14 / 17
ヴィアンド (4/5)
しおりを挟む
……
やがて空が暗くなる頃、唸りだした風と無数の雨音が屋敷に響いた。
突然の通り雨のせいで、見えるはずの満月は雨雲に隠れてしまっている。
その時、玄関扉が音もなく開いてそこからロンドが侵入した。
「すげえ雨だ。邪魔するぜ」
言いながら扉を閉めた後、ゴツゴツと重たいブーツの足音をエントランスに響かせながら、薄暗い屋敷を灯りもつけず進んでいく。
「……レブ君いるか?」
闇の中へ呟くが返事は返ってこない。
辺りを見回しながら寝室に向かうと、少し開いたドアの向こうでロウソクの灯が薄っすらと揺れた。
それを確認したロンドがニタリと笑った瞬間、近くに雷が落ちる。
同時に風が吹き抜け、廊下の明かりがいっせいに消えた瞬間、ロンドは壁へ突き飛ばされた。
「ぐっ?!」
「これで何度目でしょうね」
「飲まなかったのか」
ロンドの背後には二つの赤い瞳が暗闇に浮かび光っていた。
「……化け物め」
ロンドの喉にあてられた鋭いナイフは、首の太い動脈の上をなぞった。凍り付いたように息を止めた彼の後ろで、低い声が囁く。
「数年は顔を見せるな」
……
通り雨が降る数時間前のこと、レブはフューネを呼び止めていた。
フューネの手にはワインボトルがあり、机にグラスが2つ並んでいる。
「どうしました?」
「あ、あの……」
言い終える前に、レブの瞳がじわりと濡れる。
「……怖いのですか?」
フューネはワインを置いてレブの方へしゃがむ。静かに背中をさすっているうちに、レブは小さな声を出した。
「……そのワインを飲んだらだめ」
「何か、ありました?」
「ロンドが渡してきたんだ。銀が入ってるって言ってた」
それを聞いて眉をしかめたフューネが、机に置いていたワインボトルを睨んだ。
ゆっくりと立ち上がり、暖炉の火を反射する真新しい瓶を再び手に取るとコルクを抜いて鼻を近づける。
「……ロンドめ、小細工を」
「昼間に彼が来てた。黙っててごめん」
レブは謝って小さく背中を丸める。
「レブ」
フューネは普段通りの穏やか声で語りかける。
近づいて再びしゃがむと、レブの顔を覗き込んだ。
「ああ、そんなに目を擦らないで。傷がつきますよ」
「う……」
レブの細い手首を撫でると、濡れた頬からゆっくり離していく。
「レブ、謝るのは私の方です」
顔を伏せたフューネが呟く。
「今の私は……魔法で見た目を変えているんです」
「……?」
「あなたを騙していたのは私の方なのです」
濡れたレブの瞳が揺れている。
フューネは立ち上がって窓へ視線を向けた。
「レブが明かしてくれたように、私も魔法を解きましょう」
フューネは少しすると、ミシリと音を立てた。徐々に形の変わる耳は尖っていき、大きな身体は青白い血管が浮き出ていく。
爪は鋭く、荒い息をするフューネがレブに振り返ると、その目はより深紅に輝いていた。
「……!!」
その姿を前にしたレブは言葉に詰まった。
血管の浮き出た顔は美しいとは言えず、更に口の両端から覗く鋭い牙は獣のようだ。
いつも青白く滑らかな肌も、今は冷たい陶器の色をしている。
「これが私です」
泣き止んだレブが震えているのを見て、フューネは真っ赤な瞳を閉じる。
「逃げなさい」
「……え?」
「追いかけませんから」
フューネはレブに背を向けたままじっと動かなくなった。
涙を拭いたレブはゆっくりと足を進めて、フューネへと近づいた。
「……フューネ」
とん、とレブの手がフューネの広い背中に触れる。
「ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ」
「レブ、まだわかりませんか? この醜い姿が本当の私なのですよ」
「確かに見た目はちょっと怖いけど、同じ香りがするし」
「……」
「それに、ずっとずっと。フューネは俺を気づつけないようにしてくれてる」
レブは小さな手を動かし、そのままフューネに抱きついた。
「レ、レブ……?」
身体をびくりと震わせ、戸惑うフューネの声がする。それでもレブは背中に頭を当てて、ぎゅっと力を込めた。
