【完結】嘘八百侯爵令嬢の心を、無表情王太子は掴みたい

葉桜鹿乃

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4 気のせいじゃなければ

 晩餐会、私は席はどこでもいいのだけれど、『リリィクイン』となると円形のテーブルで晩餐を摂る事になるらしい。

 今日はちょうど王太子殿下の正面で、内心「マジかよついてない」と思っていたのだが、今日はまだ何も壊れていない。このまま何も壊れずに終わって欲しい。

 前菜、スープ、サラダ、と進んで今日は魚がメインらしい。内陸で育ったので魚と言えば川魚だったので、少し楽しみにしながら待っていると、私のメインが目の前に並べられる前に給仕の侍女の手から皿が滑り落ちて……床に。

 ここであからさまにがっかりした顔をしては淑女失格だが、私は割と顔に出る方だと自覚している。一瞬、ほんの一瞬残念な顔をしてしまったのを王太子殿下に見られたらしい。微かに俯いて口許を手で隠していらっしゃる。呆れられたのだろう。

 しかし、他の方の前に並ぶ美味しそうなバターソテーの白身魚。それが私の前には無く、落とした給仕係は泣きそうな顔をしている。何人かのご令嬢が小さく笑っているのも見える。同時に、給仕係は申し訳ございませんと泣きそうな声でいいながら、どうしようどうしようとしゃがんで皿に魚を戻している。

「あら、ありがとうございます。お気遣いくださったのですね」

 私が王太子殿下に向って微笑んでそう御礼を言うと、王太子殿下はいつもの無表情に戻り、令嬢たちの笑い声もピタリと止まった。

「内陸の出ですので、魚料理をとても楽しみにしていましたの。ここに来てから毎日何かしらの物が私の前で壊れていたのですが、今日は魚の活きがよかったようでダメにしたのは食器ではなくお料理だけでしたわ。お料理は家畜の飼料に混ぜてくだされば結構。それに、手で拾えるくらい冷めている物ではなく、今から焼き立ての温かい魚料理を食べさせていただくことができるなんて光栄ですわ。料理されても活きがいいお魚ですもの、あつあつの状態で食べられるなんて幸運です」

 もはや嘘というよりこじつけだが、給仕の侍女がぽかんとし、王太子殿下の目くばせで一礼して落とした料理と皿を下げ、足元の料理の染みを他の侍女がその場で染み抜きしている。

「祖母に聞いたのですが、魚料理は切り身の場合一匹の魚を切り出して使われるそうですね。活きがいいお魚ですから、皆さまどうかお先にお食べになってください。一番活きがいい部分が私の所に来たのだと思うと、魚も楽しみにしていたのかもしれないと思って微笑ましいですわ」

「そうか、では先にいただこう。すぐ代わりの物が来るはずだ」

 王太子殿下がそう言って魚料理に手を付けたので、他の令嬢も手を付けた。うん、私はもう少ししたら焼き立ての魚のバターソテーが食べられる。

 しかし、王太子殿下、気のせいでなければ貴方やはり小刻みに揺れていませんか……?

 他の『リリィクイン』たちが「本当に活きがいいのですね、美味しいですわ」とか何とか言うたびに、少し震えが大きくなるような……?

 水を飲んで待っている間に、私の目の前に湯気をたてた白身魚のソテーが運ばれてくる。

 その頃には王太子殿下の震えも止まっていたので、他の方はデザートまでご歓談いただくとして、私もさっそくメインディッシュに取り掛かった。
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