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病的に痩せ細って何にも興味を示さず無表情で薄い笑みしか浮かべなかったルエナ・リル・ディーファン。
追従を許さぬ非才さとカリスマ性で同年代の貴族子息令嬢を惹きつけるリオン・シュタイン・ダンガフ。
市井で生まれ育ちながらも気品と美しいピンクブロンドの髪と可愛らしい面立ちのシーナ・ティア・オイン。
そしてまるで枯れ木のような公爵令嬢が王太子ので婚約者であることに苛立ち、突然現れた子爵令嬢に恋焦がれながらも彼女が王太子妃になることを受け入れるつもりだったイストフ・シュラー・エビフェールクス。

実際のところ、それは幻想だった。

ディーファン公爵令嬢であるルエナは何者かに故意に薬物と害意ある認識を与えられた操り人形だったが、その心身を蝕んでいた影響が排除され結果、同年代では国内で競える者はないと言われるほどの美貌の持ち主だと判明した。
ダンガフ王国第一王子であるリオン王太子殿下は死ぬほどルエナが好きで、側に侍らせた子爵令嬢にわずかでも心を傾けたことはなく、むしろ彼女とは泥んこになって遊びまわるような幼馴染みであり、女という認識すら持っていない。
そして貴賤を越えた尊い愛のお相手と囁かれていたオイン子爵令嬢シーナはリオンをも凌駕するのではないかと思えるほどのルエナ愛に溢れ、むしろ彼女の横にあることこそ至福と言わんばかりにスケッチブックに様々な令嬢を描きつけている。
そして辺境侯爵家次男であるイストフは──あの熱に浮かされたようなシーナへの恋慕を潮が引くように忘れ、なぜ彼女にあんなにも心が捕らわれていたのかと不思議に思っていた。

状況が変わったのは、この場にいる四人だけではない。

イストフ以外の学園内における王太子側近であったディディエ・ファーケン・ムスタフ、ベレフォン・ジュスト・ダンビューラとルイフェン・クウェンティ・ダンビューラ兄弟、そしてジェラウス・クーラン・クリシュアは現在それぞれの家や領地で謹慎させられている。
その原因はまさしく円卓に着くイストフの左隣にいるシーナ嬢なのだが、そうだとしても見せつけるようにルエナ嬢をエスコートした王太子に対して「シーナ嬢への裏切り行為だ」と憤り、勝手に傷つけられたと思い込んでシーナ嬢を軟禁して自分たちが『慰めて』やろうと行動した自分たちの愚かさの結果だ。
幸いにもイストフはシーナ嬢の護衛についていたルエナ嬢の兄アルベール・ラダ・ディーファン公爵令息に負けて頭を垂れたことで、首の皮一枚繋がった状態で謹慎を免れたのである。
代わりにたまたまその場にいてシーナたちを助けたクールファニー男爵令息のリオネル・ドゥーファンとリュシアン・ラオネス兄弟が臨時に学園内側近のような立場にあるが、下位貴族である彼らは将来的に官僚にはなれても側近という道はないということで、結局は『友人枠』的にイストフが側につくことが許された。


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