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未知

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前世にあった『ご馳走』を再現してもらってはいるが、リオンが予想したようにやはりこの世界では日本にあったスタイルの料理はほとんどなく、王室付きの料理人を呼んで作ってもらったものである。
可哀想なことに呼びつけられた料理長は自分が何か粗相をしたために懲罰を受けるのではと怯えていたが、彼らにとって目新しい料理を教えると、涙を溢さんばかりに喜んでくれたからまあ良しとした。
むしろ厨房に立ったことがないはずの王太子が分量どころか、お菓子にわずかに加えられるスパイスまでも知っていることを怪訝に思われたりはしたが、そこは「異国の絵が描いてある本を見つけて、解読したかったので勉強したら料理の本だった」と強引に説得した。
それでちゃんと騙されてくれたのかどうかはわからないが、とりあえず『博識な王太子の言う通り』に作られたのが、目の前のお菓子や軽食の類である。
それはこの世界での基準において贅沢の極みと言われるほどの出来栄えと味で、たぶん似たような物はあるのだろうが、『パンを焼くのに砂糖を入れる』だとか『バターにからしを混ぜる』だとか『酢と卵と油を混ぜる』だとか、ちょっとしたコツや料理方法に目を剥かれてしまった。
「……まあ、僕が元祖ってわけじゃないけどね」
「何かおっしゃいまして?」
焼きたてを冷まさないように焼石を下に置いたプレートから温かいマフィンを手にしたルエナは、ボソボソと呟くリオンに目を向ける。
「あぁ…いや、何でもないよ。あ、そのお菓子はこう2つに割って……」
「え?」
「ほら、このクリームとジャムを塗ると美味しいよ」
「クリームと、ジャム……を……?」
何という贅沢な食べ方か。
しかも新鮮な牛乳を撹拌して作る生クリームとは違って、何やらもったりとしている。
だがその固さはバターよりもずっと柔らかく温かいスコーンの上で少し緩んで、さらにその上に乗せたジャムを受けとめて見るからに食欲がそそられる。
そしてルエナは生まれてからこれまでそうなったことのない『食べたい』という欲求に素直に従って、ひと口で食べきるには少し大きい焼き菓子に歯を立てた。
「ンンッ……」
普通は一度に口に入れなければ行儀が悪いのに、そんなことを気にすることもなくリオンが半分ほどだけ食べたのを真似たルエナは、思わず目を丸くした。

塩味の利いたバターとは違う軽さは確かにクリーム独特ではあるが、だが味の濃さはクリームとは少し違う。
果物を煮ただけではなく砂糖を加えられたジャムは何故かトロリとしてクリームに沈み込んでいるが、クリームに加えられた塩味のおかげでさらにその甘さが際立ってとろけるような幸せをもたらしてくれた。
どちらもとても新鮮なのだろう──大きく溜息をつくと知らずに「ああ…」と呟きが漏れる。

「この食べ方を、君が気に入ってくれると嬉しいな」
ふっと笑ってリオンが見つけてくれたが、その口の周りにはジャムとクリームが纏わりついて、せっかくの格好つけが台無しだった。


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