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嫌悪

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「っていうか……そんな法があるとしても、一体何歳からそんな非道なことしてんの?アホなの?あんたの兄貴って」
「反論はしない。アホで外道で下劣だ」
イストフがキッパリと肯定する。


実は同じようなことを、イストフ自身もされていた──兄が十五の誕生日を迎えたその日に。
「お前もいずれヤルことだ!ちゃぁんと見ておけよ!」
ゲラゲラ笑いながらそう言い放った兄は成年前だというのに薄く割った酒を煽り、どこで知り合ったのか母によく似た綺麗な娼婦を自分の寝室に連れ込んでいた。
弟を呼んで来いと命令された一番順位が下の従僕は兄と同い年だったが、イストフと共に妙に甘ったるい香を焚き込めた兄の部屋に待機させられ、まだ体の出来上がり切っていない少年が二十代半ばぐらいのその娼婦と絡み合うのを見せつけられた。

それは醜悪で、魅惑的で、下品で、煽情的だった。

「ハハハハ───ッ!!イイぞぉ!さすがに我が婚約者にココまでは見せられないからな……あいつには女が気持ちヨガってうっとりしてるところだけ……その方が、破瓜の痛みに絶望するだろう?なぁ?」
「ふふっ……そうよぉ。上半身は気持ちイイことしかされてないのに、下半身にはまったく愛撫を与えずに引き裂かれる痛みを与えるの……その時は絶対、アタシを呼んでちょうだいね?ああっ!あの可愛い天使のような顔が歪む……想像しただけでぇ……あぁぁんっ!!」
どうしようもなく下劣な嗜好をしているのは兄だけでなく、少年と交わることすら忌避しないその娼婦も同類だった。
ひょっとしたらこれが初めてではないのかもしれない──十歳の少年にはその時よくわからなかったが、自分自身も十三歳になり閨知識を与えられたその夜に変化を遂げた時、寝そべる兄の上を跨いだ女が身体を落した後から腰を上下から円を描くように動かすその意味を知り、そしてあのふたりがニタニタと笑っていた意味を知る。


「不愉快な思いをしたのは彼女だけじゃない……いや、俺だって相当嫌な思い出だが、それはどうにか乗り越えた。だから今の俺の目標は、兄のそんなバカげた計画はぶっ潰すことに決めた。彼女が感じた気味悪さはきっと正しい。そしてそんな嫌な記憶のある場所から……連れ出したい」
十二歳でプレデビューとなる伯爵令嬢はエビフェールクス辺境侯爵家に輿入れはするが、正式に夫婦となるのは彼女が十六歳になってからだ。

だがそれが守られるだろうか?

出産が十七歳以降であれば、いつ若夫婦が初夜を迎えたかなどきっと父たちは気にもしすまい。
むしろ──
「むしろ十三歳の弟に男女の営みを見せつけるような醜悪趣味の持ち主なら、さらに幼い少女を甚振ろうと待ち構えていてもおかしくはないわ……もういっそのこと、ルエナ様とリオンを連れて乗り込まない?アル」
「……問題がだんだん複雑になってる気がするのは、俺の気のせいか?」
ここにきてシーナとイストフは『少女奪還作戦』を共謀し始めた気がして、アルベールは溜め息をついた。


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