愛想笑いの吸血鬼

いち

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ポワソン (4/4)

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 ……

 キッチンからさほど離れていない部屋に、大きなテーブルが置かれた大部屋があった。

 そこはリビングらしき場所で、フューネが運んでいるトレイには、焼いたパンと野菜スープ、サラダ、ラズベリーのデザートが乗っている。

 それに見とれるレブのお腹がまた鳴って、彼は顔を赤くした。

「はっ、またごめんなさい!」
「ふふ。ワインを持ってきましょう。先に腰かけて、召し上がっててください」

 木のダイニングテーブルにトレイを置き、フューネは闇の中へ行ってしまう。レブは先に椅子に座ると目の前に置かれた食事をじっと観察した。

 リビングも寝室同様、いくつかのロウソク台とフューネが暖炉をつけてくれたため明るい。

 揺れる火に照らされているスープは、レブの瞳にキラキラ光って映った。

「食べ物って、綺麗な色……」

 ぼーっと見とれている間に、フューネが戻ってきて、二つのグラスをテーブルに置くと持ってきたワインを注ぐ。

「さあ、冷めないうちにどうぞ」
「……いただきます!」

 待っていたレブを察してフューネが首を傾ける。レブは片手にパン、片手にスプーンを握り交互に口に運んでいった。

「ワインもどうぞ。お水もありますからね」
「ありがとう……!」

 レブの隣に腰かけたフューネは、片方のグラスをレブのトレイに寄せ、もう一つに口をつけた。

 それを見たレブが一旦手を止める。

「フューネはお酒は飲むんですね?」
「飲めないわけじゃないですね。味はしませんが気は紛れるので口に入れるようにしてます」
「そっか」

 レブを見ながらグラスを傾けるフューネの唇は、ワインに濡れて怪しく光っている。

「ああ、レブはお酒大丈夫でしたか? とりあえず注いでしまいましたが」
「えっと、実は初めて飲む……パンもあったかいスープも、久しぶりだし」
「血が薄いわけですねぇ」

 フューネはワイングラスを暖炉の火にかざし、ふうと息を吐く。

「血の味に影響するので、これからはしっかり食べましょうね」
「だけど、毎回こんなにいいものを食べるのは慣れてなくて」
「そのうち慣れますよ。餌の食事を作るのは私の仕事です」

 レブは、はっと顔を横に向けて眉間にシワを寄せた。

「そうだ。フューネにとって俺は餌なんですよね……」
「ですよ」

 少し間をおいて、パンをちいさくかじりながらレブは続ける。

「……ここには、俺が来る前にどのくらいの人が来たんですか?」

 無表情のままフューネはワインを一口飲むと椅子にもたれ掛かった。

「どれくらいでしょうね。逃げ出す人が多くて数えていないです」
「こんな森の奥で逃げる人居るんだ」
「森をぬける知識があるのか……あっ、ロンドに逃がされたこともありますよ」

 フューネはだらりとくつろいで窓の外に視線を移した。

「──レブも、嫌なら逃げて構わないですから」

「え?」

 フューネの寂しそうな声を聞いたレブは首を傾げる。

「どうして?」

 そんな言葉を呟いたレブを、フューネはクスクス笑った。

「私は嫌がる人間から無理やり血を吸いたくないんです」

「……優しいんですね」

 フューネはくつろいだまま、静かに燃える暖炉の火を眺めている。

 レブはその横で黙々と食べた。



 ……

 テーブルがロウソクに照らされ、広いリビングに浮かび上がっている。
 レブは食事をデザートまで完食して、フューネに勧められるまま二杯目のワインを飲んでいた。

「うー、なんか美味しく感じてきたかも」
「よかったです」

 ニコニコ顔のフューネが咳払いをして、徐々にレブの方に椅子を寄せる。

「さて、もう一度私もいいですかね?」
「……ん」

 酔って赤くなったレブの頬に長い指がつんと触れる。

「……」
「……レブ? 大丈夫ですか?」

 ぼーっとするレブはしばらく動かなかったが、やがて自ら唇をフューネに近づけた。

「俺だって、やれます……」
「レブ??」

 レブは眉間にシワを寄せながらフューネを見つめる。

 身じろぎするレブの奥でロウソクの炎が揺れた。

 握っていたワイングラスをフューネに奪われ、椅子に座っていた身体を軽々と持ち上げられると、レブはテーブルのふちに座る形になった。

「ん、もう。こんなのが良いの?」
「ふふ。私にとって御馳走です」

 ……

 やがて、ふにゃりと脱力したレブが倒れかかるのを、急いでフューネが立ち上がって受け止めた。

「一緒に休みましょう」

 そのまま放心したレブをフューネはぎゅっと抱きしめた。

 リビングにある格子状の窓ガラスの奥、輝く月が二人をぼんやりと照らしている。

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