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脇役・2

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前世ではごく平凡な家庭で、それよりも少しばかりお金に不自由するような家庭だった。
家族みんなそれなりに仲が良かったはずだが、それぞれ何か役を演じているかのように仮面をかぶっている気がしていた。

父は母にゾッコンで、娘ふたりをそこそこ可愛がってくれたが「本当は男の子が欲しかったんだよ」と零した。
母はそれなりに美人で、結婚前も後もモテる父の関心を得ているのがご自慢で、ご近所でも「美人さんだねぇ」という評判は聞いても「気立てが良い」とは言われる人ではなかった。
二歳年下の妹はお飾り人形のように母の命令だけを聞かされるじぶんを「要領が悪い」と薄ら笑いながら、自分はちゃっかり母のお気に入りになって好き放題していた。

だからといって何か積極的に家族に向かって反抗しようと思ったことはなく、やはり母に言われるがままに「世間を知るため」に祖父母が半分引退しつつ経営していたコンビニを手伝うことにした。
部活動も参加していなかったから、ゴールデンウィークも夏休みも乞われるままにバイトに入っていたら、いつの間にか祖母が「おねえちゃんに後を継いでもらおうかねぇ」と言い出したのを本気にしたのがいけなかったのだろうか?
高校生が得るにはまあまあ大金といえるぐらいの給料をもらうことになり、母から高校の授業料はそれで賄うようにと宣言された。
以前から「生活が苦しい」と聞いていたために素直に従ったが、卒業後に妹に話したら「親の目の届くところでバイトなんかするからよ」と嗤われた。
そんな妹は授業料どころか通学費も修学旅行のための積立費も昼食代も自分で捻出していた姉を見習って・・・・、そこそこ忙しい運動部に入って活動しているように見せかけてこっそりバイトをし、愚かな姉とは違って学費に回すことなく自分の小遣いにしていたのである。
それを知ったのは、祖父母からコンビニを継がされることなく放り出されてしまったために就職した企業で二十連勤という激務をようやく終えて、短大生とキャバクラ嬢の二足わらじとなった妹と飲んでいる時だった。
「だからおねえちゃんは要領悪いっていうのよ!母さんたち、あの頃の月収六十万よ?娘にお金かけるより、自分たちで使う方を優先させるような人だったんだから!」

衝撃だった。

血の気も引いた。
ついでに眩暈もした。
ようやく正社員になれたことを報告してしばらくして「月五万でもいいから仕送りしてくれ」と言われて、二十二万の月給の中から毎月七万円を振り込でいたから。
しかも父も母もいまだに嘱託勤務やパートぐらいはしているらしく、ふたり合わせて三十万ほど収入があるらしい。
そして娘たちからも仕送りさせて──

搾取されるだけの人生。
こんなのが、続くのか、これからも────

悪酔いした頭は上手く回らず、その後の会話も、いつ店を出たのかも、そして妹と何と言って別れたのかも覚えていない。
まるで目を瞑ったままだったかのように暗闇の中を移動し、身体が千切れるような衝動があって──そこから赤ん坊に転生するまでの記憶はなかった。


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