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未知

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刺激臭に慣れていないこの世界の人たちが咳き込みや目を拭う動作を収めた頃、シーナはリオン王太子の横ではなく別の一人用ソファに座って特製のハーブティーを人数分淹れる。
「フルール小母様……えぇと、ディーファン公爵夫人から聞いていたんだけど……本当にここではミントは虫除けとかちょっとした香りづけにしか使わないからって……いろんな種類を集めていらっしゃったからその香りとか強さの違うエッセンスをオイルを分けていただいたの。それでその……アンモニウムも、少し」
「ああ、お前ソッチ系強かったもんなぁ……でも、メントール入れたら、アンモニウム臭も多少は和らぐか……」
ふむふむとリオンが納得したように頷いているのを、ルエナがポカンと見つめる。
それは彼女だけでなくイストフも同じで、王太子が専門知識のある博士のように理解しているのを疑問に思ったことを隠そうともしない。
「で、殿下……?一体何を……?」
「ん?ああ、これはアロマセラピーの応用で……」
「あ、あろま?せらぴぃ?」
詩音や凛音の世界では当たり前のように使われていたフラワーエッセンスはこの世界ではまだ芳香剤という役目がまだまだ主流で、香りが立つほどの生花をお湯に浮かべて入浴する貴族はいるが、平民にとってはそんな贅沢は夢のまた夢で、その花々を何百と使って蒸気抽出するフラワーエッセンスなど高価すぎて「妻の買い物に口は出さない」と金持ちアピールを欠かさない高位貴族の間でも小切手にサインをするのを躊躇うほどだ。
それに比べればミントやタイムなどは花ではなくその葉が原料のため、逆に加工などせずにそのまま使われるので子供たちが摘みに行って小遣い稼ぎをする『下手物』扱いで、高位貴族たちにとっては取るに足らない物としてその存在すら知らない者も多い。
ただしルエナやアルベールの母はさすがに『緑の指を持つ魔女』だけあって植物に対する興味が尽きず、そんな雑草ですら幾種類もの違いがあるのに気付いて栽培していたのである。
「おかげで恥をかかずに淑女が持つにふさわしい気付け薬を持つことができたし、これを国中に広めればミント系の入浴剤もできるかも……ね?って?うん?」
「え……?む、虫除けを使う……?う、嘘だろう………?」
突拍子もない『前世での記憶』に基づく発言に慣れているアルベールですら眉を上げてしまったのだから、イストフたちが声を上げるのも無理はない。
ルエナに至っては声を上げるどころか、そんな発想を気楽に言うシーナに対して嫌悪感を滲ませた視線を一瞬だけ向けてから顔を背けた。


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