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12 嘘を吐きすぎた弊害
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殿下は残り二週間程の『リリィクイン』期間の間に、個別に会う時間を設ける、と言って最初の招待を私にした。
あの時、何故か殿下の無表情が、揺らいだように見えた。必死になって私を繋ぎ止めようとしているような、なんだか悲痛な顔に見えて……それは私の望む所ではない。
気のせいかもしれないけれど、私は、私の周りにいる人には笑っていて欲しい。
だから、微笑んで「喜んで」と答えてしまったものの……それをアリサに話して寝て起きたら、朝からケイたちも総出でピカピカに磨かれ、いつかかるか分からない招待を部屋でおとなしく待つことになった。
王太子殿下が忙しいのは分かっている。朝にはちゃんと「今後お茶の時間を個別に設けることにしました」という伝令もきたし、要は昼のお茶会が二人きりになるという事だ。
しかし、最初が私でいいのだろうか? メイベル様が仰っていたように、私は少しは気に入られているということなのだろうか。
この二週間、私は周りの令嬢と仲良く、平和に、平穏に交流し、大きな瑕疵を残すことなく、王太子妃に選ばれずに王宮を去ることばかり考えていたので、正直ランドルフ殿下のことは何も知らないに等しい。
なんというか、こう、周りの人の雰囲気や全体の空気にばかり気を配っていて、他人とちゃんと交流したのは、イリア様とメイベル様とくらいだ。ノラ様のことも、ユーグレイス様のことも、おっとりした方、だとか、少し感情的な方、という印象しかない。私はそういう人たちを前に、上手にやってきたつもりだった。
けれど、これまでの人生で嘘を吐きすぎてしまったのかもしれない。
うまくやっている、空気を和ませている、それが自分の気持ちの安寧に繋がる、という理由で私はずっと嘘を吐いて適当なことを言い、ちゃんと人と向き合うことをしなかった。
けれど、イリア様はご自分の気持ちを私に素直に話し、想いを託して帰っていかれた。
メイベル様は、正面から私をライバルとして扱い、頭角を現してきた。
私は嘘を吐いて、適当なことを言って、場を和ませる、それにばかり注力しすぎて、こうして正面から他者と向き合う機会というものをたくさん失って生きて来たのかもしれない。
そう考えると、今日のお茶会はとても気が重い。一体何を話せばいいのか、私の心のもやもやが晴れないのに思いつくはずもなく。
文字を目で追っているだけで内容の入ってこない旅行記を、溜息を吐いて閉じた私は、綺麗に身支度された髪やドレスが崩れないよう、ただただ本の表紙を眺めて、殿下とどう向き合えばいいのかを考える。
私は、ここを去りたいのか、それとも選ばれたいのかすら、今となっては自分で自分が分からなくなっていた。
あの時、何故か殿下の無表情が、揺らいだように見えた。必死になって私を繋ぎ止めようとしているような、なんだか悲痛な顔に見えて……それは私の望む所ではない。
気のせいかもしれないけれど、私は、私の周りにいる人には笑っていて欲しい。
だから、微笑んで「喜んで」と答えてしまったものの……それをアリサに話して寝て起きたら、朝からケイたちも総出でピカピカに磨かれ、いつかかるか分からない招待を部屋でおとなしく待つことになった。
王太子殿下が忙しいのは分かっている。朝にはちゃんと「今後お茶の時間を個別に設けることにしました」という伝令もきたし、要は昼のお茶会が二人きりになるという事だ。
しかし、最初が私でいいのだろうか? メイベル様が仰っていたように、私は少しは気に入られているということなのだろうか。
この二週間、私は周りの令嬢と仲良く、平和に、平穏に交流し、大きな瑕疵を残すことなく、王太子妃に選ばれずに王宮を去ることばかり考えていたので、正直ランドルフ殿下のことは何も知らないに等しい。
なんというか、こう、周りの人の雰囲気や全体の空気にばかり気を配っていて、他人とちゃんと交流したのは、イリア様とメイベル様とくらいだ。ノラ様のことも、ユーグレイス様のことも、おっとりした方、だとか、少し感情的な方、という印象しかない。私はそういう人たちを前に、上手にやってきたつもりだった。
けれど、これまでの人生で嘘を吐きすぎてしまったのかもしれない。
うまくやっている、空気を和ませている、それが自分の気持ちの安寧に繋がる、という理由で私はずっと嘘を吐いて適当なことを言い、ちゃんと人と向き合うことをしなかった。
けれど、イリア様はご自分の気持ちを私に素直に話し、想いを託して帰っていかれた。
メイベル様は、正面から私をライバルとして扱い、頭角を現してきた。
私は嘘を吐いて、適当なことを言って、場を和ませる、それにばかり注力しすぎて、こうして正面から他者と向き合う機会というものをたくさん失って生きて来たのかもしれない。
そう考えると、今日のお茶会はとても気が重い。一体何を話せばいいのか、私の心のもやもやが晴れないのに思いつくはずもなく。
文字を目で追っているだけで内容の入ってこない旅行記を、溜息を吐いて閉じた私は、綺麗に身支度された髪やドレスが崩れないよう、ただただ本の表紙を眺めて、殿下とどう向き合えばいいのかを考える。
私は、ここを去りたいのか、それとも選ばれたいのかすら、今となっては自分で自分が分からなくなっていた。
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