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因縁

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ディーファン公爵家が興るきっかけとなった他国の姫君の降嫁する際は、ティアム家を含むすべての公爵家には釣り合う年齢の男子がおらず、未婚の者といえばティアム家当主の弟であった当時五十五歳だった引退将軍だけであり、そんなところへ十五歳の王女を嫁がせるわけにはいかなかったと聞いている。
もっともディーファン家の嫡男も二十五歳ながら婚約者もおらず、それならば逆に五歳年下の少年が婚約者でもよかろうという話も持ち上がっていた。
「では十歳の公子と婚約したとして、彼の者と婚姻が可能となるのは八年後……では、わたくしの婚姻する年齢はいくつになりましょうや?」
姫君がなめらかなダンガフ語で穏やかに尋ねた時、最も強く少年を推していた父親のティアム家当主を含め、王や重臣は誰ひとりとして言葉を返せなかった。
姫君の意向ばかりに添うことは外交上ありえなかったが、他国の姫を二十三という明らかに晩婚期まで──たとえ女子と同じく十六で婚姻できると今から法律を変えて、その結果婚姻式が二年縮まったとしても、やはり適齢期より遅いというのに──放置するということはその国の王家への侮辱であり、もたらされるはずの和平と繁栄の礎を自ら放棄することを意味する。
かくしてディーファン家嫡男である当時の王妃の弟君と王女の婚姻は、半年の婚約期間という名の結婚式の準備期間だけを経て為され、実は姫の一目惚れだったという結婚生活は長い繁栄を今なおこのダンガフ王国とディーファン公爵家にもたらしていた。

「……それがいまだに我が家に未婚の嫡男がいなければ、そしてルエナがいなければ……と言い続け、その意趣返しとして、シーナ嬢まで巻き込んだのか?」
それにしては手が込み過ぎている部分と杜撰過ぎる部分とがある。
茶葉の件に関しては、確実にルエナの思考力と判断力を奪い、本人に行き過ぎた選民意識を刷り込むということをしておいて──その後は?
シーナ嬢が王太子と仲が良いというのは事実ではあるが、一方で秘かに囁かれる『すでに肉体的交際に発展している』という噂は絶対にありえないが、何故かそれを利用して害する意味は?
しかもディーファン公爵家の屋敷は王都内や領地にあるため、今回の騒ぎの犯人であるサラやそれ以前の女家庭教師のように手の者をどうにかして潜り込ませることはできたとしても、学園内ではそうそう大人の手は伸ばせないものだ。
とはいえ──シーナ嬢が階段から突き落とされそうになった事件のように『低位貴族家の使用人の娘』という足のつきにくい平民を利用するなど、余計な知恵を付けた大人がいるに違いない。
サラに関しても茶葉を用意した者は知らず、それを持ってきた者に関しては心当たりがあるのかもしれないが、捕まえた侵入者はシーナ嬢の姿かたちは知っていても、あの小屋に閉じ込められているのが彼女以外ならばそれは「どこかの貴族の娘だから、凌辱して殺して来い」という依頼を犯罪組織のボスの子分のさらにその下子分のさらに子飼いの連絡係から聞いただけで、本当の雇い主を知らないという始末だ。
成人したばかりのアルベールでは人脈はまだ若すぎて使えないという荷が重すぎる事態に、どこまで両親に話して協力を得ればいいかと頭を悩ませる。


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