【完結】嘘八百侯爵令嬢の心を、無表情王太子は掴みたい

葉桜鹿乃

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3 初日の報告(※ランドルフ視点)

「はぁ……」

 一日の執務を終え、普段ならば湯浴みをして楽な格好に着替える所だが、今日からの1ヶ月間、私はもう一つの執務をこなさなければならない。

 『リリィクイン』と呼ばれる王太子妃候補から王太子妃に……つまり、私の妻になるべく女性を選ぶ必要がある。

 将来的に国母になる女性。自分の好き嫌いで選ぶものではなく、国を共に背負える女性、を選ばなければならない。

 私の周囲からの評判は、冷静で、冷徹。無表情で無感動。社交性に難は無い程度の作り笑いや会話術は心得ているが、自分でも感情は死んでいると思う。最悪、王太子妃というのは子供が産める腹があればいい、とも。

 国内情勢を鑑みて、16歳前後の令嬢がいる有力貴族の5家から候補を選んだ。ちょうど全員16歳で揃ったのは運がいい。この位若い方が、子を健康に、そして長くたくさん産んでくれる。

 我ながら女性を女性として見ていないのは酷い話だと思うが、厳しい教育と……優しいが病弱だった兄が亡くなってからは、余計に己の感情は廃して生きるようになった。

 これからもそれは変わらない。妻となる女性にも、王太子妃としての役割を求めるが、女性として自分を支えて欲しいという気持ちは一切ない。

 自室でデスクに座っていると、定時にノックの音がした。入るよう伝えると、5人の侍女が執事長と共に入ってくる。今日から、プライベートの時間を削って5人の報告を聞くこととなる。

「報告に参りました」

「では、フォンセイン公爵令嬢から」

「はい」

 そして、つまらない報告を聞く。相手の女性がどう過ごしていようと勝手だが、腹に何か抱えているような人間では隣において置けない。それに、あまりにワガママ過ぎても手に負えない。逆に、国の為なら、などという高い志も不要だ。

 フォンセイン公爵令嬢は離宮に到着するなり、宮内の全てを侍女に任せつつも全てを確認し、ねぎらいの言葉をかけたという。その後もお茶を飲みながら王宮内の構造を訪ね、どう動くべきかを側付きの侍女と相談したりと、合理的で冷静に過ごしたという。

 少し侍女に厳しい所もあるが、王太子妃としての振る舞いとしては充分に思える。

 次に、ノラ・コルクス伯爵令嬢。コルクス伯爵は王宮の侍従長の地位にある、爵位以上に『価値』のある女性だ。

 が、報告によればのほほんとしていて当たり障りはなく、宮や侍女たちの働きぶりを褒め、自分には不相応じゃないかしら、と初日から溜息をついていたらしい。少々不安に思うが、そのうち慣れるだろうというところか。

 イリア・レガリオ辺境伯令嬢。気性が激しいのか、ワガママに振舞うところがあるという。いきなり厩舎を案内して欲しい、と言われたらしいが、本日は宮に慣れて荷ほどきを、となんとか宥めたとか。

 辺境伯令嬢という事で軍事関係に興味があるのかもしれないが、どちらかというと自分の無茶にどこまで王宮側が応えてくれるのかを計っているようだともいう。お茶も何度か淹れ直させたらしい。自分の地位を確かめるのに侍女を使う、というのも、まぁ初日ならではだな。今後も続いて性質としてそのような場合は残念ながら振るい落とすしかない。

 そして、ユーグレイス・フォンゾ侯爵令嬢。初日から侍女に当たり散らし、宮が小さい、部屋数が少ない、パーティーは無いのか……、これはダメだろう。フォンゾ侯爵はこの国の特産品を出している領地を経営しているから令嬢を招いたが、今から明日のお茶会が不安になる。

 最後に、ソニア・ヘイドルム侯爵令嬢。彼女の家は国内有数の兵力を有している。というのも、彼女の祖母が隣国の姫だった為に、隣国からそのままついてきた兵の戦い方、兵法が独特であり、志願して領に入り、騎士団まで抱えている。騎士団の設立には国王の承認が必要だが、私兵をそこまで有させるのも体面上問題があるために騎士団を設立させ、大多数は騎士団所属という事になっているが、扱い方を間違えれば一番面倒なのはこの令嬢だ。

 が、報告を聞いて呆気にとられた。

「侍女の名前を全て覚えられ、その……粗相をした侍女に対しても優しい対応をされまして」

「一体何を?」

 初めて、令嬢の行動に対して聞き返した私に対して周りがざわつく。

「ティーポットを割って絨毯に紅茶を……火傷も怪我も無いので気にしなくていいと。それどころか、侍女を励ますために『紅茶を零して占いをする風習が昔はあった、この染みの広がり方はバラの花が咲くようで、幸先がいい標だわ』と……その、おばあ様からお聞きになった話だと言ってらっしゃいましたが……」

 間違いなく嘘だろう。私は思わず口許を片手で隠して噴き出すのを堪えた。

 その後は染み抜きを早くしないと絨毯の職人に申し訳ないからと、書斎に引っ込んで本を読んで過ごしたらしい。優しくて手が掛からないが、ちゃんと誰が呼ばれたのかは確認はしたらしい。抜け目も無い。

 私が笑いをこらえて小刻みに震えているのを不審がって室内に静寂が漂う。咳ばらいを一つしてなんとかごまかし、これから先も毎日報告をするようにと申し伝えた。『リリィクイン』はこうして観察されていることは知らされていないはずだが、そのうち聡い者は気付くだろう。が、初日の振る舞いが一番肝心だ。

 なので、私は一つだけ付け足した。

「ヘイドルム侯爵令嬢についてだが……」

「はい」

「目の前で、毎日どのタイミングでもいい……できればお茶会か晩餐の、私の目がある時に、自然に何か壊れるように仕込むように」

 つまらないばかりの王太子妃候補選出だと思っていたが、思わぬ楽しみを見つけたかもしれない。

 私の要求に、執事長も侍女も分からないというような顔をしていたが、どこまで嘘を吐きとおせるのか、どんな嘘を吐くのか、私は少しだけ楽しみになった。
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