9 / 20
9 ギスギスディスタンス
その日の晩餐から、酷い状況になってしまった。
私は内心泣きそうになりながら、かろうじて愛想笑いを浮かべていたけれど、とにかくメイベル様の猛攻が王太子殿下と他の『リリィクイン』を襲う。
「ノラ様の領地の特産品は珍しい果物だったかと思いますけれど、どのような物か教えていただけます?」
「まぁ、えぇと、そうねぇ、濃厚な甘さの果物ですよ。完熟する前に収穫すると、追熟するので遠方にも生のまま届けることができますわ」
「素晴らしいですわね。殿下、是非私その果物が食べてみたいです」
と、さり気なく相手の産地の特産品を把握しているアピールをして(ノラ様はおっとりした方なので出汁に使われていることが分かっていないようだった)、殿下に許可を取り、殿下からノラ様にいくつか送って貰えるかと声を掛けさせ。
「ユーグレイス様、少々マナーがおろそかになっておりませんこと? 食器の当たる音が先程から不愉快ですわ」
「な、なによ! 分かってるわ、少し手元がおぼつかなかったのよ!」
「いい訳の前に謝ってはいかがです? 皆さま不快に思っていらしてよ」
いえ、私は貴女の猛攻の方が不愉快です、とは言えず、かといっていつものように場を和ませるような言葉を差し挟む隙間もなく、成り行きをハラハラしながら見守る事となり。
今日はそんな状況だからか、殿下が笑っている所も観測できなかったし、私の周りで何かが壊れることもなかったのだけれど、いつも以上に心が休まらず、かなり精神的にダメージを喰らってしまった。
(む、無理……これが本来の『リリィクイン』だとしたら、あと3週間もここにいるなんて拷問……)
次の日も、またその明くる日も、お茶会も晩餐もギスギスした『社交の場』になってしまい、私としては和やかに過ごせるなら物ならいくらでも壊れてくれ(いや、職人の方には申し訳ないけれど)と思ったものの、空気を読んだのか、それとも使用人も慣れたのか何も壊れることはなくなり、私の口数も減っていった。
メイベル様は私に喋らせないようにしている。意図的に、私にだけ話を振らない。私も、漬け込ませるような隙は作らなかった。あの猛攻が私に向いてしまったらと思うと、本当に嫌になる。
「もう……いやよ、家に帰りたい……」
そんな日々が一週間程続き、晩餐の後の湯浴みを済ませてソファに座ってアリサに弱音を吐いた私は、かなりのストレスを抱えていたのだろう。
口に出した瞬間に涙がぽろりと零れてしまった。
「あら、あら……、お嬢様がお泣きになるのはいつ以来でしょうね」
「からかわないで。絶妙に私を孤立させながら、話す暇を与えず、話す空気も作れない。無力だわ……メイベル様が何か悪いことをしているなら窘められるけれど、あれは別に悪いことではないもの」
私にとって都合の悪いことではあるけれど、かといって、私に何ができるだろう。
「……逃げ」
「はい?」
今はケイたちは下がり、アリサと私だけが私室にいる。
私は一度出た涙を引っ込めて、坐った目で中空を見詰めて呟いた。
「夜逃げしましょう」
「はい?!」
私は内心泣きそうになりながら、かろうじて愛想笑いを浮かべていたけれど、とにかくメイベル様の猛攻が王太子殿下と他の『リリィクイン』を襲う。
「ノラ様の領地の特産品は珍しい果物だったかと思いますけれど、どのような物か教えていただけます?」
「まぁ、えぇと、そうねぇ、濃厚な甘さの果物ですよ。完熟する前に収穫すると、追熟するので遠方にも生のまま届けることができますわ」
「素晴らしいですわね。殿下、是非私その果物が食べてみたいです」
と、さり気なく相手の産地の特産品を把握しているアピールをして(ノラ様はおっとりした方なので出汁に使われていることが分かっていないようだった)、殿下に許可を取り、殿下からノラ様にいくつか送って貰えるかと声を掛けさせ。
「ユーグレイス様、少々マナーがおろそかになっておりませんこと? 食器の当たる音が先程から不愉快ですわ」
「な、なによ! 分かってるわ、少し手元がおぼつかなかったのよ!」
「いい訳の前に謝ってはいかがです? 皆さま不快に思っていらしてよ」
いえ、私は貴女の猛攻の方が不愉快です、とは言えず、かといっていつものように場を和ませるような言葉を差し挟む隙間もなく、成り行きをハラハラしながら見守る事となり。
今日はそんな状況だからか、殿下が笑っている所も観測できなかったし、私の周りで何かが壊れることもなかったのだけれど、いつも以上に心が休まらず、かなり精神的にダメージを喰らってしまった。
(む、無理……これが本来の『リリィクイン』だとしたら、あと3週間もここにいるなんて拷問……)
次の日も、またその明くる日も、お茶会も晩餐もギスギスした『社交の場』になってしまい、私としては和やかに過ごせるなら物ならいくらでも壊れてくれ(いや、職人の方には申し訳ないけれど)と思ったものの、空気を読んだのか、それとも使用人も慣れたのか何も壊れることはなくなり、私の口数も減っていった。
メイベル様は私に喋らせないようにしている。意図的に、私にだけ話を振らない。私も、漬け込ませるような隙は作らなかった。あの猛攻が私に向いてしまったらと思うと、本当に嫌になる。
「もう……いやよ、家に帰りたい……」
そんな日々が一週間程続き、晩餐の後の湯浴みを済ませてソファに座ってアリサに弱音を吐いた私は、かなりのストレスを抱えていたのだろう。
口に出した瞬間に涙がぽろりと零れてしまった。
「あら、あら……、お嬢様がお泣きになるのはいつ以来でしょうね」
「からかわないで。絶妙に私を孤立させながら、話す暇を与えず、話す空気も作れない。無力だわ……メイベル様が何か悪いことをしているなら窘められるけれど、あれは別に悪いことではないもの」
私にとって都合の悪いことではあるけれど、かといって、私に何ができるだろう。
「……逃げ」
「はい?」
今はケイたちは下がり、アリサと私だけが私室にいる。
私は一度出た涙を引っ込めて、坐った目で中空を見詰めて呟いた。
「夜逃げしましょう」
「はい?!」
あなたにおすすめの小説
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています
みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。
そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。
それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。
だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。
ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。
アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。
こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。
甘めな話になるのは20話以降です。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。