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17 本当に本当の秘密の話
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広場のあちこちで起こされた火で、炙られたり煮込まれたりした大蛇の肉が振舞われている。
お酒も、それ以外の料理も色々と並んで、夜になっても篝火を絶やすことなく収穫祭は続いた。
これが、定期的に行われているらしい。画期的で何よりだし、これだけの肉を領民と冒険者とが集まっても一度には消費できないので、保存食にもされているとか。
蛇肉、というのは初めて食べた物の、淡泊で癖が無く、油はないけれと火を通しても硬くなり過ぎないといった、鶏肉に近いような感じだった。
私は野菜と串焼きにしたものが好きかもしれない。いろんな料理が並んでいて、あれもこれも少しずつ味見をしたけれど、すぐにお腹いっぱいになってしまう。
逆に、ヘンリー様はよく食べた。でも、私の隣からは離れなかったし、私の横でお喋りを続けた。どうやって大蛇を狩ったのか、冒険中に何があったのか、色々と話してくれて退屈することはない。
私も、ヘンリー様に留守中にあった事、考えた事を伝えた。……見知らぬ、乳母だった人との再会も。
「そっか……うん、そうだね。そろそろ、全部話そうか……」
「ヘンリー様……?」
食べる手を止めたヘンリー様は、皆に祭りを楽しんで、と告げると、私と一緒に屋敷に戻った。
馬車が迎えに来ていたので、屋敷までの間、向かい合って座った私とヘンリー様は黙ったままだった。何故か、声を掛けてはいけないと思ったし、ヘンリー様も喋らなかった。
屋敷に着いてすぐ、ヘンリー様は私と二人きりで一つのサロンに入った。誰も近寄らせないようにと、ドアの外に使用人を待たせて言い含め、ドアから一番遠いソファに二人で座った。
部屋の中は、星明りと足元が見える程度の少しの灯りだけが頼りで、ヘンリー様と並んで座った私は雰囲気に呑まれてしまったのか、ヘンリー様の野性味のある美しさに魅入られてしまったのか、ほの明かりに浮かぶ金髪と青い瞳の顔に見入って黙っていた。
「僕の顔、見覚えは無い?」
「見覚え……ですか?」
「あぁ、そっか……あまり似なかったかな」
「何の話ですか?」
ヘンリー様は独り言ちると、視線を逸らし口元に手を当てて少し考えてから、また私に向き合った。
「僕が10年前に双子の因習をなくした、と言ったけど、本当は僕の前代……義父上が行ったことなんだ。僕と、国の為に」
「義父……? 本当のお父様では、ないのですか?」
「うん。僕の本当の父親はね、王都にいる。王城にいる一番偉い人がそう、それに……双子の、弟もね」
その言葉が私の頭に染み込むには、長い沈黙と時間が必要だった。
つまりは……ヘンリー様は、本来ならばこの国の第一王子であり、双子の兄である『因習になぞらえれば』本来の王太子殿下、ということで……。
私と婚約していたのは、双子の弟……つまり、本来なら生まれた時に殺されていたはずの人。因習の忌子。
「一体、どういう……ことですか」
抑揚のない声で、私はそれを聞くので精いっぱいだった。
お酒も、それ以外の料理も色々と並んで、夜になっても篝火を絶やすことなく収穫祭は続いた。
これが、定期的に行われているらしい。画期的で何よりだし、これだけの肉を領民と冒険者とが集まっても一度には消費できないので、保存食にもされているとか。
蛇肉、というのは初めて食べた物の、淡泊で癖が無く、油はないけれと火を通しても硬くなり過ぎないといった、鶏肉に近いような感じだった。
私は野菜と串焼きにしたものが好きかもしれない。いろんな料理が並んでいて、あれもこれも少しずつ味見をしたけれど、すぐにお腹いっぱいになってしまう。
逆に、ヘンリー様はよく食べた。でも、私の隣からは離れなかったし、私の横でお喋りを続けた。どうやって大蛇を狩ったのか、冒険中に何があったのか、色々と話してくれて退屈することはない。
私も、ヘンリー様に留守中にあった事、考えた事を伝えた。……見知らぬ、乳母だった人との再会も。
「そっか……うん、そうだね。そろそろ、全部話そうか……」
「ヘンリー様……?」
食べる手を止めたヘンリー様は、皆に祭りを楽しんで、と告げると、私と一緒に屋敷に戻った。
馬車が迎えに来ていたので、屋敷までの間、向かい合って座った私とヘンリー様は黙ったままだった。何故か、声を掛けてはいけないと思ったし、ヘンリー様も喋らなかった。
屋敷に着いてすぐ、ヘンリー様は私と二人きりで一つのサロンに入った。誰も近寄らせないようにと、ドアの外に使用人を待たせて言い含め、ドアから一番遠いソファに二人で座った。
部屋の中は、星明りと足元が見える程度の少しの灯りだけが頼りで、ヘンリー様と並んで座った私は雰囲気に呑まれてしまったのか、ヘンリー様の野性味のある美しさに魅入られてしまったのか、ほの明かりに浮かぶ金髪と青い瞳の顔に見入って黙っていた。
「僕の顔、見覚えは無い?」
「見覚え……ですか?」
「あぁ、そっか……あまり似なかったかな」
「何の話ですか?」
ヘンリー様は独り言ちると、視線を逸らし口元に手を当てて少し考えてから、また私に向き合った。
「僕が10年前に双子の因習をなくした、と言ったけど、本当は僕の前代……義父上が行ったことなんだ。僕と、国の為に」
「義父……? 本当のお父様では、ないのですか?」
「うん。僕の本当の父親はね、王都にいる。王城にいる一番偉い人がそう、それに……双子の、弟もね」
その言葉が私の頭に染み込むには、長い沈黙と時間が必要だった。
つまりは……ヘンリー様は、本来ならばこの国の第一王子であり、双子の兄である『因習になぞらえれば』本来の王太子殿下、ということで……。
私と婚約していたのは、双子の弟……つまり、本来なら生まれた時に殺されていたはずの人。因習の忌子。
「一体、どういう……ことですか」
抑揚のない声で、私はそれを聞くので精いっぱいだった。
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