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聖夜

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シーナは実父と義父──実父の兄であり、血の繋がった伯父というのが正確な関係なのだけど──と一緒に、この子爵邸では先代のオイン子爵夫人がいた頃に開催した夜会のようなご馳走を前にしていた。

普通は社交のためダンスと酒とおしゃべりがメインとされるが、シーナの祖母は大変食べることが好きで、どちらかというと晩餐会のようだったと2人の父が懐かしそうに話してくれた。
「しかし何だな……シーナの料理の腕は、うちの料理長も感心していたよ」
「そうだろう?いつの間に覚えたのか、殿下にこっそり分けてもらった王宮の晩餐のような料理だって作れるんだよ、うちのシーナは」
「まったくすごいな、僕らの娘は!それに今は殿下ではなく、陛下だぞ?」
「あぁっ!そうか…そうだったなぁ。王宮に画家として呼ばれても、いつもあんまり気安いから、つい昔と同じ呼び方をしてしまう……」
「まったくお前ときたら……」
似た顔と笑い方でハッハッハッと笑う父たちは紛れもなく兄弟で、しかも驚いたことに現国王陛下とは幼馴染だという──

「まさかシーナまで、王太子殿下と親しくさせてもらうことになるとはなぁ……」
「さすがにこの子1人で貧民街のあばら屋に置いておくわけにはいかなかったからね……注目されないように髪色も変えたんだけど、いつの間にやら仲良くなってしまって」
「まぁ……さすがに身分差があるから、たとえ親しくされても王太子妃に選ばれることはないだろうが、妃殿下の相談役ぐらいには取り立ててもらえるかもなぁ」
「兄さん!変なこと考えないでくれよ?この子には俺よりも絵の才能があるんだ。この国では女画家として身を立てることは難しいかもしれないが、他国に留学生として推薦してもらえればいいと思っているんだから……」
自分むすめを何だと思っているのか、勝手な将来設計を語る父たちにウンザリしつつも、今日のローストビーフはうまくいったと、シーナは無言で頷く。

この国に某唯一神の生誕を祝うような風習はない。
というかそもそも信仰する神が違うし、しかもその神の誕生日を制定するなどという不遜な考え自体忌避されるだろう。
だが、幸いなことにたまたま今日は母と父が婚姻を決め、後に一人娘の生誕が叶った祝いの日である。
それを知った義父は、子爵家としてはずいぶん大盤振る舞いのお祝いを屋敷で働く使用人たちにまで振る舞った。
それは異性に対して恋愛感情どころか下半身すら反応することができない伯父の──いや義父の、先祖や先代、一族への罪悪感と、思ったよりも姪が可愛いという感情が爆発したものだと、父はこっそり耳打ちしてくれた。

「……だからね、お前はただ愛されていればいいのだよ」
「はいはい」
養女となれば、本来は実の親と会うことなどなくなると思った方がいい。
それなのに身柄を引き受けてくれたのが父の兄で、しかも実父は生きていて、今現在一緒に暮らせている。

双子の兄が同じ世界に転生していたというのは驚きではあったが、嬉しくもあり、そして違う家庭に生まれたという寂しさもあった。
それでも──


私は、幸せだ。


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