「だから、俺。ここに居たい。もっと色んなフューネが見たい」
「けど……」
「フューネのこと、好きだよ」
静かな寝室で二人は互いに身を寄せた。
外では少し風がでてきたのか、ガタガタと窓ガラスが音を立て始めている。
じっとレブをみていたフューネは、ためらいながらも手のひらでレブの身体を触った。
「……ありがとう」
フューネの言葉に、レブは自分の腰に当てられたフューネの手の甲を握る。
驚きつつもその手を嬉しそうに見るフューネは、赤い瞳を細めた。
「レブは暖かいです」
言いながら目を閉じて、ぎゅっとレブを抱きしめ返した。
「もうじき日が沈む……早速、レブが欲しいところですが、その前に一言ロンドに伝えるとしましょう」
「ん。会うの?」
「ええ、少しだけ」
首を傾げるレブに優しい笑みを浮かべたフューネは、レブの頭をぽんぽんと撫でる。
やがて空が暗くなる頃、唸りだした風と無数の雨音が屋敷に響いた。
突然の通り雨のせいで、見えるはずの満月は雨雲に隠れてしまっている。
その時、玄関扉が音もなく開いてそこからロンドが侵入した。
「すげえ雨だ。邪魔するぜ」
言いながら扉を閉めた後、ゴツゴツと重たいブーツの足音をエントランスに響かせながら、薄暗い屋敷を灯りもつけず進んでいく。
「……レブ君いるか?」
闇の中へ呟くが返事は返ってこない。
辺りを見回しながら寝室に向かうと、少し開いたドアの向こうでロウソクの灯が薄っすらと揺れた。
それを確認したロンドがニタリと笑った瞬間、近くに雷が落ちる。
同時に風が吹き抜け、廊下の明かりがいっせいに消えた瞬間、ロンドは壁へ突き飛ばされた。
「ぐっ?!」
「これで何度目でしょうね」
「飲まなかったのか」
ロンドの背後には二つの赤い瞳が暗闇に浮かび光っていた。
「……化け物め」
ロンドの喉にあてられた鋭いナイフは、首の太い動脈の上をなぞった。凍り付いたように息を止めた彼の後ろで、低い声が囁く。
「数年は顔を見せるな」
……
通り雨が降る数時間前のこと、レブはフューネを呼び止めていた。
フューネの手にはワインボトルがあり、机にグラスが2つ並んでいる。
「どうしました?」
「あ、あの……」
言い終える前に、レブの瞳がじわりと濡れる。
「……怖いのですか?」
フューネはワインを置いてレブの方へしゃがむ。静かに背中をさすっているうちに、レブは小さな声を出した。
「……そのワインを飲んだらだめ」
「何か、ありました?」
「ロンドが渡してきたんだ。銀が入ってるって言ってた」
それを聞いて眉をしかめたフューネが、机に置いていたワインボトルを睨んだ。
ゆっくりと立ち上がり、暖炉の火を反射する真新しい瓶を再び手に取るとコルクを抜いて鼻を近づける。
「……ロンドめ、小細工を」
「昼間に彼が来てた。黙っててごめん」
レブは謝って小さく背中を丸める。
「レブ」
フューネは普段通りの穏やか声で語りかける。
近づいて再びしゃがむと、レブの顔を覗き込んだ。
「ああ、そんなに目を擦らないで。傷がつきますよ」
「う……」
レブの細い手首を撫でると、濡れた頬からゆっくり離していく。
「レブ、謝るのは私の方です」
顔を伏せたフューネが呟く。
「今の私は……魔法で見た目を変えているんです」
「……?」
「あなたを騙していたのは私の方なのです」
濡れたレブの瞳が揺れている。
フューネは立ち上がって窓へ視線を向けた。
「レブが明かしてくれたように、私も魔法を解きましょう」
フューネは少しすると、ミシリと音を立てた。徐々に形の変わる耳は尖っていき、大きな身体は青白い血管が浮き出ていく。
爪は鋭く、荒い息をするフューネがレブに振り返ると、その目はより深紅に輝いていた。
「……!!」
その姿を前にしたレブは言葉に詰まった。
血管の浮き出た顔は美しいとは言えず、更に口の両端から覗く鋭い牙は獣のようだ。
いつも青白く滑らかな肌も、今は冷たい陶器の色をしている。
「これが私です」
泣き止んだレブが震えているのを見て、フューネは真っ赤な瞳を閉じる。
「逃げなさい」
「……え?」
