【完結】嘘八百侯爵令嬢の心を、無表情王太子は掴みたい

葉桜鹿乃

文字の大きさ
17 / 20

17 優しい魔法(※ランドルフ視点)

 その日の夜も恙なく報告を聞き終え、自室に戻って着替える時に、貰ったカフスボタンを箱に戻した。蓋は空けておいて、湯浴みを済ませて寝間着に着替え、ベッドサイドのチェストの上に置いておく。

 自分の瞳と同じ……そして、図らずも兄の瞳と同じ黒曜石のカフスボタンは、見ているだけで何か心が軽くなるような、そして、ずっと無意識に封じていた自分の心の閂をそっと外したようだった。

 沈み込むようなベッドに座ったまま、そのカフスボタンと、今日の会話を思い出す。兄のことを誰かと楽しく語る日がくるとは思っていなかったし、自分には必要がない物だとも思っていた。

 しかし、今日思い出した兄の姿は優しく穏やかで、最後に青白い顔で花に囲まれて埋葬された人形のような兄の姿ではなかった。今も、思い出せば優しく笑って本を読み聞かせてくれた兄の姿が胸の中にある。

 彼女の祖母の思い出話も、まるでその場にその人が居るように感じる話術で……ソニア嬢との会話に、そしてあの晩儚く見えた彼女の脆さと、それを正直に打ち明ける聡明さに、私の心はもう決まっているようなものだった。

 兄を思い出すのが辛かったのだと、今ならわかる。だが、それすら彼女は、優しい思い出に変えてしまった。

 私がいくら厳しく冷徹な王であったとしても、彼女に迎えられた時に恥ずかしいことだけはしないでいたい。

「馬鹿な……」

 自分の思考に思わず独り言が漏れた。確かに素晴らしい女性だが、これではまるで、もう心が決まっているかのようだった。

 彼女は選ばれても選ばれなくても、と言っていた。私は、そんな彼女を自分の感情だけで選ぼうとしている。

 国母に相応しいのは誰か、と問われれば、自分の感情を排すればフォンセイン公爵令嬢だろう。だが、能力面、子供を産める若さ、そして若さに対して自分を律する厳しさと自分の邪魔をしないでいてくれればいい、というだけの女性と一生を共にし、国を治めていけるのだろうか。

(国は……国民が居て、成り立つものだ。なのに、自分の伴侶となる人間を見ずに決めてどうする気だったのだろう)

 一番自分の身近にいる事になる伴侶を、人間としてではなく能力で計る気だった自分も、ソニア嬢と同じだ。何も見ていなかった。全く、気付かされることが多い女性だ。

 きっと彼女と私はとても似ている。そして、似ているからこそお互いに気遣い、それが周りに良い影響を与えていく気がする。

 黒曜石を見詰めながら、私の心は固まって行った。ソニア嬢を伴侶にしたいと。そして、ソニア嬢は選ばれるだけの素質があると。

 兄の瞳を見ているようなカフスボタンに、知らず目頭が熱くなる。

 亡くなった時も、その後の厳しい帝王学の教育の最中でも流した事のない涙が、自然に頬を伝っていく。

「……兄さん」

 カフスボタンは兄では無い。しかし、その面影を見る丸い黒曜石が、優しく微笑んだように思った。

 間違っていない、自信を持って進んでいいと背を押されたような気分だった。
感想 13

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ
恋愛
転生してざまぁする。 後日談もあり。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

【完結】チャンス到来! 返品不可だから義妹予定の方は最後までお世話宜しく

との
恋愛
予約半年待ちなど当たり前の人気が続いている高級レストランのラ・ぺルーズにどうしても行きたいと駄々を捏ねたのは、伯爵家令嬢アーシェ・ローゼンタールの十年来の婚約者で伯爵家二男デイビッド・キャンストル。 誕生日プレゼントだけ屋敷に届けろってど〜ゆ〜ことかなあ⋯⋯と思いつつレストランの予約を父親に譲ってその日はのんびりしていると、見たことのない美少女を連れてデイビッドが乗り込んできた。 「人が苦労して予約した店に義妹予定の子と行ったってどういうこと? しかも、おじさんが再婚するとか知らないし」 それがはじまりで⋯⋯豪放磊落と言えば聞こえはいいけれど、やんちゃ小僧がそのまま大人になったような祖父達のせいであちこちにできていた歪みからとんでもない事態に発展していく。 「マジかぁ! これもワシのせいじゃとは思わなんだ」 「⋯⋯わしが噂を補強しとった?」 「はい、間違いないですね」 最強の両親に守られて何の不安もなく婚約破棄してきます。 追伸⋯⋯最弱王が誰かは諸説あるかもですね。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 約7万字で完結確約、筆者的には短編の括りかなあと。 R15は念の為・・