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昼食・1

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ルエナにとっては『喧嘩腰』という言葉自体が未知すぎて聞き返したに過ぎないとわかり、リオンがわかりやすく『偉そうに突っかかり、相手をねじ伏せるような口調や命令するような態度で話さないこと』と砕いて説明し、ようやく理解を得た。
「そう……ですわね……わたくしの言い方……ひどいですものね……」
「いっ、いやっ……」
これが本来のルエナ嬢の性格だったのだろうか──リオンから窘められたと受け取ったルエナは、反論どころか『 (´・ω・`)ショボン…』 という絵文字に変換できそうな顔つきであからさまに落ち込んだ。
今まで差し向かいで会ってもほとんど口も利かず、たとえ夜会でエスコートしてもこちらには一瞥もくれずにわずかな微笑みでほぼ無言を貫いてきた婚約者のあまりの変わりように、リオンの方が慌ててしまう。

それにまだ、一番大切なことが残っている。

「……その、あなたには態度を改めて、シーナ嬢に接してもらうということもあるのだが……」
「シーナ様?シオン様?あの……わたくし、どちらであの方をお呼びすればよいのでしょうか?」

訂正。
大切なことは、ふたつだった。


シーナが気絶から睡眠へと移ったその時間は二時間ほどだったが、おかげで今日の昼食を逃してしまった。
「……今日のランチは何だったんだろー」
ぐぎゅぅ…と乙女らしくない腹音が鳴ってしまったが、とりあえずは気にしない。
むしろ気にしたのはアルベールの方だった。
「うん?我が家の厨房から弁当をもらってはいないのか?」
「え?いやいやいや!そこまで迷惑はかけられないって!……少しはさ『自分のために使いなさい』って、伯父…じゃなかった。お義父様がお小遣いくれてるから。たぶん服とかオシャレに使えってことだと思うんだけど……まあそれは自分で稼いだお金を少し持ってきているから」
「しかし……」
アルベールは渋るが、何せ前世ではまともに高校生生活を楽しめなかった『詩音』としては、家にずっと引き籠りだったかわりに学生食堂など楽しみで仕方がない。
さすがに毎日食堂で食べられるほど裕福ではないが、限られた小遣いでやりくりするのも楽しいものだ。
しかしアルベールとしてはディーファン公爵家にシーナを匿っている以上、家名にかけて衣食住に不足を覚えるようなことはできないという自負がある。
かくしてふたりの主張は平行線を辿り、譲り合うにはいたらない。

ぐぎゅぅ。

だがシーナ嬢の健康的過ぎる肉体は可及的速やかなエネルギー補給を要求しており、それ故に今日のメニューを吟味し損ねたことが恨めしい。
「くっ……いいわよね、アルは……公爵令息だもの、きっと食堂でも高額メニュー食べ放題よねっ」
「え?いや、俺が在学中は……その、面倒で」
「は?」
「食堂の時間は学年もクラスも関係ないからな……積極的な令嬢たちから突撃されることが多くて、食堂は入学してすぐから遠慮するようにしたんだ。我が家の料理長の腕はなかなかだろう?」
「あー…うん、まあね……毎日美味しくいただいてるわ?おかげで実家に戻った時に、自分で作る料理に自信が無くなりそう」
「いやシオンの作るサンドイッチも十分うま……いや、その、これ」
簡易的でよいので公爵家から弁当を届けるようにと伝え、先ほど届いた籠を差し出すと、アルベールからその手元へ、そしてまた顔へと視線を戻したシーナの目はキラキラと輝いていた。


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