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11 月の下の瑠璃(※ランドルフ視点)
面白がってヘイドルム侯爵令嬢に喋るきっかけを与え過ぎたせいで、ここ最近はフォンセイン公爵令嬢が頭角を現してきた。
それはそれでよいことだ。国を想っていることも、社交性があることも充分に理解できる。が、きっとこれを邪魔するような真似をすれば、私がヘイドルム侯爵令嬢に多少入れ込んでいることも分かられてしまう。そのような不公平さを最も嫌うだろう彼女の怒りが私に向くのならばいいが、ヘイドルム侯爵令嬢に向いては溜まらないので、私は最初に出した指示……ヘイドルム侯爵令嬢の前で粗相を働くように、という指示を取り消させていた。
すると、ますますヘイドルム侯爵令嬢は喋る機会を失う。うまいことフォンセイン公爵令嬢はヘイドルム侯爵令嬢に喋る暇を与えず、それでいて出張りすぎということもないので私から何か注意することもできない。
ヘイドルム侯爵令嬢に付けた侍女の報告からも、彼女が日々気鬱になっているという報告があがってきている。
彼女の傍にいる人間は、本来ならば気持ちが和らぐはずだ。そういう魔法が常に漏れ出している、という報告は『リリィクイン』を選別する際にあがってきている。
フォンセイン公爵令嬢はその魔法の効果もあってか、ある程度物腰が柔らかくはある。ヘイドルム侯爵令嬢は居るだけで場を和ませているというのに、その本人が全く元気がないのでは本末転倒だ。
レガリオ辺境伯令嬢が誰を擁立したかはこちらには伝わっている。が、ヘイドルム侯爵令嬢はフォンセイン公爵令嬢と同じ土俵で戦う気がない……というより、同じ土俵にすら立てていない。
まさか私がいちいちヘイドルム侯爵令嬢の話に笑っているのに勘付かれたのだろうか? だとすれば、フォンセイン公爵令嬢は観察眼も含めて王太子妃に相応しい、と思う。そう、思うのだが。
(私情など挟むものではない、このままフォンセイン公爵令嬢が選ばれる、それが順当だろうに……)
そう、完璧な王太子妃となり得るだろう。多少他者に厳しい所もあるが、そこは若さもある。あの程度の気性の激しさというのは、育児をしていくうちに落ち着くものだとも聞く。
そんなことを考えながら今日の報告を聞き終え、ふと窓の外を見る。
私の執務室は王宮の本棟、最上階にある。父の執務室にも近い方が便がいいからだが、今日は満月のせいもあって城の前庭が仄かに明るく見えた。
そこを、侍女がついているとはいえ今まさに考えていたヘイドルム侯爵令嬢が歩いている。初夏に差し掛かる今の時分、夜風に当たるにしてもストールは要らないのだろう。白いほっそりとした腕が夜の中に浮いているように見えた。
その足取りがなんだか頼りなく、そして、今にも消えてしまいそうな気がして私は慌てて階下に降り、庭へ急いだ。ちょうど彼女は足を止めて月を見上げている。
そっと侍女を離れさせるが、こちらに気付く気配もない。
「帰りたい……」
そう呟いた彼女の声は最初の頃とは違って元気も何もなく、悲しみが溢れていた。
「辞退、したいのか?」
私の呟きに、月光に淡く白く浮かぶ顔が、瑠璃色の髪をなびかせて振り向く。驚いて丸くなった目は今日の満月にも似ていて、それでいて月ほどの力強さもない。
「い、いいえ、違います、殿下。あの……すみません、この場でどのように挨拶すればいいのか。少し、夜風に当たりに出てきまして」
「そうか。……リリィクインの誰かと二人で話す時間が取れていないが、明日より時間を設けようと思う。最初に、君を招きたい、ヘイドルム侯爵令嬢」
自分の口から、何も決まっているわけではないのに勝手にそのような予定がするりと出て来た。彼女の嘘吐きが私にも移ってしまったのだろうか。
だが、どうにかして彼女を引き留めたいと、こうして二人で話していたらどうしようもない思いがこみ上げてきた。
「……喜んで、ランドルフ殿下」
それが彼女の嘘なのか本心なのかは分からなかったが、月を背に微笑んだ彼女は、どの瑠璃よりも美しいと、胸の奥が苦しくなった。
それはそれでよいことだ。国を想っていることも、社交性があることも充分に理解できる。が、きっとこれを邪魔するような真似をすれば、私がヘイドルム侯爵令嬢に多少入れ込んでいることも分かられてしまう。そのような不公平さを最も嫌うだろう彼女の怒りが私に向くのならばいいが、ヘイドルム侯爵令嬢に向いては溜まらないので、私は最初に出した指示……ヘイドルム侯爵令嬢の前で粗相を働くように、という指示を取り消させていた。
すると、ますますヘイドルム侯爵令嬢は喋る機会を失う。うまいことフォンセイン公爵令嬢はヘイドルム侯爵令嬢に喋る暇を与えず、それでいて出張りすぎということもないので私から何か注意することもできない。
ヘイドルム侯爵令嬢に付けた侍女の報告からも、彼女が日々気鬱になっているという報告があがってきている。
彼女の傍にいる人間は、本来ならば気持ちが和らぐはずだ。そういう魔法が常に漏れ出している、という報告は『リリィクイン』を選別する際にあがってきている。
フォンセイン公爵令嬢はその魔法の効果もあってか、ある程度物腰が柔らかくはある。ヘイドルム侯爵令嬢は居るだけで場を和ませているというのに、その本人が全く元気がないのでは本末転倒だ。
レガリオ辺境伯令嬢が誰を擁立したかはこちらには伝わっている。が、ヘイドルム侯爵令嬢はフォンセイン公爵令嬢と同じ土俵で戦う気がない……というより、同じ土俵にすら立てていない。
まさか私がいちいちヘイドルム侯爵令嬢の話に笑っているのに勘付かれたのだろうか? だとすれば、フォンセイン公爵令嬢は観察眼も含めて王太子妃に相応しい、と思う。そう、思うのだが。
(私情など挟むものではない、このままフォンセイン公爵令嬢が選ばれる、それが順当だろうに……)
そう、完璧な王太子妃となり得るだろう。多少他者に厳しい所もあるが、そこは若さもある。あの程度の気性の激しさというのは、育児をしていくうちに落ち着くものだとも聞く。
そんなことを考えながら今日の報告を聞き終え、ふと窓の外を見る。
私の執務室は王宮の本棟、最上階にある。父の執務室にも近い方が便がいいからだが、今日は満月のせいもあって城の前庭が仄かに明るく見えた。
そこを、侍女がついているとはいえ今まさに考えていたヘイドルム侯爵令嬢が歩いている。初夏に差し掛かる今の時分、夜風に当たるにしてもストールは要らないのだろう。白いほっそりとした腕が夜の中に浮いているように見えた。
その足取りがなんだか頼りなく、そして、今にも消えてしまいそうな気がして私は慌てて階下に降り、庭へ急いだ。ちょうど彼女は足を止めて月を見上げている。
そっと侍女を離れさせるが、こちらに気付く気配もない。
「帰りたい……」
そう呟いた彼女の声は最初の頃とは違って元気も何もなく、悲しみが溢れていた。
「辞退、したいのか?」
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自分の口から、何も決まっているわけではないのに勝手にそのような予定がするりと出て来た。彼女の嘘吐きが私にも移ってしまったのだろうか。
だが、どうにかして彼女を引き留めたいと、こうして二人で話していたらどうしようもない思いがこみ上げてきた。
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