「追いかけませんから」
フューネはレブに背を向けたままじっと動かなくなった。
涙を拭いたレブはゆっくりと足を進めて、フューネへと近づいた。
「……フューネ」
とん、とレブの手がフューネの広い背中に触れる。
「ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ」
「レブ、まだわかりませんか? この醜い姿が本当の私なのですよ」
「確かに見た目はちょっと怖いけど、同じ香りがするし」
「……」
「それに、ずっとずっと。フューネは俺を気づつけないようにしてくれてる」
レブは小さな手を動かし、そのままフューネに抱きついた。
「レ、レブ……?」
身体をびくりと震わせ、戸惑うフューネの声がする。それでもレブは背中に頭を当てて、ぎゅっと力を込めた。
「だから、俺。ここに居たい。もっと色んなフューネが見たい」
「けど……」
「フューネのこと、好きだよ」
静かな寝室で二人は互いに身を寄せた。
外では少し風がでてきたのか、ガタガタと窓ガラスが音を立て始めている。
じっとレブをみていたフューネは、ためらいながらも手のひらでレブの身体を触った。
「……ありがとう」
フューネの言葉に、レブは自分の腰に当てられたフューネの手の甲を握る。
驚きつつもその手を嬉しそうに見るフューネは、赤い瞳を細めた。
「レブは暖かいです」
言いながら目を閉じて、ぎゅっとレブを抱きしめ返した。
「もうじき日が沈む……早速、レブが欲しいところですが、その前に一言ロンドに伝えるとしましょう」
「ん。会うの?」
「ええ、少しだけ」
首を傾げるレブに優しい笑みを浮かべたフューネは、レブの頭をぽんぽんと撫でる。
0
あなたにおすすめの小説
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
恋が始まる日
一ノ瀬麻紀
BL
幼い頃から決められていた結婚だから仕方がないけど、夫は僕のことを好きなのだろうか……。
だから僕は夫に「僕のどんな所が好き?」って聞いてみたくなったんだ。
オメガバースです。
アルファ×オメガの歳の差夫夫のお話。
ツイノベで書いたお話を少し直して載せました。
【短編】【完結】王子様の婚約者は狼
天田れおぽん
BL
サティ王子はクルクルした天然パーマな茶髪が可愛い18歳。婚約者のレアンは狼獣人で、子供の頃は子犬のように愛くるしかったのに、18歳となった今はマッチョでかっこよくなっちゃった。
「レアンのこと大好きだから守りたい。キミは信じてくれないかもしれないけれど……」
レアン(すでにオレは、貴方しか見ていませんが?)
ちょっと小柄なカワイイ系王子サティと、美しく無口なゴツイ系婚約者レアンの恋物語。
o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。
ノベルバにも掲載中☆ボイスノベルがあります。
不器用なαと素直になれないΩ
万里
BL
美術大学に通う映画監督志望の碧人(あおと)は、珍しい男性Ωであり、その整った容姿から服飾科のモデルを頼まれることが多かった。ある日、撮影で写真学科の十和(とわ)と出会う。
十和は寡黙で近寄りがたい雰囲気を持ち、撮影中もぶっきらぼうな指示を出すが、その真剣な眼差しは碧人をただの「綺麗なモデル」としてではなく、一人の人間として捉えていた。碧人はその視線に強く心を揺さぶられる。
従順で可愛げがあるとされるΩ像に反発し、自分の意思で生きようとする碧人。そんな彼の反抗的な態度を十和は「悪くない」と認め、シャッターを切る。その瞬間、碧人の胸には歓喜と焦燥が入り混じった感情が走る。
撮影後、十和は碧人に写真を見せようとするが、碧人は素直になれず「どうでもいい」と答えてしまう。しかし十和は「素直じゃねえな」と呟き、碧人の本質を見抜いているように感じさせる。そのことに碧人は動揺し、彼への特別な感情を意識し始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる