【完結】嘘八百侯爵令嬢の心を、無表情王太子は掴みたい

葉桜鹿乃

文字の大きさ
1 / 20

1 嘘吐きの侯爵令嬢

「やだ、ティーカップの取っ手が……」

 晴れやかな春の庭園でのお茶会で、王太子妃候補として集められた『リリィクイン』と呼ばれる5人の令嬢が和やかなお茶会をしている場で、その一人、ノラ・コルクス伯爵令嬢のカップの取っ手が取れてしまった。

 幸いお茶はドレスに零れることは無かったが、カチャン、と音をたててソーサーの上に残ったカップの揺れる水面を見て、悲し気に眉を顰める彼女に、私はこっそり息を吐くと笑顔で語りかけた。

「あら、ノラ様、よかったですわね」

「え?」

「昔、祖母から聞いた話なんですけれど……」

 ここらへんから、私の嘘八百は始まる。

 王宮にきて1週間、毎日のお茶会、その最も上座に座る王太子も聞いている前で私は毎日何か嘘を吐いている。

「ティーカップは、もともと東の方からお茶と共に入ってきた物なんです。その時は取っ手はついていませんでしたのよ。後からつけられた物が取れる……とても便利ですけれど、取っ手が取れた時には初心を思い出す時とも申します。最近、何か変わったことはございませんでした?」

 最近も何もあるかい、ここ最近毎日顔を合わせてるのにそんな変化があってたまるか。と、思いつつ、人はこうして曖昧に聞かれると自分の記憶の中から勝手に当てはまる事を探してしまうものだ。

「そういえば……サイズはもちろん同じ物なのですけれど、新しい靴を下ろしましたの。そしたら、足の形にあってなくて……」

 困惑気味にいい感じの出来事を話したノラ様に、私は微笑んで続けた。

「それですわ。お気に入りの靴とサイズを比べてみてくださいな。きっと、お気に入りの靴とサイズに差があるはずですわ。それを知らせるために取れたのでしょう。ティーカップは金継ぎをするとそれはまた味があって美しい物になりますもの。縁起のいいカップとして金継ぎをして使われてはいかがでしょう?」

 そして、王太子に笑顔を向ける。黙ったまま、表情一つ変えない王太子は、ただ一つ頷くだけだったが、私の案が通ったようだ。

 靴なんて履いていたら素材が柔らかくなって広がるものだ。足のサイズだって、私たちは全員まだ16歳。変わるのも当たり前だ。

 お気に入りの靴は一番履いていて革でも布でもいい具合に足に沿って広がっているはずである。サイズの測り直しで多少手を加えれば新しい靴もぴったりになるだろう。

「ありがとうございます、ソニア様は本当に博識でいらっしゃいますのね」

「おほほ、あら、そんなこと」

 本当にないんだな、これが。なんせ、今言ったのは全部口から出まかせ、嘘八百。ここに少しでも手練れの淑女がいたら、私はきっと攻撃にさらされるに違いない。

 しかしまぁ、王太子妃候補の『リリィクイン』として王宮の離宮に住むようになって1週間。

 毎日の午前のお茶会、そして晩餐会、どちらかで必ず何かが壊れるのは一体どういう事だろうか。

 態となのか? 何かこう、これが試験的なものなのか? と、思いながらも、私は和やかに、にこやかに、この王太子妃候補という役から降りたい。

 何故って、王太子その人が紺の絹糸のような髪に黒曜石の瞳、白磁の肌の美丈夫で、王宮の侍女たちは口をそろえて王太子の能力面のすばらしさも語ってくれるのだが、愛想がない。愛嬌もなければ笑顔もない。微笑みかけもしない。

 私はさっさと『嘘吐き女』として、王太子妃……そう、そして将来国母と呼ばれる王妃になるのを回避するために、毎日嘘を吐いている。

 私、暗い雰囲気が大嫌いだから。絶対にうまくいかない結婚なんて、こっちが多少瑕疵を負ったとしても、避けるべきだろうし。国の為だし。……いや、私のためなんだけれど。

 とにかく、本来ならもっとぎすぎすするらしいこの『リリィクイン』と呼ばれる王太子妃候補を集めた1ヶ月を平和に、平穏に切り抜け、どの家とも敵対せず、平和に王宮を立ち去りたい。

 代わりのお茶をノラ様が貰っている間に、そんなことを考えて自らのお茶を音をたてずに綺麗に飲む。

 視界の端で王太子が少し揺れているように見えたけれど……そろそろ私の嘘にイラついて貧乏ゆすりでも始めたのだろうか?

 ま、いいか。今日もいいことをした。ノラ様の好感度ゲット、王太子殿下のマイナス好感度ゲットだ。
感想 13

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ
恋愛
転生してざまぁする。 後日談もあり。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

【完結】チャンス到来! 返品不可だから義妹予定の方は最後までお世話宜しく

との
恋愛
予約半年待ちなど当たり前の人気が続いている高級レストランのラ・ぺルーズにどうしても行きたいと駄々を捏ねたのは、伯爵家令嬢アーシェ・ローゼンタールの十年来の婚約者で伯爵家二男デイビッド・キャンストル。 誕生日プレゼントだけ屋敷に届けろってど〜ゆ〜ことかなあ⋯⋯と思いつつレストランの予約を父親に譲ってその日はのんびりしていると、見たことのない美少女を連れてデイビッドが乗り込んできた。 「人が苦労して予約した店に義妹予定の子と行ったってどういうこと? しかも、おじさんが再婚するとか知らないし」 それがはじまりで⋯⋯豪放磊落と言えば聞こえはいいけれど、やんちゃ小僧がそのまま大人になったような祖父達のせいであちこちにできていた歪みからとんでもない事態に発展していく。 「マジかぁ! これもワシのせいじゃとは思わなんだ」 「⋯⋯わしが噂を補強しとった?」 「はい、間違いないですね」 最強の両親に守られて何の不安もなく婚約破棄してきます。 追伸⋯⋯最弱王が誰かは諸説あるかもですね。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 約7万字で完結確約、筆者的には短編の括りかなあと。 R15は念の為・・