の脅威の出現に動揺を隠せないでいた。

「フェ、フェンリル!?」
「まさか、本当に現れるとは……」
「くそっ、奴の出現はマズイ!戦場が混乱する!」

 この場にいる者は直接敵と戦うわけではないが、作戦を立てる者として相応な知識を持っていた。だからこそ、その名を聞いただけで脅威を感じてしまうのだ。

「何を動揺しているの!?フェンリルの出現は予想されていたはずよ!対策だってある!戦いにおける頭脳である私たちが慌てては、それこそ戦場を混乱させることになる!戦場で戦っている仲間たちへ示しがつかないわよ!!しっかりしなさいッ!!」

 空実は見ていられなかったのか慌てふためく部下たちを一喝した。
 大きくも透き通った空実の声を聞いた者たちは、再び指示を出す者としての冷静さを取り戻した。

「まぁ慌てる気持ちもわからんでもないが、空実ちゃんの言う通りだぜ。いくら万全な準備を整えて戦っているとはいえ、指示を出す俺たちが混乱しちまえば戦場にいる連中を無駄死にさせることになる。軍師や指揮官は常に冷静に、予想外のことが起きても冷静を取り繕うもんだぜ?」
「確かにフェンリルは脅威な存在だ。相当な実力者でなければ相手にすらならない。だが、これを見越した作戦を神斗が立てている。我らはこの作戦を確実に実行させなければならないのだ。よいな?お前たち」

 その場にいた多くの者たちはフェンリルの存在に恐怖していた。しかし、マーゼラや空実、ケインたち幹部は動じた様子を見せていなかった。
 決して、フェンリルを甘く見ているわけではない。むしろ強く脅威に感じていた。そんな時だからこそ、冷静にならなければならないことを知っていた。

「そう、フェンリルに対しての策はすでに整っている。すぐさま実行に移すわよ!」
「うむ、そうだな。では頼むぞ、キーキ」
「あいよ、任せときな」

 その時、マーゼラの後ろに美しい女性が姿を現した。
 どこからともなく現れたその女性は、豊満な体に際どい服を身にまとい、漆黒のローブをその上に羽織っていた。頭にはつばの広い三角帽子を被り、木でできた杖を持っていた。その姿はまさしく、魔女そのものだった。

「最近は椅子に座って話し合ってばっかだったからね、現場は久しぶりだ。張り切らせてもらうよ?」
「あまり無茶するなよ?」
「なんだい?あたしのことを心配してくれているのかい?マーゼラ」

 マーゼラの後ろに現れたキーキという女性は、動いてもいないのにいつのまにかマーゼラの隣に移動していた。キーキは机の上に座り、誘惑するかのような色っぽい目でマーゼラを見つめた。

「いや、心配なのはお前がしっかりと加減をするかどうかだ。お前がその力を乱雑に使えば、味方にまで被害が出てしまいかねんからな」
「その辺はまぁ、ノリと勢いでなんとか……」
「何を言っておる!?お前の力がいかに強大で危険か、自分自身わかっとるだろう!!ノリと勢いだと?そんなことをお前がすれば、一体どれだけの被害が出ると思っておる!!」
「だからその辺はなんとかするって言ってんじゃないか!!相変わらずの頑固ジジイだねあんたは!!」

 マーゼラはキーキの魅力的な言動に見向きもせず、キーキに注意をした。そんなマーゼラの態度と言動が癪に触ったのか、キーキはマーゼラへ食ってかかった。
 やがて二人は周囲を気にせずに激しい言い合いを始めた。

「あ、あの、そろそろ作戦を実行したいのですが……」
「“夫婦喧嘩”もその辺にしてくれませんかね?お二方よ」
「むっ……す、すまんかったな。この儂が取り乱してしまった」
「ったくこのジジイは……私もすまなかった、会議の邪魔をしてしまったな」

 言い合いをしていた二人は空実とケインの言葉を聞き、我に返ったようで周りにいる者たちに謝罪した。

「と、とにかく、フェンリル対策の作戦を始めましょう」
「ああ、しっかりやれよキーキ」
「わかってるよ。では行ってくる」

 その言葉を最後に、キーキの姿は消え去っていた。まるでもともとそこにいなかったのではないかと錯覚するほど静かに消えてしまった。

「まったく、あいつは……まぁよっぽどのことがない限り、ヘマはしないだろうが」
「そうね、あの人なら大丈夫でしょう。あとは一応戦場にいる海乃たちにもこのことを連絡したほうがいいわね。クロームにも新たな敵の出現を警戒するように言わなきゃ。エンジェ、頼めるかしら?」
「はぁーい」
「ごめんなさいね。エンジェとクローム、二人にはずっと働かせてしまってるわね」

 エンジェとクロームはその力ゆえに、襲撃される前から警戒にあたっていた。そして襲撃を受けている今もなお、休む暇なく働いていた。

「いえいえ、それが私たちの仕事ですから」
「本当に頼りになるわ。これが終わったら、きっと神斗がご褒美くれるわ」
「わーい、ご褒美ー」

 エンジェは喜びながらトタトタと走って部屋を出て行った。

「よし、すべての作戦は佳境に入ってる。皆気を抜かず、最後まで踏ん張るわよッ!!」
「「「了解ッ!!」」」

 作戦本部は一層士気を上げ、それぞれの仕事をこなし始めた。
 ロキによるイデトレア襲撃とフェンリルの出現、それに対する神斗の作戦が本格的に始まろうとしていた。
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